終章
初陣から一年が過ぎたとある日、儂は領主の屋敷、クロハの自室に通されていた。
クロハは自分のベットの上に腰掛け、儂は椅子へと座り、向かい合っている。
「それで、ヤツの動向は?」
「今のところ、動きは無いようじゃのう」
クロハの言葉に、答えを返す。
「私兵を集めているという噂がたってから半年近くがたつが、表立っての動きは無い」
「先の戦の首謀者もあの男である事はもう明白だ。しかしまぁ、バレてからの動きが不自然な程早かったな。まるで此方の動きを知っていたかのように……」
「内通者の線はある。しかし誰かはまだ検討がつかん。バタバタしておったし、そこまで気が回らなんだわ。儂もまだまだ未熟……許せ」
「アオイは良くやっている。気にするな。しかし、姿を眩ませてから一年か……、そろそろ動きがあってもいいが、どうやら奴も余程慎重に事を進めているらしいな」
「先の戦で捕らえた兵も殆どが自国のならず者共とは、頭が痛い事よ。しかし、唯の内乱というわけでもなさそうじゃがな……」
先の戦で捕らえた敵兵の数は二十四人。
内二〇人は自国のならず者共であった。
そして残りの四人は儂と一騎打ちを行ったグダンの部下で傭兵との事であった。
グダンの側近であった者の証言により、判明した前領主の関与。
判明するより前、否、戦が始まった直後には最早前領主邸は既にもぬけの殻だったという現状。
そして彼を探し出し、動向を探り、できることなら確保をという命令を受けているのだが、成果は上がらぬ状況だった。
彼は上手く行方を晦ませ、表には出ずに事を進めているのか、噂から噂へと渡り歩くが、一向に見つからない。
暫く二人共口を開かず、沈黙を続けていたが、クロハが先に口を開いた。
「まぁ、相手が姿を出さねば此方からは動けない状況だ。暫くは今のまま調査を続けてくれ」
「承知した。……で、内通者の件はどうするんじゃ?そちらも調べるか?」
「……お前の事だ、聞くまでもなくある程度は調べているんだろ?任せるよ」
「……まぁ、まだ確定という訳ではないが」
クロハの任せるという言葉に、儂は暫し考える。
クロハが探せというならば、ここに突き出してもよかったのだが、任せるというのならば、泳がせるのも手かも知れない。
今ここで犯人を上げても、それが前領主へと繋がるかと言うと、それは可能性が低すぎる。
泳がせ、尻尾を掴むか、偽の情報を掴ませ、相手を撹乱するか。
うむ、泳がせた方が此方の利になる算段が高いだろう。
「……お主が任せるというのであれば、任されよう」
「あぁ、好きに動け」
ここで仕事の話は終わり、さてとゆっくり椅子から立ち上がった所でクロハが思い出したように口を開く。
「そういえば、あの子らは元気か?」
「ん?あぁ、儂の子供達か。元気、じゃな。そりゃぁもう、皆馬鹿みたいに元気じゃ」
笑みが零れる。
儂の修行にも弱音を吐かずに皆ついてきている。
農作業の手伝い等で鍛えられていたからか、ツバキとカエデの基礎体力は及第点で、武術のほうも筋はいい。
残る三人はまだ遊びながらではあるが、一人、天賦の才を感じさせる逸材が。
先が楽しみで仕方がない。
「ふんっ、顔がにやけてるぞ。アオイ」
「お、そうか?……なんじゃ、ヤキモチでも焼いておるのか?」
「ばっ、……馬鹿を言うな。……お前は、私のさ。今も、これからも、ずっと、そうだろう?」
少し小声になり、クロハはうつむき加減で儂を見ながらそう告げる。
「……あぁ、そうじゃな。そうじゃとも。儂が選んだ、クロハ、お主こそが儂の生涯の主君じゃよ。儂はお前の物じゃ」
そう告げた儂に、クロハの顔がパッと輝く。
人好きのする、無邪気で、何処までも幼い、子供のような笑顔を浮かべるクロハに、儂も笑みを返す。
才はある。
器もあるだろうと思う。
しかし、どこか危うい気がする。
何故か胸の内に不安が過る。
しかし、儂はこの時はさして気に留める事無く、この時感じた一抹の不安は、胸の奥深くへ仕舞いこむのだった。
遅くなりましたorz
遅筆で申し訳ないです。
ブックマークしてくださった方、読んでくださっている方に感謝を。
少しでも楽しんでいただければ幸いです。




