十、六合庵の雪隠
山師(鉱山技師)たちが言うには、爆薬をしかけるのは二か所、堀の南西側・侍地への入り口、北東側・町人地への入り口。
万全を期して、人の往来に影響のすくない場所に、亥の刻(二十一~二十三時)ちょうどに爆発するよう、仕掛けるという話だった。
これで一安心、自分の仕事は終わった。
同心長屋にもどって一服つけているところ、玄関の障子をぱんぱん、ぱんぱんとたたく音がする。
障子をあけたら、小玄太だった。
小玄太は泣きべそをかきながら、
「姫様が、姫様が」
と繰り返す。
「お合どのがどうした、しゃっきり話せ」
問いただすと、
「姫様が、爆弾がしかけてある地下道にはいっていっちゃったんだ」
という。
「はあ? なんでそんなことを」
そもそも本日、地下通路が爆破されることは部外秘のはず。
「奉行所に見慣れない人たちが来て、火薬のこととか話してたし。見てたら、期日も今日だっていうのがわかった」
袖口で涙や鼻水を拭く。
「きたねえからそういうところで拭くな。
じゃあ、おまえがお合どのに話したんじゃないか」
小玄太はこっくりうなずく。
なんということだ。
しかし、子どもと思って、小玄太を奉行所の共同風呂にまで入れたのは俺だ。
そうして、亥の刻まであと半刻(一時間)しかない。
小玄太にもがんどうをもたせ、いっさんに海蔵寺まで走る。
「じゃあ、お前がいっしょうけんめい絵の仕事をたすけてくれたのは、もともとお合どのにいいふくめられてのことか。間諜か」
というと、俺の顔を見上げ、
「間諜ってなに?」
という。
さすがに『間諜』なんて言葉はしらないか。
「海蔵寺側の地下通路の出入り口はどこなんだ」
ときくと、
「六合庵の、庭のせっちん」
と答える。
時の鐘が鳴り始めた。
最初の鐘は捨て鐘。一打目はやや長く、二、三打目はしだいに間隔短く打たれる。
気ばかり焦って、足が前に進まない。




