無垢
「ねぇ、私のこと本当に好き?」
彼女のそんな問いかけに僕は一息置いてから「うん、もちろん」と答えた。
「、、、」
彼女は前を向いて僕より先をゆっくりと歩いていく。
その表情は見えない。
彼女は何を想っているのだろうか。
今日のデートも終わり、解散した。
電車に揺られていると仕事のメールが届いていたことに気づき、返信の内容を考える。
それが終わると、今後のためのキャリア形成について考えていた。
僕ももういい大人なんだから、自分の将来を考えないといけない。
「ねぇ、私以外に好きな人とかできた?」
彼女のそんな問いかけに僕は驚く。
「えっ、いやできてないけど」
2人の歩みに沈黙ができる。
「好きってなんだろうね。私は最近そんなことばかり考えてるよ」
彼女は何を想っているのだろうか。
「好きを考える。」
解散した後、電車の中で僕は小声で口にしてみる。
僕が最後に好きについて考えたのはいつだろうと思い返してみる。
そんなときはなかった。
でも、好きで連想されるものはいつも同じであることに気づく。
中学生の頃に片想いをしていた女の子。
あのときの好きが今までの人生のなかで一番強い好きだったように思う。
それから僕は好きについて深く考える。
「ねぇ、最近仕事はどうなの?」
彼女のそんな問いかけに僕は言葉を探す。
前までの僕ならすらすらと答えられる質問だったが、今は違う。
「最近は考え事があってあんまり集中できてないな」
「やっぱり、好きな人ができたんだ」
彼女のその言葉にドキッとして咄嗟に「違う」と口にする。
「じゃあどうしたの」
彼女に問いつめられて困る。
恋人に話していいようなことではない。
今まで彼女は疑うような問いかけを何度もしてきたが、別れ話はしなかった。
それは彼女が僕のことを信じてくれているからなのだ。
だから僕も彼女を信じることにした。
「好きについて考えてたらさ。学生の頃の好きが一番強い好きだったなって思って」
僕は躊躇いがちに言って「でも君のことが好きじゃないってことじゃないから」とつけ足す。
すると彼女はまるで答えを知っているかのように語り出す。
「これは私の考えなんだけど。一番強い好きって思うのは、無垢だったからじゃないかな」
「無垢?」
僕は疑問を抱く。
「そう、今は仕事のこととかお金とか将来の不安とかをついつい考えちゃうけど、あの頃はさ、世の中のことなんか何も知らない子どもだった。」
彼女は僕の方に真っ直ぐ向き直り続ける。
「それが純度100%の好き。それは君だけじゃなくてみんなそうなんじゃないかな、もちろん私も。」
そして彼女は少し俯きがちに言う。
「だから子どもの頃の好きを上回ることは、ないのかもね」
彼女は僕のモヤモヤをきれいに言語化してくれた。
そして僕は想いを伝える。
「君はやっぱりすごいよ。大人の考えることも子どもの考えることもどちらも忘れないでいる。本当に尊敬する」
僕と彼女は目を見合わせる。
僕も彼女に習うことにする。
「僕は君のことが好きだ」
彼女は笑顔を見せる。
「やっと言ってくれたよ〜。ずっとその言葉を待ってたんだから」
僕はほっとする。
そして彼女は最後に返事をくれる。
「私も君のことが好きだよ」




