第十四話 覚醒の刻
――意識が浮上する。
(……俺は……?)
まるで深い水底から這い上がるような感覚だった。重たい体を無理やり引きずり、闇の世界から抜け出そうとする。
そのとき――。
「ラズフェル!!」
シエラの声が、耳をつんざいた。
僕は、目を開けた。
「っ……!」
視界に映ったのは、荒れ果てた大地と、崩れかけた瓦礫の山。辺りには黒い煙が立ち込め、空気は硫黄のような焦げ臭さを帯びていた。
「ラズフェル、大丈夫!?」
シエラが僕の肩を支えてくれている。彼女の顔には汗と血の跡が滲んでいた。
「お前……怪我を……」
「いいの、それより……!」
彼女の声が震えている。僕は視線を巡らせ、理解した。
そこには、先ほどまで戦っていたはずの堕獄獣たちが、跡形もなく消え去っていた。まるで何もなかったかのように。
「……俺がやったのか?」
「ええ……ラズフェル、あんた急に光と闇に包まれて、それから一閃……全部消えたのよ。」
「……」
何かが変わった。
(俺は……剣になったのか?)
体の感覚が微妙に違う。まるで自分が、自分でないような――。
そのとき、僕の中に新たな力の存在を感じた。
(銘魂……お前が力を貸してくれたのか?)
“闇天一文字則宗”の銘魂が、確かに僕と融合している。その証拠に、剣は以前とは比べ物にならないほどの闇の波動を纏っていた。
「……どうやら、俺はもう後戻りできないらしいな。」
ポツリと呟く。シエラは不安そうに僕を見上げた。
「ラズフェル……?」
僕はゆっくりと立ち上がり、剣を見つめる。
(お前の言った通りだ。俺はこの道を選んだ。ならば――進むしかない。)
「行くぞ、シエラ。」
「え?」
「まだ終わってないだろ?」
そう、エゼルグを倒したとはいえ、奴の言葉が気にかかる。
“お前の代償は、まだ始まったばかりだぞ……”
この戦いの先に、何が待っているのか。
それを知るためにも、俺は進む。
――たとえ、“俺”が消え去るとしても。