終章.「遠い夢」
それは遥か遠い過去の夢かもしれないし、それは遥か遠い未来の夢だったのかもしれない。
今儂は夢を見ているのだろうという自覚はあるが、恐らく目を覚ました時、儂はこの夢を覚えてはいないだろう。
最早何度目かもしれない夢の続きを、儂はずっと見ている。
目を覚ますと覚えていないのに、夢の中に入ると覚えている。
不思議といえば不思議なのかもしれないし、夢なんてそんな物だと言われればそうなのかもしれない。
儂はいつも通り、戦場を見下ろす切り立った岩山の上に立っていた。
その隣には、黒い馬に跨る戦姫。
所々の隙間から覗く銀色の髪。
辛うじて銀色なのだろうと解るその髪はどこまでも赤い赤い返り血で染まっている。
最早赤髪と言っても過言では無いかもしれない。
そして、身に纏う鎧もまた赤く赤く、隙間から覗く原色は恐らく白であろうか。
真っ赤な血の色の瞳を持つ黒馬は、ブルルルッと音を上げながらその口から滴るのはまた、赤い赤い血であった。
その姿は戦姫と呼ぶには些か血に濡れすぎている。
その姿は覇王か、はたまた魔王と呼ぶべき姿だった。
隣にいる儂は、紺色の忍び装束に、異形とも呼ぶべき籠手を身につけ、対照的に衣服や髪等には返り血一つ浴びる事無くその場に立っている。
腰に帯びた短刀を締まっている鞘からポタリと赤い雫が落ちる。
異形の籠手からもまた、ポタポタと滴るのは、赤い赤い雫であった。
これはこれから歩む血塗られた道を示唆しているのか。
ただの夢だと言われればそれまでであろう。
どうやら二人は戦場を目下に置きながら会話をしているようだが、その言葉は聞き取れない。
口だけがパクパクと動き、どこか間抜けにも移る様であった。
そして、儂の隣の戦姫は儂に向かって笑みを浮かべる。
その笑顔はどこまでも幼く、何処までも無邪気で、人好きのする、子供のような笑顔であった。




