第十三話 銘魂との会話
――意識が沈んでいく。
冷たい闇の中、僕はただ漂っていた。
(……ここは?)
何もない暗闇。時間の流れすら感じない空間。だが、不思議と恐怖はなかった。
「目覚めたか?」
突然、どこか懐かしい声が響いた。
ゆっくりと顔を上げると、そこに立っていたのは、一人の男だった。
「……お前は?」
「私か? 私はお前の剣に宿る者――“闇天一文字則宗”の銘魂だ。」
剣の魂――。
僕は思わず息をのむ。確かに、ただの武器ではないとは思っていた。だが、まさか自ら意思を持っているとは。
「お前……俺と話せるのか?」
「当然だ。今まではお前がここまで深く堕ちていなかったから、会うことはなかったがな。」
男は静かに微笑んだ。
「お前の魂が削れていることは分かっているな?」
「……ああ。」
「なぜだと思う?」
僕は言葉に詰まる。
「お前の力は“堕天の剣”と呼ばれるものだ。だが、その真の意味を知っているか?」
「……真の意味?」
銘魂はゆっくりと頷いた。
「“堕天”とは、天より墜ちること。そして、お前の剣は、その墜ちゆく者の力を引き出す代わりに、“存在”を削り取る。」
存在を削る――。
「つまり、俺が剣を使うたびに、俺自身が……消えていくってことか?」
「その通りだ。」
銘魂は淡々と告げる。
「だが、お前はまだ半分しか知らない。お前が完全に“削り切られた”とき、どうなるのか――。」
「……どうなる?」
銘魂はゆっくりと微笑んだ。
「お前は“新たな刃”へと生まれ変わる。」
「……刃?」
「そうだ。お前は、剣となるのだ。今の私は、かつてお前と同じように力を求め、そして剣になった者。」
「……お前も?」
銘魂は静かに頷く。
「この剣を使い続ければ、いずれお前も同じ道を辿るだろう。」
背筋に冷たいものが走った。
「俺が……剣に?」
「お前がこの力を求め続ける限りな。」
銘魂はゆっくりと手を差し伸べた。
「だが、まだ選択肢はある。お前がどうするかは、お前次第だ。」
僕は、黙ってその手を見つめる。
(このまま戦い続ければ、俺は……。)
迷いが生まれる。だが――。
「……俺は、戦うしかない。」
銘魂の目が細められた。
「そうか。」
「俺には、守りたいものがある。シエラも、ゼフィラスも……この世界も。だから、たとえ何が待っていようと、俺は戦い続ける。」
「フフ……いい答えだ。」
銘魂は満足そうに笑う。
「ならば、お前に最後の力を託そう。」
銘魂の体が闇に溶け、剣へと戻っていく。
「“堕天の剣”を継ぐ者よ、お前が最後まで己を貫くのなら――その力、存分に振るえ。」
――ズン!!
その瞬間、僕の意識が浮上する。
(……帰らなきゃ。)
光が差し込んだ。
――目を覚ます時が来た。