第七話 代償の足音
いえい
闇刃解放を終えた僕の体には、異様な疲労感が押し寄せていた。足が重く、視界もわずかにぼやける。けれど、今は休むわけにはいかない。
「シエラ、大丈夫か?」
「ええ。でもラズフェル、君の方が……無理してるでしょ?」
心配そうな彼女の声に、僕はかすかに笑ってみせた。
「平気さ。ちょっと疲れただけだ。」
そう言いながらも、胸の奥には鈍い痛みが残っていた。ゼフィラスの力を引き出した瞬間、何かが削られたような感覚。それが一体何なのか、今の僕にはわからない。
「さっきの力……凄まじかったけど、あれを使う度に何かが失われていくような気がするの。」
シエラは真剣な表情で続けた。
「力を得る代償が何か、君自身がまだ気づいていないのかもしれない。でも、感じるの。これ以上その力を無闇に使うのは危険だって。」
「僕もそれは感じてる……けど、今は生き延びるために必要だった。」
シエラは黙って頷き、再び前を向いた。
しばらく進むと、辺りは急激に霧が濃くなり始めた。木々が次第に視界から消え、音さえも吸い込まれるような静寂が広がる。
「ここ、何かがおかしい……。」
シエラが立ち止まり、周囲を警戒する。僕も剣に手をかけ、辺りを見回した。
「この霧、自然のものじゃない……何かが潜んでる。」
その言葉が終わるか終わらないかのうちに、霧の中から不気味な笑い声が響いた。
「ククク……堕天使の力か。噂以上だな。」
声の方向に目を凝らすと、霧の中から人影が現れる。漆黒のローブをまとい、瞳には奇妙な輝きを宿した男。
「誰だ……?」
僕が剣を構えると、男はゆっくりと歩み寄りながら答えた。
「我が名はエゼルグ。お前たちのような存在を狩る者だ。」
「狩る……?」
「そうだ。堕天した存在は、この世界にとって異物に過ぎない。お前たちを排除することで、秩序が保たれるのだよ。」
その言葉に、僕は怒りが込み上げてきた。
「僕たちは、ただ生き延びようとしているだけだ……!」
エゼルグは冷たく笑った。
「生き延びるために禁忌の力を振るう者に、言い訳など必要ない。」
その瞬間、男の手から闇の刃が生み出され、僕たちに向かって放たれた。
「避けろ、シエラ!」
僕はシエラを庇いながら、その刃を剣で弾いた。だが、衝撃は想像以上で、体が後ろに吹き飛ばされる。
「強い……!」
エゼルグは静かに歩み寄り、再び刃を構えた。
「さあ、堕天の力を見せてみろ。お前がその代償に何を失ったのか、思い知らせてやろう。」
僕は震える体を奮い立たせ、剣を握り直した。再び闇の力を引き出すことへの恐れが頭をよぎる。しかし――。
「守るためなら、僕は何度でも……!」
再び立ち上がる僕を見て、シエラも剣を構える。
「ラズフェル、私も一緒に戦う!」
僕たちは互いに頷き、エゼルグに向かって突進した。闇の霧が広がる中、新たな戦いの幕が開けようとしていた。
次回は戦いだ!制作者は戦闘が好きなため、戦闘が多いです。