七、龍の絵
仕事終わりに寺に通うこと二十日。ようやく絵が完成した。
「どうじゃ、この迫力!
雲が雨の滴となって渦をまくところなんか、すさまじい。尾関どのを見込んで襖絵を頼んだ、わしの目に狂いはなかったな」
和尚が、わがことのように自慢する。
「爪なんか、真剣のように光っておるし、ひげは鞭のようにしなっておる。眼は、怒りで見ている者を滅ぼそうとしておる。
見たこともない龍を、よくこれだけ描けるものじゃ」
この二人、ひとをほめるのがほんとうにうまい。
「毎日、墨をすってくれた小玄太のおかげですよ」
これは、謙遜ではない。小玄太は本当にがんばって、大量の墨を磨り、膠を練ったり胡粉をすったり、してくれた。
「そういえば、着物の破れのつくろい方を教えてくれたそうだな。小玄太の母君が子供らが身だしなみに気をつかうようになったと感謝しておったぞ」
「いえ、それは。武士のたしなみですから」
「おこづかいもたくさんくださったそうじゃな。わらわからもお礼申しあげる」
「いやいや、それはむしろ少ない方かと」
車がかりでほめそやされては、身の置き所もない。「いえいえそれは」を百万辺も言って、海蔵寺を後にした。
襖絵はちょっとした評判になり、近郷近在から物見高い連中が海蔵寺におしよせるようになった。それにともない、俺に絵の注文が来るようになった。