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八、町絵図

 お奉行は煎茶茶碗を俺の前に置き、もうひとつを手に取ってすする。

「海蔵寺の龍の絵、たいそうな評判だそうだな。しかも、絵を描きがてら、棒術まで習って、郷士の主なものに渡りをつけるたあ大したもんだ。おめえの仕事の速さには恐れ入ったぜ」

この人にほめられると、後が怖い気がする。


 「いえ、棒術には本当に興味があって。

 滴雲和尚とお合どのの立ち合いを見て、棒の動きを龍や雲のうずに取り入れてみたんです。あのような絵が描けたのは、二人のおかげです」

白状すると、

「そんなもんかね」

お奉行は小首をかしげる。


 「絵の評判はともかく、今のおめえは海部塩塵藩の同心だからな。お役目も忘れてもらっちゃあ困る。

柿の事件はどうなったよ」


 海蔵寺の武芸指南所、そこの門人たちが今の藩に不満をもっていることはすでに報告してある。しかし正直、「目に見えた証拠」はなにもない。


 「本日より、べつの糸口をたぐります」

「ほう。そりゃ頼もしい。くれぐれも頼むぜ」




 絵の注文には全部ことわりを入れ、柿盗難事件にかかわる書付をすべて出して、洗いなおしてみる。

本丸への「侵入経路」については、すでに前任の者が当たってるはずだが、この土地の者が見すごしてる何かがかならずあるはずだ。


 お奉行に絵図面を見せろと直談判すると、翌日、奉行所内寄合座敷裏の居間に呼び出された。

 黒の長持ちが置いてある。ふたを開けると、細長やら平たい大きいものやら、大きさのちがう桐箱が入っている。

「この国絵図、城絵図、町絵図は、どれも部外秘の部外秘、特級品だ。心してとりあつかえよ」


 問題の「町絵図」は、一番下の大きい箱にはいってた。

 城は図のまんなかやや下、海からつながる堀にかこまれている。

 海蔵寺は、城からちょうど北東(丑寅)、街道のはずれに位置してる。そこから城をはさんで反対側(南西)、同じくらいの距離のところに、桃源寺という寺があった。


 「桃源寺っていうのはどんな寺です?」

と奉行に問うと、

「有名な寺だよ。茶人で、大藩の家老だった人がつくった枯山水の庭園がある」

と教えてくれた。


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