12.帰路へ
茜色に染まる空を見上げる。
終わってみると、長いようで短い一日であったと儂は一息をついた。
儂は差し出されたビゼン・カミハラの首を手持ちの手拭いで包み、近くの岩に腰掛け、側へと置いた。
投降した兵士達はその場で武器を捨てて座り込んでいる。
その数、15名。
その面々を見渡すが、どの顔色も疲れが滲み、最早動くことも億劫だと言わんばかりであった。
「っと、よっ、とっとっ……、わわわっ」
「これこれ、危ないじゃろう。大丈夫か?ユーリ」
そんな場違いとも言うような慌てた声が聞こえて来る。
儂は声のした方へと視線をやり、今まさに上から下へと儂の真似をして降りてきたユーリへと声をかけた。
少しバランスを崩して尻餅をついたものの、儂についてあの道無き道を超えてきたユーリの軽業は見事な物である事は違いない。
もう少し修行に励めば、儂に並ぶのも時間の問題だろう。
それに、先ほどの戦闘で見せた弓術。
これは儂が修行をつけて間もない頃、遊び半分の目的で弓術を教えた時に発覚した才能であった。
葵流に置いて弓術は比較的基本的な技しか存在しないが、この二年間でその殆どを吸収して見せたユーリの才覚は見事としか言いようがない。
それはさておき、尻餅をついたあと、直ぐに飛び起きたユーリは一目散に儂へと向かって駆けてくる。
そしてその勢いのまま、儂の胸へと飛び込んできた。
「おっとっと……、これこれ、なんじゃいきなり、ビックリするではないか」
「へへへっ、やっぱりアオイお姉ちゃんは凄いや!!僕の動きが何もかも解ってるみたいに動くんだ!」
「ふふっ、そうかそうか、褒められて悪い気はせんが、儂もお主には驚かされたわい。儂の動きをよく見ておったな。初陣とは思えん程見事であった。よくやったのう、ユーリ」
「うんっ」
そう言って儂に抱きつきながら儂を見上げ、ニカッとした笑みを浮かべるユーリの頭を優しく撫でていると、奥から土煙が上がり、段々と近づいてきているのが見て取れた。
儂はゆっくりとユーリを離して立ち上がり、土煙の到着を待つ。
数分もかからずに到着したのは、アイシアの兵を引き連れた我が主、クロハ・アマツキ、その人であった。
そして近づくにつれて速度を落とし、クロハは儂の前までゆっくりとした足取りで馬を進め、地へと足を付けた。
「ご苦労だったな。アオイ」
「なに……、クロハ様の死地に比べればこちらなど、温いほどじゃ……」
「ふっ……、そうでも無いさ。簡単だった、とは言わないが、お前を信じていればこそ、私は迷いなく戦えたよ」
そう言ってニコリと笑顔を見せる少女に、儂の顔もつい綻ぶ。
「勿体無い言葉じゃ。これからも信頼に足る様、精進しよう」
そう告げて差し出すのは、手拭いに包まれたビゼン・カミハラの首。
黙ってそれを受け取ったクロハは徐にそれを開き、確認する。
「確かに、奴の首だ。よくやった」
クロハのその言葉にコクリと無言で頷き、近寄ってきた兵士にその手拭いを手渡した。
「捕虜の者を連行する!拘束のち、それが済み次第直ぐに砦へ帰還する!急げよ!」
後方へと控える兵士達に命令を下したクロハは、また儂の方へと向き直った。
「主戦場もそろそろカタがついている頃だろう。大将が逃げた事で、私が離れた時にはもう既に終わったも同然だったがな」
「まぁ、そうじゃろうな。ネズミも思った通りの働きをしてくれたようで、助かったわ」
「あぁ、お前が見つけた内通者の奴か……。直ぐに締め上げるより、有意義に働いたな」
「そうじゃな。部分的な情報漏えいには気を使ったが、うまくいって良かったのう」
そう言って二人で笑みを零す。
「さて、私は指揮に戻る。お前の子供達も見事な働きだったぞ。お前達は後方からゆっくり来い」
「ほう、そうかそうか。まぁ、なんせ儂の子じゃからのう。当然じゃ」
「ふっ、親バカめ!」
そう言った後、クロハは颯爽と馬に乗り、兵士達のほうへと駆けて行った。
そして、ゆっくりとした足取りで儂に近づいてくるのは、儂と同じ忍び装束に身を包んだ二人の少女。
カエデと、ツバキだった。
「お主たち、よくやった」
「うんっ」
「はいっ」
手の届く距離まで近づき、止まった二人に声をかけると、パッと顔が輝き、元気な返事が返ってくる。
その返事に儂は笑みを零し、優しくその頭を撫でた。
二人は顔を見合わせた後、二人はほぼ同時に儂へと飛びついてきた。
儂はそれを喜んで受け止め、優しく頭を撫で続ける。
「怖くは無かったか?」
「う~ん、少し、怖かったかな?」
「あらあら、ツバキちゃんたら、ウソばっかり。全然平気そうだったじゃない。お姉ちゃんに甘えたいだけでしょぉ」
「そっ、そんな事……」
「はいはい!私は怖かったよぉ。お姉ちゃん、慰めてぇ」
「カエデこそ!うそばっかり!!ニコニコしてた癖にっ!!」
「はははっ、これこれ、喧嘩するでない。まったく、頼もしい限りじゃな。さて、そろそろあちらも終わった様じゃ。帰るとするかの、儂らの家に」
「「うんっ」」
儂の言葉に二人の返事が重なった。
こうして、戦は終わり、儂ら4人は行軍の後ろへとつき、ゆっくりとした足取りで帰路へとついたのだった。




