18.夜襲と救出
夜も更け、深夜と言って差し支えない時刻、儂とクロハの二人は戦の準備を整えた後、アイシアの南東出入口に立ち、兵士の到着を待っていた。
隣にいるクロハを見る。
白と言うよりは銀色に近い長髪に、白銀の鎧を身に纏い、腰に帯びるのは装飾も控えめな実用性重視の細剣。
大きく青い両の眼は先程から閉じられたまま、何かを考えているのか、心の準備をしているのか、どっちとも取れるが儂の知るよしは無かった。
儂も特に口を開く事無く、暫しの時間が流れ、ようやくミナト殿と兵士達が到着し、出発となった。
先頭を行くのは儂とクロハとの二人で、後ろに兵団長、ミナト殿、そして兵士達が60名と続く。
山道を暫し進んだ所で、敵のキャンプ地の物と思われる明かりが目につき、それを確認したクロハは右手を小さく上げ、後ろの兵士達を止める。
「あれだな……、ミナト、それとイリサワ殿」
「はい」
「おう」
クロハが後ろを振り向き、直ぐ後ろを進んでいたミナト殿と、兵団長であるマサキ・イリサワ殿を呼ぶ。
二人は返事をした後、直ぐに儂ら二人の近くへと寄って来た。
クロハはその二人の顔を交互に見た後、口を開いた。
「まずはイリサワ殿、当初に話していた通り兵の編成を頼む」
「承知」
クロハの言葉にイリサワ殿はコクリと頷き、直ぐに後ろの兵士達のほうへと駆けていった。
「ミナト、お前も予定通り兵を率いて指揮に当たれ、隊長クラスはお前が相手をしろ」
「はいはい、了解ですよ」
軽い感じで返事をしたミナト殿もまた、兵の方へと駆けていった。
兵士が六〇名、団長に副団長二名、クロハにミナト殿に儂の三名の総勢六五名が儂らの兵力だ。
対して相手は、指揮系統の人数に兵士を合わせてお凡そではあるが一三〇名と言った所だろう。
殆どが寝静まり、油断しきった相手に対して行う作戦は、兵を一〇名ずつ、六つの隊に分け、テントの各個撃破。
一〇名という人数では小さいテントには入りきらない為、箇所箇所で更に五名ずつに別れて任務に当たる。
騒ぎが大きくなる前に半数以上は減らしておきたい所ではあった。
寝込みを襲うという事で、最初が肝心である事は間違いがない。
そこで儂が目をつけた場所は潜入の際にも選んだ東寄りのキャンプ入り口。
見張りが一人しかいない点と、後方に敵はいないと油断している所から最適と言えよう。
そして兵の編成も終わった所で、東の入り口までまた移動を開始。
到着した所で、儂とクロハは目配せし、儂はコクリと頷く。
儂は一人少し隊と離れ、見張りが立つ場所が見える所まで移動し、木の影から覗きこんだ。
ここで儂は頭を抱える。
どうやら交代か何かか、一人しか立っていなかったはずが何故か今は二人の姿が見て取れた。
二人は話し込んでいるようで、一向に立ち去る様子はない。
儂は意を決して行動に移る事にする。
ここで時間を取られる訳にはいかなかった。
儂は籠手に忍ばせた棒手裏剣を二本取り出し、一本を構える。
暫しの集中。
一本は命中させる自信がある。
しかし連打ちとなるとどうだろう。
自信が無い。
頭の中でイメージし、コレしか無いかと目を見開いた所で儂は棒手裏剣を見張りの一人に目掛け、打った。
それとほぼ同時にもう一本の棒手裏剣を右手へと持ち替え、走る。
走り出して数秒という所で先程打った棒手裏剣は横を向いて話込んでいた見張りの片割れの側頭部へと吸い込まれた。
不自然に見張りの頭が横に揺れ、倒れた所で、もう一方の見張りは疑問の言葉と一緒に側頭部に深く突き刺さった棒手裏剣を見つける。
「お、おい?どうした?……なんだこりゃ」
