サンタクロースに負けたくないので、妻の枕元にプレゼントを置く方法を考えます。
申し訳ありません。昨日出すはずが、思ったよりも長くなり遅くなりました。
糖分高めですので、その辺ご了承ください。クリスマスといえば甘い物なので(笑)
その言葉はアルノーにとって、青天の霹靂だった。
「ねえ。異世界にはサンタクロースという人がいて、プレゼントを枕元に置いてくれるのですって。」
そう言って妻のベアトリスが見せてくれたのは、異国のことが載っている本。一人の白い髭を蓄えた男が大きく描かれている。赤い服を着て、恰幅が良い。むしろ太りすぎではないかとさえ思えた。
なんだそいつは。
アルノーは不快な気持ちを抑えられずに口がへの字になった。敵味方問わず恐ろしいといつも言われていた顔だ。
「君の寝室にそんな男を入れるわけにはいかない。」
「だって、警備を潜り抜けて、プレゼントを届けてくれるのよ?愛の深さを感じない?」
「ただの危険人物じゃないのか。」
「あら、アルノー。やきもちを焼いてるの?」
アルノーはだまって席を立った。妻に口で勝てたためしはないのだ。
「仕事を思い出した。」
「そう?無理しないでね。」
妻の言葉を背中で聞きながら、アルノーは自分の執務室へと向かった。
『サンタクロース』という異世界人について情報を集めてくるように命令すると、次の日には次々と報告が届いた。アルノーが治めるこの都市にいる異世界人は約20名。神殿経由で手に入れた名簿片手に、部下達が走り回ってくれた。
「12月24日の夜に、世界中を回ってプレゼントを配るのだそうです。」
「空飛ぶトナカイが引くそりに乗っているそうです。」
「白髭でかなりのご高齢とか。」
「身長170cm、体重120kg。赤い服を着て、煙突から家に侵入するそうです。」
上がってくる報告に、アルノーは頭が痛くなった。
「いるのか?そんな男が本当に……」
思わず零れたその言葉に、部下達は困った顔をする。
「それが皆、『いる』と言うのです。」
「この国でもサンタに会えたわ、という女性もいました。」
この男はもう既にこの都市にも侵入しているのか!夜中に妻の部屋に侵入し、寝顔を見ながらプレゼントを置く姿を想像して、アルノーは吐き気を覚えた。今日は12月20日。あと4日だ。なんとしても阻止しなければならない。
「そもそもなぜ『サンタクロース』の調査を?話を聞く限り危険な感じはしないのですが。」
部下の一人が報告書をまとめながら尋ねる。
「妻から聞いたのだ。警備を潜り抜け、プレゼントを持ってきてくれるサンタの行動には、愛の深さを感じると。しかし、どう調べてもただの危険人物じゃないか。」
「ああ、そういうことですか。」
アルノーの言葉を聞いた途端、部屋にいる部下達は、一斉にアルノーに生温い目を向けてきた。
「失礼ですが、アルノー様。奥様にプレゼントを最近なさってますか?」
「プレゼント?なぜそんなものを贈る必要がある?」
アルノーは妻に愛されているとは思っていない。そもそもが政略結婚だし、自分の怖い顔を好ましいと思ってくれる女性などいないだろう。その代わり妻が買い物をしてもその額に文句など言ったことはない。どうやら慎ましい性格らしく、無茶な買い物は今までしたことはないと聞いている。
「アルノー様は、奥様がお嫌いなのですか?」
「……そんなことはない。」
長くゆったりとうねる赤い髪も、ほっそりとしながらも柔らかさを感じる身体も、はにかむような笑顔も、他の男には見せたくないほどだ。むっつりとおしだまるアルノーに、さらに部下は提案をしてきた。
「では、クリスマスにサンタとなって、奥様にプレゼントをいたしましょう!これは難題です。多くの警備を潜り抜けて奥様の部屋に侵入しなければならないのですから。」
「そんなことをしなくても、隣の部屋だから、そこの扉から行けば……」
アルノーの部屋と妻の部屋は、隣同士である。しかも扉で繋がっていた。夫婦なのだから、当然だ。
しかし、部下は握り拳を作りつつ、さらに熱弁をふるった。
「それではダメなのですよ。城の外からの侵入ルートを考え、奥様の部屋へと辿り着く!この過程が大事なのです。」
「そうです!その試練を乗り越え、アルノー様の愛情の深さを奥様に知らせるのです!」
「城の地図を持って来い!今から作戦会議だ!1班は侵入ルートを探せ!2班は衣装の準備だ!」
