12.修行中2
儂がこの異世界で気がついて五年余りの歳月が流れた。
儂は日課となっている鍛錬に励む為、森の開けた場所、威厳のある大樹が聳え立つ修行場にいつも通り足を運んでいた。
午前の冷たく澄んだ空気を肺いっぱいに吸い込み、ゆっくりと吐き出す。
どこからともなく聞こえてくる鳥の声と思しき物を聞きながら、儂は構えを取る。
ゆっくりと、ひたすらにゆっくりと、一つ一つの動作を確認する様に技を繰り出す。
前世で鍛えた技を、現世での新しい体へと染み込ませる作業を黙々と続ける。
いくら頭で覚えていようと、体が覚えていなければ精度が落ちるのは明白。
数年に及ぶ修行の末、大凡の形にはなってきたが、まだまだ足りない。
一通りの型をやり終え、儂は一息つこうと服の裾を持ち上げて額を拭う。
と、ここで後ろからパチパチと言う手を叩く音が聞こえてくる。
振り返ると、そこにはクロハとユウキが地べたに腰を降ろしてこちらを見ていた。
「いつ見ても見事だな。アオイの技はとても綺麗だ」
「いや、まだまだじゃ。もっともっと精錬せねば……、それにしても今日は早かったのう」
「ん?あ~、今日はアイツが私用でいないからな。アイツ抜きで私が使用人ごときに捕まるか」
「アイツ?……あぁ、ミナト殿か。先日頂いた菓子はうまかったのう。また食いたいものじゃ」
「菓子?あの甘ったるい黒いやつが中に入った白いやつか?!かー、あんなもんがまた食いたいなんてアオイの気が知れない」
「そうか?何とも上品な甘味で、うむ、見事としか言い様がない味であったぞ。儂の拙い説明であそこまで見事にまんじゅうを再現するとは侮れん男よ」
「はぁ、どこで食ったんだか、あんな甘いだけの菓子……。それよりも……」
「む?なんじゃ?」
小首を傾げる儂に、クロハは先程から無口なユウキをチョイチョイと親指で指差す。
「そろそろ服を下ろせアオイ。さっきからユウキがお前のヘソを凝視してるぞ」
「はっ、そんな事いつも通りの事であろうよ。マセた子犬め」
そう言って服を降ろし、あっと小声を出すユウキに儂は近づき、デコピンを食らわしておく。
いたっと短い悲鳴を上げて転げるユウキに、儂とクロハは笑う。
「むー、痛い……」
「自業自得じゃ。して、あれは出来たのか?ユウキよ」
「あっ、うん!これ!」
そう言って取り出したのは、先端を鋭利に尖らせた棒状の鉄。
棒手裏剣と呼ばれる代物であった。
儂は手渡しでそれを受け取り、眺める。
重さは、少し軽いが、長さは、儂の言った通り。
尖端も申し分ない。
「うむ、概ね合格じゃ。ありがとう、ユウキ」
「へへへっ、次は何をつくろうか!剣?剣つくろうか?剣がいい?」
「ふっ、剣はお主にはまだ早かろう。そうじゃな……、暫くはこれでよい。お主はお主で修行に励め」
「むー、解った。他の人に頼んだりしたらダメだよ?父ちゃんでもダメだよ?」
「心配せずとも、いずれお主に頼む。それまで腕を磨いておれ」
口を膨らませるユウキの頭を撫でると、ユウキは擽ったそうに笑う。
その光景を眺めていたクロハは、少し面白く無さそうに頬杖をついていたかと思うと、儂が手に持つ棒手裏剣を指さして口を開いた。
「本当に中がいいなぁお前たちは。なぁ、アオイ。それは何に使うんだ?何するにもそれじゃぁ小さすぎるだろう」
「む?あぁこれか、これは投擲用の武器じゃ。手に隠し持って使ったりもするがの。儂は後者で使う事が多いが……」
「ふーん……、鎧を着込んだ連中に、そんな物が効くのか?不思議な奴だな、アオイは」
「ふっ、不思議とはお主に言われたくはないが、そうじゃな、相手が鎧を着込んでいたとしても、……ようは使い様というやつよ」
そう言って笑う儂に、クロハは儂に苦情の声を上げる。
「私のどこが不思議ちゃんだ?私は唯、人より目と耳が良いだけだ。不思議なのはアオイのほうだ。その武器にしても、使う技にしても、拳を使う技など聞いたこともないぞ。アオイが考えたのか?」
儂を知ると当然出てくる疑問ではあるが、転生がどうのという説明をしても信じてもらえるとは思えない。
さてどうした物かと考えるが、適当にごまかす他ないかという事しか思い浮かばなかった。
「うーむ、そうじゃな。生まれて後、何故か儂の頭の中に技も武器もあった。そうとしか言えんな」
「ふーむ、まぁ、アオイの頭の中にしかないのなら、それはアオイが考えたんだろう。よくわからんが、やはりアオイは不思議ちゃんだな」
なんとか納得したのか、そう言ってクロハは儂を見て笑う。
「さて、そろそろ腹が減ったのう。昼飯でも食べに戻るか。お主らも食べてゆけ。儂が作るわけではないが」
「おぉ、ならお言葉に甘えてお邪魔するか」
「僕もお腹すいたー。ペコペコだよ」
そして儂らは昼ごはんが待つ我が家へと向かうのだった。




