10.騒動の後
パレードの騒動から一夜明け、いつも通りに読書をしつつ過ごす儂の午後を邪魔するのは、いつも通り、ユウキであった。
「アオイちゃん!!」
トタトタと軽い足音を響かせて部屋に飛び込んでくるユウキに溜息をつきつつ、何事かと尋ねると、切れた息を整えたユウキがゆっくりと口を開いた。
どうやら先の騒動を起こした男が、今日の夕刻、広場で処刑されるらしい。
それを聞いた儂は少し物思いに耽る。
あの阿呆の自業自得とは言え処刑とは、逃してやっても良かったかと同情する。
儂も関わりを持った以上、事の顛末ぐらいは見届けようと用意を始めると、それを悟ったユウキはそそくさと部屋から出ようとする。
そのユウキを儂は呼び止めた。
「ユウキよ。お主は来るなよ。処刑など見て面白い物ではないぞ」
「えー、でも、アオイちゃんは行くんでしょ?」
「儂はいい。お主は来るな。解ったな?」
「むー、わかったよ。じゃぁ僕帰るね……」
儂の強い口調に、ユウキは渋々と言った様子で部屋を後にするのだった。
そして用意を終えた儂は街の広場へと向かう。
少し足取りは重いが、致し方がない。
広場へと到着するとそこには処刑台と思しき物があり、その周りには人集りが出来ていた。
昨日のパレードとは打って変わり、暗い空気がそこには立ち込めていた。
儂は人集りを縫い進み、最前列の後ろへと進んだ。
そして暫くして、後ろ手を縛られた件の男と思しき者が、屈強そうな大男に連れられて処刑台へ上げられる。
その屈強そうな大男は不気味な空気を漂わせる男で、布の袋を被って顔を隠し、その袋には目の辺りに二つ穴を明いている。
その二つの穴から除く大きな瞳は、暗く濁っている。
布の袋越しにくぐもった声で大男が、罪人となった男へと声をかける。
「言い残す事はあるか?」
「はっ、血に狂った狂皇が!地獄に落ちろ!!」
男は正に処刑されようとしているこの場でも、悪態をつくのをやめなかった。
一体何がそれ程気に入らないのか、儂には理解が及ばない。
「……それで、終わりか?」
自分で聞いておいて、男の言葉などどうでもいいという風に又くぐもった声を出す大男は、ゆっくりと手にした大斧を振りかぶる。
その光景に、男にほんの少し焦りの色が浮かぶが、直ぐにまた何かを奮い立たせるように顔を上げ、言葉を続けた。
「くそがっ!!聞け!!お前ら!!俺の死に様拝みに来た糞共!!いずれこの国は滅ぶ!!皇都を見ろ!!血に濡れた禍々しい皇都を!!その皇都に住まう狂った皇族共を!!天主様は全てを見ておられるのだ!狂皇の蛮行を!!貴様ら愚かな民が許しても!!天が許しはしない!!例え死しても我が魂は天と共にある!!教王様と共にっ……!!」
ダンッ!!
と大きな音が響き、それ以上言葉は続くこと無く決死の形相した男の首が、宙を舞った。
儂は男の最後の言葉を思い返す。
教王様に、天主様。
真相は定かでは無いが、狂信故の愚かな行為かと考えるが、どうもそれだけでは無い気がする。
あの時、儂というイレギュラーはあったが、あの演説とも言えない用意されたかのような男の叫び。
そこまで考えた所で、どうも周りが落ち着かない事に気づく。
男の最後の言葉について皆が思い思いに話をしているようだった。
「な、なぁ、皇都は今そんなに酷いのか?」
「いや……、噂は色々聞くが……」
「確かに少し可怪しい噂も聞くけどよ!!皇都はそりゃー夢のように綺麗な場所だって聞くぞ!?」
「そう言えば、数年前に皇都に言った俺の知り合い、あれから連絡が……」
皆が皆、口々に騒いでいる。
処刑台を見ると、いつの間にか片付けを終えた様で大男の姿も、首なしの男の死体も最早無く、生々しい血の後だけが残されている。
儂はこれ以上ここに居ても仕方がないかと思い、人集りを抜ける。
人集りを抜けた所で、誰かに肩を叩かれ、振り向く。
「やはり、お前か!」
そう言って人好きのする無邪気な笑顔を向けるその主は、つい先日出会った領主のご息女。
先日の豪華なドレスとは違い、町民の格好をした、クロハ・アマツキ、その子であった。