アルノーを放っておいて話が進んでいる。
「俺はまだやるとは言ってない……。」
「じゃあ、サンタクロースにプレゼントを持ってきてもらいますか?」
「……俺がやる。」
そのまま部屋にいればサンタクロースとやらがきても自分が撃退してみせる。アルノーはそう決意した。
「やはり侵入するのでしたら、空からが一番警備が薄いですね。」
「当たり前だ。空が飛べるなんてドラゴンくらいしかいないんだぞ。」
「いい考えがあります!」
手を挙げたのは、見習いの従者だ。
「大砲でアルノー様を打ち出すというのはどうでしょう。」
「却下だ。危険だし、大きな音が出る。すぐ気づかれてしまうだろう。」
「転移陣はどうだ?」
「城の中で転移陣は使えないだろう。許可を取らねばならぬ。」
話し合いに参加しているのは、アルノーに近い者だけだ。
「くっ。なんて侵入が難しいんだ。」
それはいいことなのではないだろうか、とアルノーは思ったが、黙っていることにした。
結局いい案が出ず、従者の一人がしかたない、と言うように提案する。
「アルノー様。領主のみが知っている隠れ通路を使って屋根に上がれませんか?」
「……なくはない。」
アルノーは渋々答えた。代々受け継がれている機密事項だから、公にはできないのだ。
「ではその通路を使い、煙突から奥様の部屋に侵入しましょう。」
アルノーと妻の部屋にはそれぞれ暖炉があり、その煙突は屋根沿いに見えないように作られている。
「ダメです!煙突には侵入できないように鉄格子がはめてあります!」
「掃除の時には外しているはずだ。掃除を名目に外しておこう。」
「この時期、暖炉は使われています。その状態での煙突からの侵入は不可能では?」
「奥様には早めにご就寝いただき、暖炉を早めに消してもらうよう、言うしかないな。サンタクロースをお待ちなのだから、聞き届けてくださるはずだ。」
「では前日にでも煙突の掃除を入れましょう。その際鉄格子を外しておきます。」
侵入班によって、アルノーは煙突から妻の部屋へ入ることが決定した。
「サンタクロースの衣装はありませんが、赤い服を用意しました!念の為、耐熱・耐火性能もこれから付与いたします!」
そこに衣装班が飛び込んできた。
深みのある赤い色のロングコートに、黒いズボン。そこまでは良かった。それに付け加えて出されたのが、赤いナイトキャップだ。
「これをかぶるのか?」
流石にアルノーが情けない声を出すと、衣装班のメンバーは縮こまった。
「申し訳ありません。赤い帽子が見当たらず……。」
「……分かった。このままでいい。」
この格好で行ったら、間違いなく妻には笑われるだろうがしかたない。アルノーはその衣装を受け入れることにした。
「……ところで、何を贈れば良いのだ?」
一番大事な部分をアルノーが部下達に聞くと、全員がはあっ?と言う顔をする。
「そこはご自身で考えてください。」
「今までの奥様の様子を思い返して、嬉しそうな顔をしていたものを思い出すのですよ。」
結婚してはや二年。妻とどんな顔をして話せば良いのか分からなかったアルノーは、必要最低限の関わりしか持っていなかった。好きなものはなんなのか、全く分からない。
(いやでも、待てよ)
今回わざわざ異世界の話を持ち出してきたと言うことは、異世界のものに興味があると言うことだろう。
「異世界のものを扱っている商会はあるか?」
「それでしたらヤマト商会がいいですよ。異世界のものを専門に取り扱っていますから。」
「分かった。ちょっと出かけてくる」
アルノーは城下へと出かけることにした。
ヤマト商会は横に広く、入り口も広い不思議な建物の形をしていた。そして『サンタクロース』が店頭に立っている。髭はつけ髭なのだろう。思っていたよりも若いようだ。『サンタクロース』はアルノーの姿を見ると、近寄ってきた。
「クリスマスのお買い物は当店でどうぞ!ケーキもありますよ。奥様や恋人へのプレゼントとしても最適です。」
「……それはお前が枕元へ届けるのか?」
アルノーの殺気が伝わったのか、『サンタクロース』はギョッとして一歩下がる。
「いやいやいや。ご自身でお渡しするのが一番ですよ!きっと喜んでいただけると思いますので!」
「そうか。」
おそらくこの『サンタクロース』は店員が仮装しているのだろう。そう思ったアルノーは怒りが和らいだのを感じた。
