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転生異世界忍法帖。  作者: 熊田猫助
二章「戦乱と血塗れた夢」
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1.平穏な日

「……ちゃん!!アオイお姉ちゃん起きて!!」


「む……うー……うーん、ツバキか……」


まだ寝足りない気持ちをグッと抑えつつ、布団から這い出る。

ぐぅっと伸びをした所で、シャッと一気にカーテンを開ける音が部屋に響き、そちらを見るとエプロン姿のツバキが窓を開け放った所だった。

暖かい日差しと、心地よい風が部屋へと入ってくる。


ポリポリとお腹を掻きながらアクビを一つした所で、ツバキがプクーっとその頬を膨らませているのが目に入る。


「もー!お姉ちゃん!だらしないですよ!!……あっ髪もまたっ……ボサボサ……」


そう言いつつハーとあからさまな溜息をつくツバキに、儂はポリポリと頭を掻きながら少しの言い訳を。


「仕方なかろう……、昨日は夜が遅かったんじゃ」


「遅くなくてもいつもボサボサじゃないですか!!」


そう言われると何も言えない。

髪などどうでもいい儂にはクロハやツバキの言葉が正直面倒臭い。

儂はわかったわかったと軽い返事を繰り返しながら着替えを済ませ、食卓へと向かう。

食卓に腰を下ろすと、そこらへ散らばっていた儂の家族達がバタバタと周りへ駆け寄ってくる。

まず一人目がおはようと言いながら儂の背中へと乗りかかってくる。

わんぱくで元気な男の子、ユーリ。

そして二人目もおはようと元気良く挨拶しながら儂の膝の上へと乗ってくる。

いつもニコニコと活発で、甘えん坊な女の子、サクラ。

そして最後に三人目が二人に遅れを取り、儂の傍まで寄ってきた所で涙目になっている。

寂しがりで泣き虫な男の子、レン。

儂はレンの頭を一番に撫でてやり、続いて膝に座っているサクラの頭を撫で、最後に後ろ手にユーリの頭を撫でた所で、おはようと返す。


「こーら!三人共!!それじゃお姉ちゃんがご飯食べられないでしょ!!ほら、もう出来たから運ぶの手伝いなさい!!」


「はーい」


食卓の奥のキッチンからかけられた声に三人の返事が重なり、三人はパタパタと儂から離れて手伝いを始めた。

そしておはようと儂に言いながらヒョコッと顔を出したのは、茶色がかった髪を後ろに縛り、ツバキと同じエプロン姿のカエデだった。

今はツバキとカエデの二人で家事全般を引き受けてくれている。

正直、儂は家事が苦手であったのでありがたい。

最初は儂がやっていたのだが、仕事で留守にする事も少なくなく、儂の料理の酷さや、その他の家事でも雑さが目立ち、カエデとツバキの二人が率先して家事を覚えてくれたという訳だ。

子供らを引き取って早二年が立つ。

時が立つのは早い物だな等と用意が進んでいく朝ご飯を眺めながら思う。

そこへ儂の部屋から溜まった洗濯物を両手に持ったツバキが儂に文句を言いながら出てくると言ういつもの朝の光景。

この二年で随分と家族らしくなった事に笑みが零れるのだった。


そしてみんなが揃った所で朝ご飯を頂き、皆で後片付けをした所で外へと出る。

今儂達が住んでいる家は、クロハの屋敷の庭の中にあり、隅っこの方に放置されていた倉庫を改造して使わせてもらっているという現状だ。

子供達を引き取り、クロハに正式に抱えられたという事で儂は家を出ることにした。

初めは両親共に反対されたが、この世界での成人は一五歳と早く、まぁ一二歳だった儂は更に早いが、仕事も決まっていた為に渋々了承を取り付けたという訳だ。


閑話休題。


そして家の外へと出た所で、儂と向き合う形で皆が一列に並ぶ。

並び終えた所で、皆が儂に向かってペコリと一礼。

今日も日課としている修行の始まりだ。


まずは準備体操もそこそこに、葵流の型稽古へと入っていく。

皆筋がいいとは嬉しい誤算だった。

まぁそれぞれに向き不向き、得手不得手はある為、体力や筋力の強化から基本となる武術等の基礎が終わればそれぞれ個別に修行を開始する予定である。

ゆっくりと時間をかけて型稽古をした後は儂との総当りで組手が開始される。

それが終わればその後は子供達だけで総当りで組手を開始する。



無手、素手で武器を持つ者を討つ事を信条とし、己が手、肉体を持ってして相手を屠る事に喜びを感じる。白刃飛び交う戦場で、武器を持たずに相手の懐へと飛び込む無謀とも取れる勇を持った馬鹿者。

そんな奇特な者で無ければ儂と同じ葵流の正式武術を使う事は出来ないだろう。

幼少より訓練を受けているならばまだしも、ついこの間まで普通の暮らしをしていた子供達にそのような異常な資質を望むのは無理と言う物。

基本の型だけであれば、それは前世で言う古武術等と大差はない。

これから先、修行をつけていく中で、もしもこの中にそのような異形の資質を持つ子が居れば、前世で一度は系譜を断つと決めた技ではあるが、余す所無く伝えよう。

そんな自分の中のものさしを思い浮かべながら子供らの修行を見る。


そして五人の内のある一人に目が行く。

どうしても気になってしまう。

五人の子供達の中で唯一人異彩を放つ才、天に愛されているかの如く持って生まれた物が平凡と言う物を軽々と凌駕している。

儂のもとに来なければ、村が平和であったなら、その才は埋もれていたのかもしれない。

その子に対する儂の期待値に、いやまて、と頭を振る。

例えその才が非凡であろうとも、その才を振るう者の心がそれに比例しているとは限らない。

どれほどの能力を持っていようとも、それを振るう意志と覚悟が無ければ持っていないのと同じ事。

儂は自分にそう言い聞かせ、胸の内へと仕舞いこむ。

いずれにしろ、まだ時が早過ぎる。

皆まだ幼く、未熟。

今はまだ、その花が蕾から開く、その時を待つしか無いのだから。



組手が終わると、時間はちょうど昼前程になっている。

昼食の準備に取り掛かるカエデとツバキは家の中へと戻り、後の三人は好きに遊んでいる。

そして儂はというと、前日の仕事の報告の為にクロハの元へ。

儂が報告を終えて帰ってくる頃には、昼食の準備も終わり、皆でまた食卓を囲む。


例え血の繋がらぬ家族とは言え、そこには確かに家族としての絆があった。


儂は一時の平和な日々を満喫する。


儂は少しでも長く、この緩やかで平和な時が続くよう願うのだった。


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