少ししゃがみかけた所で、走り寄って来る儂に気付いたが、もう遅い。
儂は飛びかかる様に男に襲いかかり、その喉元へと手に持つ棒手裏剣を突き立てた。
「なっ!なんっ!……かっ!……ごぶっ」
少し声を出されたが、即座に左手の平で相手の口元を塞ぎ、気道を塞ぎ、声を殺す。
暫しの間暴れる様な素振りを見せたが、物の数秒で相手の息の根は止まった。
儂は動かなくなった相手から手を離し、喉元に深く突き刺さった棒手裏剣を引き抜き、ふぅと息を吐いた。
ゆっくりと立ち上がった儂は顔にかかった返り血を拭い、後ろへ手招きを送る。
少しの時間を空け、直ぐにクロハや兵達がここへと到着した。
「良くやった、アオイ」
「見事」
「すごいですねぇ、アオイ殿」
三者三様に儂へと声をかけ、直ぐに行動を開始した。
「よし、皆手はず通り行動してくれ。一人に一人で当たるなよ、必ず二人以上で当たれ。迅速に、確実に、息の根を止めろ。散!!」
クロハの言葉に皆が頷き、バラバラと敵のキャンプ地へと踏み込み、散っていった。
最後の隊がキャンプ地に入った所で、残った儂は別行動を開始した。
目指すは、捕虜の囚われたテント。
位置はカエデに聞いて把握していた為、迷う事無くたどり着くことが出来た。
儂はテントの入り口をそっと空け、中を伺うと、隅の方で寄り添う様に寝ている子供が三人。
そして中央付近に、大口を明けて寝ている男が一人とその隣に裸の女の子が一人。
怒りを表に出さぬ様に深呼吸をした所で、キャンプ地の至る所で悲鳴が上がり、少しずつ騒ぎになりだしているのに気づく。
儂も迅速に行動する必要がある。
外の騒ぎに大口を明けて寝ていた男に動きが出たのを確認し、即座にテントの中へと踏み込んだ。
入ってきた儂に気付いた男が慌てた様子で立ち上がりかけた所を、儂は男の顔を目掛けて思い切り足を振りぬいた。
「ギャッ!!」
短い悲鳴を上げてテントの端へと転げる男に走り寄り、その顔を思い切り踏みつける。
前歯が折れ、鼻血が吹き出る。
顔を抑えて転げ回っている男を睨み、目を冷まして怯えている子供と、裸で震えている女の子を見る。
また怒りが湧いてくるの感じる。
儂は棒手裏剣を籠手から取り出し、儂が余所見をしている間に少し離れた所で立ち上がろうとしていた男を目掛けて打った。
儂の手から離れた棒手裏剣は、男の目に深く突き刺さり、立ち上がろうとした男は最早立ち上がれず、糸の切れた人形のようにその場で崩れた。
儂は口元を隠していた布をグイと引き下げ、ふぅと息を吐き、未だ隅の方に固まって震えている子どもたちの方へ歩み寄る。
恐らく他の子供達より年上であろう裸の女の子は、三人の子供達を抱き抱えるようにし、儂の方を気丈に睨んでいる。
儂は極力柔らかく微笑み、子供達の前でしゃがむ。
「もう大丈夫じゃ。儂はカエデに頼まれてお主達を助けに来た」
そう告げると、安心したのか、子供達は涙を流しながら儂の傍へと走り寄ってきた。
一人一人の頭を撫でた後、服を着終えた女の子に手を差し伸べると、恐る恐る握り返してくる。
小さい手。
この手を守りこそすれ、傷つける等正気の沙汰ではないと思った。
儂は優しく引き起こし、女の子を抱きしめる。
「遅れてすまん。この子らを守ったのだなお主は……、偉かったのう。……すまん、もう少し早く、儂が来ていれば……」
「……」
突然の事に驚いたのか、暫しの沈黙が流れる。
そして次の瞬間、女の子は抱きしめる儂に手を回し、儂の胸に顔を埋めて泣き出した。
暫くの間、儂は声も無く泣いている女の子を抱きしめたまま、背中をさするのだった。




