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転生異世界忍法帖。  作者: 熊田猫助
二章「戦乱と血塗れた夢」
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4.二年越しの戦火3

「さて、カミハラのお爺ちゃんはどう出てくるか」


軍議室として使用されている砦の中の一室、そこに用意された円卓に腰掛ける数名に対し、カオル皇子が口を開いた。

それに答えるのは、カオル皇子の隣に座るクロハの右後ろに立っているミナト殿。

儂は左後ろに立ち、カオル皇子をチラリと見た後、席に座る面々と同様にミナト殿の方を見やる。


「では私から現状の説明を。カミハラ卿は、昨日この砦から東に進んだ位置にあるウールの街を占拠した後、一度動きを止めました。恐らくは昨日、夜間まで降り続いた雨を嫌がり、慎重になった物かと思われます。ウールの街からこの砦までは凡そ半日程の距離……、そのままの足で進軍されていれば援軍は間に合わなかったでしょうが、幸い、こうして此方も戦力を整える事が出来ました」


「ふぅん。……恵みの雨、か」


そう告げたカオル皇子はチラリと儂とクロハの順に視線を向け、直ぐに逸らした。

その視線の意味は測りかねたが、まぁ彼の心中など儂には知る由もないし、さして気に留める必要はないかと儂も目を逸らす。


少しの間を置いて、ミナト殿が言葉を続けた。


「それであちらの動きですが、現在進軍の準備を整えているとの情報が。早くて明日の明朝には此方へ向けて動き出すかと思われます。あちらの兵力は現在4500程、対して、此方の兵力が先程到着された援軍4500に駐屯兵団、自警団、合わせて約5000と言った所でしょうか」


「ふぅん。……さて、周辺地図はあるかい?」


「はっ、ここに」


ミナト殿がカオル皇子の問いに答え、即座に地図を卓上へ広げる。


カオル皇子は卓上に広がる地図を見ながら、トントンと机を指先で叩く。

暫く皆押し黙ったまま、部屋には指先で机を叩く音だけが響いていた。

そして不意にスッとカオル皇子の腕が伸び、地図のある一点を指さし、皆がそれに注目する。


「ここかな。明日此方も明朝に軍を出す。カミハラのお爺ちゃんも動いたとして……、かち合うのはここだろう」


指差された場所。

それは両側が切り立った岩肌が露出した谷底で、この砦とウールの街を一直線で結ぶ線上の大凡中央付近に位置していた。

狭い、とは言わないが、ある程度横の広がりを制限されるその場所では数の利はそれ程優位には働かないだろう。

数はほぼ拮抗しているため、あえてココを選ぶ必要も無いが、ウールからこの砦までの最短距離を考えるとこの進路になる。

この谷を避けるルートは、谷上の道無き道を進むか、北へ迂回して山を何日もかけて超えるか、南下して大河を下りヴェイリース皇国の首都付近を経由するか。

どれも現実的とは言えない。


「はい、おそらくそこになるでしょう」


「……ここなら正面衝突だな。策を練るにも、たかが知れてる地形だ」


場は少しざわつき、直ぐに止む。

皆、意義は無いようだった。


「よし、皆明日に備えて今日は休め。軍議はこれで解散とする」


カオル皇子の言葉に皆一様に御意と一言。

ぞろぞろと退出していった。

そして残るのは、クロハに儂とミナト殿、カオル皇子の4人がその場に留まっていた。

誰が言葉を発するでもなく、暫しの静寂の後、不意にカオル皇子が立ち上がり、カツカツと言う靴音が部屋に鳴り響く。

ゆっくりと此方へ近づき、儂らへと向かって笑顔を向けてくる。

その顔は貼り付けられた作り笑顔とは違い、何処までも無邪気な笑顔だった。


「いい事を思いついたんだ。クロハ、一つ賭けをしないかい?」


「賭け、ですか?」


「あぁ、どちらが、先に、カミハラのお爺ちゃんの首を取るか……」


「……何を賭けられます?」


「そうだなぁ……、シンプルに負けた方が勝った方の言うことを何でも聞く、っていうのはどうだい?」


「……いいですよ、乗りましょう」


「ははっ、えらく簡単に乗ってきたね。いいのかなぁ?勝算はあるの?」


「さて、どうでしょう」


「ふぅん、退屈な戦に楽しみが出来てよかったよ。ちゃんと言うことを聞いてもらうよ?やっぱり無し、冗談でしたとは言わせないよ?」


「えぇ、私は冗談が通じぬ方なので勿論約束は守ります。カオル兄様も、勿論守って頂けますよね?」


「はははっ、勿論だよ。知らなかったかい?僕も、冗談は嫌いだからねぇ」


そう言い残し、心底楽しそうな笑い声を上げながら、カオル皇子は部屋を出て行った。

儂らはその後姿を見送り、その場に残った三人の溜息が合わさった。


「軍議らしい軍議では無かったのう。作戦等は本当に無いのか?」


「あやつは策等練る男では無い。脳まで筋肉で出来ているからな」


「そんな馬鹿な。仮にも一軍の将だろう?」


その儂の言葉にクロハはチラリと儂を見た後、あからさまに深い溜息をつく。


「あぁ、一軍の将だ。その武力のみで武功を上げ、登った化け物だよ。あいつは」


「ほう、……それはそれは、一度手合わせ願いたい物じゃのう」


「……あやつの子飼いの兵、近衛隊に、カイ将軍、共に化け物揃いだ。近衛隊は百名程だが、其々が雑兵百人に値する武力を誇る。ヴェイリース皇国の一番槍、金色の戦鬼」


「……明日が楽しみじゃのう。その戦ぶり、見せてもらおうか」


「まぁ、それはそれとして、此方は策を練らん訳にはいかん。此方も無策ではあっという間に賭けに負けてしまう」


「そうじゃのう。……また可笑しな事を言い出した物よ。……それで勝算はあるのか?」


「……勝算は、五分五分と言った所か。……またアオイに頼る事になりそうだが」


「構わん。儂の力はお主の力と同義。儂を使うに躊躇はいらん。好きに使え」


「……頼りにしている」


そうして、暫く軍議室で地図を広げ、明日の戦に向けての準備に勤しむ儂らであった。

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