「では、少し見せてもらおう。ところで。」
「はい?」
「『クリスマス』とはなんのことだ?」
「なるほど。異国の神の子の誕生日を祝う会と。」
「大雑把にいうとそうなります。人によってはお互いにプレゼントを交換してご馳走を食べるだけの日ですけどね。」
ヤマト商会の奥へと通されたアルノーの前には、プレゼントにいかがですかと勧められたものが並んでいた。花束にアクセサリー。丸太の形をもじったケーキ。黒く艶々と光っている丸いものは菓子なのだろうか。
「よろしければご試食してみてください。」
アルノーはケーキを一口食べてみた。ふんわりとした食感と甘いがかすかにほろ苦い味のなめらかなものが舌を絡め取っていく。
確かにこれなら妻は好きかもしれない。食事の時も甘いものをゆっくりと食べていた記憶がある。
「こっちはなんだ。」
丸いものを指で摘む。
「それは中にお酒が入っておりますので、一口でどうぞ。」
アルノーが口に入れると、先ほどと同じほろ苦い味が口の中に広がった。その後噛み砕くと、強い蒸留酒が溢れてきた。ごくりと飲み込むと、口の中には果実のような爽やかさが残った。
「これは美味いな。」
思わずアルノーは呟いた。
「男の方にも人気のある品ですね。奥様へのプレゼントですか?」
「ああ。ただ、何が好きなのか分からなくて困っている。」
アルノーの不器用な悩みを見抜いたように、店員は笑顔で頷いた。
「なるほど。ではまず、奥様のことを知る時間を作るところから始めてはいかがですか?」
男が差し出してきたのは、絵の描いてある本だ。中を見るとここで売られている商品に解説が載っている。
「これは『カタログ』というものでして。見たことのない商品でもどのようなものかわかるようにしてございます。二人で見ながらお好きなものを探すのも一興かと。」
「ほう。これは面白そうだ。」
「一緒に先ほどの『チョコレート』をつまみながら話せば、緊張もほぐれるかと。」
「ふむ。ではその二つをいただこう。それから。」
アルノーはチラリと店員の頭を見る。
「その『サンタの帽子』も譲ってはもらえないだろうか。」
情けないナイトキャップだけはなんとしても避けたかった。店員は快く帽子を譲ってくれ、アルノーはそれらを大事に抱えて店を後にした。
そして当日。日が変わる直前にアルノーは一人、屋根の上にいた。街の明かりもほぼ消え、冷たい冬の風が肌を刺す。煙突を通り抜けられるかどうかは、部下が昨日のうちに確認をとってくれている。先にロープを使って荷物をそっと下ろすと、アルノーは意を決して煙突の中に入り込んだ。一気に落ちることのないよう、手足を踏ん張ってゆっくりと降りる。ようやく暖炉の底に足がついた時、アルノーは安堵の息を漏らした。
しかし、暖炉から出た途端、目の前で灯りが灯る。
蝋燭を手に立っているのは、寝巻き姿のベアトリスだ。
「サンタクロースさん、プレゼントを持って来てくれたのかしら?」
そういうとベアトリスは、呆然としていたアルノーの顔についた煤を手で拭き取る。どうやらすっかりバレていたらしい。
だが、妻の瞳は、これまでに見たことがないほど、優しく、楽しげに輝いていた。蝋燭をチェストに置くと、優雅に両手を差し出す。
「プレゼント、くれるのでしょう?」
「あ、ああ。だが、俺には君の好きなものが分からない。だからまずはそれを教えて欲しいんだ。」
ごそごそと白い袋からプレゼントの箱を出してベアトリスに渡すと、ベアトリスは嬉しそうに微笑んだ。
「ありがとう。でもここは寒いから、こちらにいらして?サンタの服は脱いでおいてね。」
そう言ってベアトリスが誘ったのは自分の寝台で。
アルノーは頭が真っ白になるのを感じながら、その誘いに応じ、幸せな時を過ごしたのだった。
その後。
この都市では毎年クリスマスを祝うことが領主からの触れで決定したという。
本当は正門突破とかしてみて欲しかったのですが、あまりにも長くなるので諦めました。
良いクリスマスをお過ごしください。
読んでくださり、ありがとうございます。
「続きが気になる」「面白い」「早く読みたい」など思われましたら、下記にあるブックマーク登録・レビュー・評価(広告の下にある☆☆☆☆☆→★★★★★)、リアクションなどしていただけると嬉しいです。




