第十二話 魂喰らいの咆哮
「まるでキリがない……!」
僕は息を荒げながら剣を構え直した。覇王絶塵で前方を薙ぎ払ったはずなのに、また新たな堕獄獣が霧の奥から現れる。
「まるでどこかの異空間と繋がっているみたいね……。」
シエラが魔法陣を展開しながら言った。その通りだ。通常、堕獄獣は一度討伐すれば終わるはず。しかし、今回はいくら倒しても終わらない。
「やっぱり、お前が絡んでるんだろうな……エゼルグ。」
「フッ……察しがいいな。」
エゼルグはニヤリと笑いながら、黒い霧をまとわせた右手を掲げた。
「この“魂喰らいの檻”は、倒された堕獄獣の魂をその場で再構築する。つまり、お前がどれだけ斬ろうと、無意味というわけだ。」
「……つまり、無限ループかよ。」
僕は舌打ちしながら辺りを見渡す。確かに、さっき倒したはずの堕獄獣と同じ個体が、また霧の中から現れている。まるで死を拒否する亡者のように――。
「どうするの?」
シエラが焦りを滲ませた声で問いかける。僕は考える。無限ループを断ち切るには、“核”を破壊するしかない。エゼルグの術が続く限り、ここは地獄の戦場と化す。
「エゼルグ、お前を倒せばこの術も消えるんだろう?」
「ああ、試してみるか?」
彼は余裕の笑みを浮かべて僕を挑発する。その顔が、妙にムカつく。
「じゃあ……やるしかねえな。」
僕は剣を強く握りしめ、深く息を吸った。
――闇刃解放。
剣が黒き闇に包まれる。
「……来いよ、エゼルグ。」
「面白い、今度こそ本気の“堕天の剣”を見せてもらおうか!」
エゼルグが闇の槍を構え、僕に向かって突進してくる。
「――瞬虚黒閃!!」
刹那、僕の体が消えた。
次の瞬間、光速に迫る速度でエゼルグの懐に入り込む。
「なっ……!」
エゼルグの驚愕の表情がスローモーションのように見える。
「終わりだ。」
居合いの一閃。
闇の剣が振り抜かれると同時に、空間が引き裂かれた。
「グ……アァァァッ!」
エゼルグの体が、まるで無数の刃で削られるように裂けていく。
「貴様……まさか、ここまで……!」
彼の体が崩れ、霧とともに消えていく。
「ハァ……ハァ……。」
僕は肩で息をしながら、剣を鞘に戻した。
――静寂。
堕獄獣の群れも、霧も、すべてが消え去っていた。
「やった……の?」
シエラが僕の元に駆け寄る。
「ああ……なんとか。」
だが――そのときだった。
「……フフ、見事だな。」
僕は目を見開いた。エゼルグの声が響く。
「……まだ生きてやがったのか。」
「いや、俺はもう終わりだ。だが、お前の“代償”は、まだ始まったばかりだぞ……ラズフェル……。」
ニヤリと笑ったエゼルグの体が完全に消滅する。
その瞬間――僕の胸に、強烈な痛みが走った。
「ぐっ……!」
「ラズフェル!? どうしたの!?」
シエラの声が遠のく。視界が暗くなっていく。
(何かが……削れていく……。)
ゼフィラスの言葉が脳裏に響く。
『お前は、どこまで“自分”でいられるのか――。』
僕の意識は、そこで途切れた。