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始まりの掃除機

「はぁ、せっかくの夏休みが……」

 俺は今、スーパーを出て、重さ五キロはあろうビニール袋を持ち、お天道様の照らす陽炎の見えるアスファルトを歩いていた。

「あら、とーか。今日はお母さんに親孝行してくれる約束だったじゃない」

 俺の隣で、母さんが適当な事をぬかした。だいたいなんでこんな炎天下の中を、歩いて十分もかかるスーパーに行かなきゃならんのだ。

「お兄ちゃんは優しいもんねー、このくらいして当たり前だよー」

「そうよねぇ、私の息子なんだものね」

 裏を歩く妹の彩音が便乗して、俺をはやしたてる。

 くそっ、この家には俺の味方はいないのか!

「お父さんが出張してるんだよ? 男手はお兄ちゃんだけなんだから頑張りなよ。私達はか弱い乙女なんだから」

 ねー、と楽しそうに笑う母娘。そうだ、父さんは今、海外に出張していて、来年の春まで帰って来ないのだ。

「ねぇ、お兄ちゃん! アイス!」

 全くこいつは……。俺はビニール袋の中をまさぐって、アイスを手に取ると、それを彩音に渡した。

「ありがとう!」

「どういたしまして」

 どうしてこうも妹という存在には逆らえないのだろうか。

 俺は重いため息を吐いて空を見上げた。

「あれはなんだ?」

 俺は空を飛ぶ掃除機を見て首を傾げた。

 普通、掃除機って空を飛ぶ物だったか? いや、違うだろ。明らかに異質だ。しかも、よく見ると、掃除機の後ろには多くの家電製品が飛んでいた。

「あれ何? なんで掃除機が飛んでるの?」

 いや、俺が聞きたいよ。

 その掃除機達は、俺達が見ていたのを知ってか知らずか、見る見るうちに消えていなくなって行った。それと共に現れた明らかにヤバそうな黒い雲。それが大空を覆いさった。

 途端に鳴り響く雷鳴。

 くそっ‼︎ どうなってんだよこれ‼︎

 俺は体を動かそうとするが、痺れて体が動かない。おそらく、俺は雷に打たれたようだ。こうなったらもう、痺れが取れるまで安静にするしかないだろう。

 母さんや彩音は無事だろうか。いや、俺が生きているんだ。きっと無事だ。だが……もし、俺だけが生き残ってしまったら。いや、やめよう。こんな事を考えていてもなんにもならない。

 俺はぐっと手を握りしめた。あれ、握りしめることが出来た。ということは、力を込めれば立てるかもしれない。

「うっ、ぐっ、はぁぁ!」

 腕と足に渾身の力を込めて立ち上がった。ナイスファイト、俺!

「はぁ、はぁ、はぁ」

 瞼にも力を込めて、目を開けた。

「嘘、だろ?」

 目に入ったのは、辺り一面黒焦げの墨になった道だった。そして、母さん達がいた所には、何かの黒い塊が二つ。

「あぁぁ⁉︎ 彩音! 母さん! 何処だよ! 返事してくれよ!」

 俺は認めたく無かった。だけど、現実は無情だ。そんな都合のいい展開などあるはずもくなく、俺は家族だった物を抱きしめた。

「うぅ、あぁぁぁぁ!」

 涙が溢れて止まらない。すすで黒く染まった頬を伝って涙が地面に吸い込まれた。

 ぎゅうと、どちらの物か分からない死体を抱きしめると、ボロボロと崩れて無くなってしまった。

「あ、あぁ……! 俺だけ、俺だけかよ! こんなの信じられるわけねぇだろうが!」

 俺の叫び声は黒焦げた道路に虚しく響き、誰も、何も反応を示さなかった。

「ぁ、これは……?」

 先ほどの死体の後に残った、写真の入ったペンダントが目に止まった。これは彩音の物だったものだ。

 唯一残ったそれを、ポケットに入れて、俺は地べたに座り込んだ。

「くそ! くそっくそ! なんなんだよ! 俺が、何したっていうんだよぉ……!」

 地面を血が出るほど叩いた。そんな八つ当たりにもびくともしないアスファルトに、無性に怒りを覚えた。

「クッソぉぉ!」

 思い切りさっきよりも強く叩いた時、周りの物が衝撃波と共に全て消えて無くなった。

「これ、は……?」

 俺はそれを引き起こした、白いもやが罹った手を、呆然と眺めた。

「俺が、やったのか?」

 次に、周囲を見回して見る。そこにあったのは、視界全てが更地になった世界だった。もう、雷が落ちた痕跡など一切なく、文明があった事も忘れてしまいそうになるほど綺麗な世界。それが目の前に出来上がっていた。

「ははっ、そっか。家族を失った代償は、こんなクソみたいな力、か」

 俺は虚空に向かって拳を突き出す。するとその先にあった雲が一瞬にして無くなった。

「俺は、俺はどうすれば」

 救助隊か何かの声が聞こえる。どうやら世界は、まだ俺を死なせてはくれないようだ。

「生存者一人発見! 少年です!」

 そんな声をききながら、俺は狂ったように笑った。

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