15.成人の儀
その日、この世界での成人を迎えた儂は、子供達とクロハ、ユウキと共に儂の実家に集い、成人の儀という大それた名前の誕生会を開いていた。
儂はこの日の為に母が用意したというヒラヒラしたドレスに身を包み、主賓よろしく、皆がバタバタと準備に勤しむ中、椅子に腰かけて暇を持て余す。
最初は手伝おうとしたのだが、いかんせん家事が少し苦手な儂の出る幕は無く、取りつく島もなく丁寧に丁重に母にお断りされ、頼むから何もするなとカエデにツバキにまで釘を刺される始末だった。
少し不貞腐れながら皆が動く様を眺めていた所で、食器を運ぶという仕事を終えたクロハが儂の隣の席へと腰掛けた。
「ふふ」
「何が可笑しいんじゃ?全く、皆儂をなんじゃと思うておる。食器ぐらい儂にだって運べるさ」
「ははっ、いや、そんなに不貞腐れているアオイも少し珍しいから、ついな。まぁ、今日ぐらい、いいだろう?一生に一度なんだ。主賓は主賓らしく、どっしりと構えていればいい」
「ふん、お言葉に甘えさせて頂いておるよっ」
「はははっ、それにしても、アオイのその姿も中々お目にかかれないな。ドレス、というかスカートを履いている姿を見た事がないぞ」
そう言うクロハの言葉に、儂は料理を作っている母をチラリと見た後、少し小声になりながら告げる。
「母には悪いが、ヒラヒラとして動きにくいからのう。正直余り好きではない。それに、これでは戦えんじゃろう」
「はぁ、全く・・・・・・、そういう奴だよお前は」
そう言って溜息をつくクロハに、儂はまた不貞腐れた様に鼻を鳴らすのだった。
それからまた暫く、暇を持て余しながら皆が忙しなく動くのを眺める。
そして、食卓へと次々に運ばれてくる料理が、全て出そろった時には、日が沈みかけた夕刻だった。
手伝いを終えた子供達の相手をしたり、クロハにユウキと話しをしたりで、暇を持て余していたはずが、終わってみればあっと言う間だった。
そして、今現在、食卓へと並ぶ豪華な料理を目の前に、皆其々席へと座り、飲み物の入ったグラスを天に掲げる。
皆が一斉におめでとうという言葉を儂に送り、儂はありがとうと一言、言葉を返した。
そこからは唯々楽しい食事会の様が繰り広がる。
儂にクロハ、そしてユウキ、父に母、それに、5人の儂の可愛い子供達。
この異世界での儂の家族達。
これからもこんな日々がずっと続く等という幻想は持っていなかったが、唯、儂とクロハの血塗られた夢を追う中で、極稀に訪れる陽だまりの様なこの空間が、無くなる事は無いと、この時は信じて疑ってはいなかった。
儂はずっと、この大切な家族達を、守り通す事が出来ると信じていた。
叶うはずのない夢、いや、幻想だとは、この時はまだ・・・・・・。
夜も更け、子供達が騒ぎ疲れて寝静まった頃(ユウキも含む)、父と母も、今日ばっかりは飲み過ぎたのか、酔い潰れてしまっていた。
そんな中、儂とクロハは二人、実家の庭にあるベンチに腰掛け、夜風に当たっていた。
どちらも口を開くこと無く、暫く夜空を眺めていると、不意にクロハが口を開いた。
「そういえば、さっきユーリに興味深い事を聞いたぞ」
「ん?あぁ、そういえば少し二人で話をしておったな。どんな事じゃ?」
「先の戦の時、お前と二人で越えた森の中での事だ」
その言葉に儂は少し目を瞑り、あの事かと当たりを付けた。
「あぁ、妖精の事じゃろう。あれには儂もたまげた」
「妖精?その呼び名は聞いた事が無いが・・・・・・」
「む?そうなのか?ならば、あれは一体何と呼ばれておるんじゃ?」
「まぁ、滅多にお目にかかれる物じゃないが、私も一度、皇都で見た事がある」
「皇都で?そんな人里でお目にかかれるような物なのか?あれは」
「私もそれほど詳しくは知らないが、色々な書物を調べて少しは解った事がある」
「ほう」
「あいつ等には、色々と呼び名がある。書物によって呼び名が違うんだ。あるいは、国によって・・・・・・。死を呼ぶ者、死肉を漁る者、小間使い、使徒、代表的というか、有名な呼び名はそんな所だろう」
なるほど。
戦場のほど近くに現れた事を考えると、前者の二つは納得の呼び名かもしれない。
しかし、後の二つと前の二つでは、共通点というか、似通う所が何一つない。
「何に使わされているんじゃ?」
「さぁな・・・・・・、私も昔調べていたが、解らずじまいさ。神か、悪魔か、それともまた、違う何かか・・・・・・」
「ふふふっ」
「ん?どうした?」
「いやなに、あやつ等が子分だとすると、親玉がおるというのが少し楽しそうな話では無いか」
「ん?そうか?」
「あぁ、楽しみじゃよ。是非ともお会いしたい。そして是非とも、手合わせ願いたい!」
「はっ、怖い者知らずにもほどがあるよ。頼もしい限りだ」
半ば呆れ顔で肩を竦めるクロハを余所に、儂の心は踊る。
「それはそうと、先の戦の褒美が出る事が決まった。来週に皇都へ招かれた。私と、アオイとミナト、三人で皇都へ向かうぞ」
「ほう!それは楽しみじゃ。大乱、先の大戦の生ける英雄と名高い皇帝陛下にお目通りが叶うとは・・・・・・」
「またまた楽しそうで何よりだよ。私は気が重いよ、アレには会いたくない・・・・・・」
そう言って頭を振り、大きな溜息を吐くクロハを見る。
皇帝陛下に向かってアレとは、ずいぶん怖い者知らずな主殿だ。
人の事が言えるのかと言いたいが、言わない。
まぁ、身内の間柄だ。
無礼講という便利な言葉もあるだろう。
それはそうと・・・・・・。
「皇帝陛下はさぞお強いのであろうな」
「ん?あぁ、アレも化け物の類だよ」
「ほうっ!そうかそうか、ならば、手合わせを・・・・・・」
「やめろ」
取りつく島も無かった。




