第五話 漂着する運命
ちょい短め。
重たい空気が漂う廃墟の村を後にし、僕たちはさらに歩き続けた。黒い炎が消え去った剣は、今やただの錆びついた鉄塊に戻っている。けれど、その剣を握る僕の手には、あの「ゼフィラス」の声がまだ鮮明に残っていた。
「……ゼフィラスって、誰なんだろう?」
ぽつりと漏らした僕の声に、隣を歩くシエラが眉をひそめた。
「ゼフィラス……それ、力を使っている時に聞こえた名前?」
「そうだ。あの時、僕に力を与えるって言ってた。でも、支配できなければ呑まれるって……。」
「呑まれる……。」
シエラは不安げに呟き、視線を前方の地平線に向けた。その先には、広がる荒野が続いているだけだった。
「ラズフェル、もしかしたらその力、君自身の何かが具現化したものなんじゃない?」
「僕自身の……?」
シエラの言葉が胸に引っかかった。確かに、ゼフィラスの声はどこか自分自身の一部のようにも感じられた。
「君が天使だった頃の記憶とか、何か大切なものが形を変えて、今の力になってるのかも。」
「記憶……。」
シエラの言葉に僕は思いを巡らせた。けれど、僕が天使だった頃の記憶はぼんやりとしていて、具体的なことはほとんど覚えていない。
「もしそうなら、僕が何者かを知る手がかりになるかもしれないな。」
「そうだね。でも、気をつけて。その力が君を守るだけじゃなく、傷つけることもあるかもしれないから。」
シエラの真剣な表情に、僕は静かに頷いた。
しばらく歩いた後、僕たちは小さな川辺にたどり着いた。澄んだ水が流れるその場所は、荒廃した世界の中で唯一の安らぎのように感じられた。
「ここで少し休もう。」
僕がそう言うと、シエラは頷いて水辺に腰を下ろした。僕もその隣に座り、川の水で顔を洗った。冷たい水が肌に触れ、少しだけ緊張がほぐれる。
「……綺麗な場所だね。」
シエラが川を見つめながら呟いた。
「うん。こんな場所がまだ残ってるなんて、ちょっと信じられない。」
僕たちはしばらく無言で川のせせらぎを聞いていた。しかし、その静けさを打ち破るように、不意に遠くから獣の唸り声が聞こえてきた。
「またか……!」
咄嗟に剣を手に取る。休息の時間は、どうやら終わりを告げたらしい。
「ラズフェル、気をつけて。今度の敵は何か違う……!」
シエラが緊張した声で警告する。視線の先には、黒い霧に包まれた獣たちが群れを成して近づいてくるのが見えた。
「群れ……?これじゃさっきの比じゃない!」
僕たちは再び立ち上がり、戦いの準備を整えた。この川辺が穢れる前に、僕たちはこの脅威を断ち切らなければならない。
生暖かい目で見ていただけたでしょうか。。。。。。。。