16.皇都へ×2
成人の儀を終え、晴れてこの異世界で成人を迎えたその次の日、儂とクロハとミナト殿の三人は皇都への召喚命令を受けてアイシアの街を後にした。
成人の儀を終えた次の日の正午過ぎに出立し、砦を一つ抜け、パールと呼ばれる村にて一泊。
そして、朝早くにパールを後にし、ある程度整備された街道を移動している。
御者台にて馬を操るのはミナト殿で、扱いは手慣れた物だ。
どうもこの男、至る所で有能ぶりを魅せてくれる非常に頼れる存在である。
学があり、頭も良く、そして料理を作らせれば舌を唸らせ、剣の腕もたつ。
儂もここいら周辺は先の戦で任されていた仕事上、少し回っているのだが、言うまでも無く快適度は段違いだ。
全く、ミナト殿様様で、ここまではゆったりとした旅だった。
そして恐らく、この快適な旅はこれからも続くだろう。
「ミナト、今どの辺りだ?」
「そうですね・・・・・・、先に見えるセリヌ川に、日の傾きを考慮して、本日の夕刻には道程の丁度半分程までは進めるでしょう。概ね順調です。日は指定されていなかったのですが、少し余裕を見て後三日程掛かる旨を皇都の方へは伝えております」
「そうか」
クロハの質問にミナト殿がそつなく答える。
儂はクロハの隣に座り、二人の会話を聞きながら馬車の窓から外を眺めていた。
暫く他愛のない会話を続ける二人を余所に、流れる景色を見ながら呆けていると、不意にクロハが儂にもたれかかってくる。
儂の右肩にクロハの頭が乗り、儂はそれをチラリと一瞥した後、また視線を流れる景色へと戻した。
「眠るのか?」
「朝が早かったから眠い」
「ふっ。子守歌でも歌うてやろうか?」
「うるさい」
儂の軽口に一言返した後、直ぐにスースーと言う寝息が耳に届いてくる。
驚く程寝つきの良い奴だ。
「アオイ殿も、どうぞお休みになられてください。次の宿泊予定地まではまだ少しかかりますから」
「すまぬな、では、お言葉に甘えさせて頂くとしよう。ミナト殿も疲れが出たら遠慮せずに言ってくれ。御者を変わろう」
「えぇ、その時はお願いいたします」
ミナト殿のその言葉を聞いた後、儂も目を瞑り、暫しの眠りにつくのだった。
時同じくして、場所は皇都ヴェルリン。
皇都の綺麗に舗装された石畳を、ゆっくりと進む馬車が一台。
その黒塗りの馬車に取り付けられた揺らめく旗には、ある紋章が掲げられていた。
黒く塗りつぶされた十字に、その先端には白い四つの紋様が描かれている。
ハート、クローバー、ダイヤ、スペード。
カード、トランプで御馴染みのその四つの紋様を黒塗りの十字に描く紋章。
それはアリス教国の紋章だった。
その紋章を掲げて、ヴェイリース皇国の首都、皇都ヴェルリンを悠然と進むその馬車は、城までの道程をゆっくりと進み、城門の手前でその進みを止めた。
そして、馬車のドアが開き、降りてくるのは二人の男。
二人の男は全く同じ服装で、造形は司祭服を思わせる白い服に、胸元にはアリス教国の紋章をあしらっている。
服装は全く同じなのだが、唯一の違いは、片方の男はシルクハットの様な黒い帽子を被っている所だろう。
「やれやれ、やっと到着ですか。思ったよりも長旅でしたね、ラピッド君。お尻が痛いですよ」
「全くです・・・・・・、そもそも、マット様があの町で一泊したのが悪いんです。俺は急がなきゃいけないのに、もっと迅速に行動してくださいよ!頼みますから!俺は、急いでるんですよ!」
「やれやれ、またですか・・・・・・。ラピッド君、もう何度も言ったでしょう。そんなに急ぐ事は無いと・・・・・・、そもそも、予定より二日は早いですよ。っと、そもそもアナタが出発を二日早めたんですけどね・・・・・・」
「またそんな事を!俺は急いでるんですって!」
「はぁ・・・・・・、全く、貴方はいつも急いでいますね・・・・・・」
帽子を被った男が城門を見上げながら大きな溜息をつき、その隣ではもう一人の男が、ソワソワと落ち着きなく、足の爪先で地面をコツコツと鳴らしている。
その声と顔立ちから察するに、二十代中盤から後半程で、二人共歳は同じぐらいだろう。
ただし、落ち着きが無く酷く早口で喋るラピッドと呼ばれた男は歳に不釣り合いな程その髪は真っ白だ。
対するもう一人、どこまでも落ち着き払っていてゆっくりと喋るマットと呼ばれた男の黒い帽子から覗いているのは、少し長めの黒々とした黒髪。
見るからにどこまでも対照的な二人と言えた。
二人はほぼ同時に歩きだし、城門の前で止まる。
まぁ、動き出したのは同時だったのだが、ラピッドは酷い早歩きなのに対し、マットは一歩一歩確かめる様な歩き方をする為、到着には数秒の誤差を生じさせているのだが・・・・・・。
「アリス教国から遣わされた、使者でございます!皇帝陛下に、お目通りを!」
「書簡は既に届いているはず!俺が一週間前に届く様に送りました!急いでるんです!!」
「・・・・・・貴方はバカですか?一週間前って、命令を受けて直ぐに送ったんですか?」
「えぇ、任せてください。教皇様の御言葉を受けてその日の夜に書簡を送りました!何せ急いでましたから!」
「はぁ・・・・・・、まぁいいです」
二人の遣り取りの直ぐ後、大きな音を立てて城門がゆっくりと開いていく。
その様を二人は眺めている。
そしてその城門が開ききった時、そこには、誰の姿も見受ける事は出来なかった。
誰が門を開けたのか、そんな疑問が二人の頭を過ぎるが、その答えを見つける事は出来なかった。
代わりに、何処からか聞こえてくるのは、怪しい子供の様な笑い声だ。
それは酷く遠くから聞こえてくるような、不確かな物だったが、確かに二人は同じ笑い声を聞いた。
そして二人はお互いに顔を見合わせ、不思議そうに首を傾げる。
「入ってこい、ってことですかね?」
「きっとそうでしょう。急ぎましょう!」
「はぁ、全く・・・・・・。噂通り、気味が悪い所ですねぇ・・・・・・」
そして二人はまた、でこぼこな調子で同時に歩き出す。
ラピッド・クロックは酷い程の早歩きで、マット・ハッターは、酷い程のゆっくりとした歩調で・・・・・・。
二人は城門を潜り、城内へと歩を進めるのだった。




