人生は色相感
0 暗いトンネル
夢って何だろう。進路って何だろう。みんな当たり前に選んで、決めて、追いかけて。何でそんなにまっすぐに追えるのだろう。悩む私がおかしいのだろうか。挑戦できずに立ち止まる私が異常なのだろうか。考えれば考えるほど自分が何かわかんなくなる。私は何で生まれてきたのかな。
1 不透明な毎日
「ことちゃんは、いつもしっかりしてて偉いね。わたしとは大違いだなぁ。」
っ…。また、夢か…。いやな夢。もう朝か…、学校行かなきゃ。
そう、私は受験生なんだ。眠くても、学校に行きたくなくても、起きて学校に行って、いつも通りに過ごさなくてはいけない。何で高校行くのか、とか何で勉強するのか、なんて考えている暇もない。
「おはよう」
私は周りに心配されないよう、毎朝、鏡の前で挨拶の練習をするのだ。
「こと~、今日も夜まで自習室?」
「うん、そのつもり」
「ことは偉いな、ホントに合格しちゃいそうだな。」
「受験なめすぎだって、もう。みんな必死なんだから~。じゃあ、行ってきます。」
私の両親はすごく優しい。いつも私のことを一番に、必死になってくれる。受験だってこれでもか、ってくらい応援してくれているし。私はホントに恵まれていると思う。
2人の期待を裏切らないように、頑張らないと。
私は駅に向かって少し急いだ。
「こと、おっはよ~~、今日も早いね!!」
「花、おはよ。ぎりぎりに来ると電車激混みなのが嫌なだけだよ。」
「うちは早起きだけは特にだめだからなぁ。こと、尊敬してます!」
「はいはい、ありがと。」
花は高2で出会った私の親友。いつも笑顔で可愛くて、男子からもモテモテ。こないだも告白されて、断ったとか…。
「え、ちょっと待って、こと。それ、今日提出だっけ、やっば。今から頑張ってくる。」
「がんばれ!」
私は心から明るくてかわいい花が大好きだし、ほんとに羨ましい。そう言うと花はいつも決まって、「ことは行きたい大学決まってるし、みんなから頼られてるし、うちはことの方が羨ましい!!」って言ってくれるけど、私は彼女になりたかった。
—キーンコーンカーンコーン
「起立、礼。さようなら。」
「花、もう帰る??」
「あ、ごめん、A組の男子に呼び出しされて。」
「え、また(笑)?相変わらずモテモテだね。じゃあ、先に帰るね。」
「ホント、ごめん。また明日!!」
花の走り去る後ろ姿はいつだってきらきらしているように見える。花は誰もが思い描く女子高生って感じ。すごいな、花は。あんな子が私の友達でいてくれているのが不思議に思っちゃうくらい。明るい彼女はいつもみんなを笑顔にしちゃう、そう本物の花のように。
「今日も早い!偉いね。」「62番空いてますか?」「空いてますよ。」フロントで挨拶をしたら、いつも通り、私は塾の自習室のこの席に座る。エアコンの風が直接当たらなくて、通路からも離れたこの席が私のお気に入り。私はいつも通り、教科書を開いた。
…だめだ集中できない…。いったん休憩しよ。インスタグラムを開くと、わたしの憧れのアイドルやモデルさん、女優さんが笑っていた。可愛すぎる。いいな、楽しそうで。前世にどんだけ徳を積んだらこうなれるのか…。
私には密かな夢がある。まだだれにも言えてないけど。中2のとき、ドラマや映画に出ている女優さんに憧れを持ち始めた。きっかけはコロナウイルスで休校になったとき暇でずっと映画とかドラマとか見てたから。暇で友達にも会えなくて寂しかった毎日に彩りを与えてくれた。毎日毎日、のめり込むようにたくさんの作品を見た。私は映画に、ドラマに、女優さんの演技に支えられた。そしたら女優になりたい、って自然と思った。女優さんって何にでもなれる。警察官にも、教師にも、医者にも、…毒親にも、犯罪者にも、患者にも。
人より多くの経験が出来るし、何よりも誰か別の人の人生を歩めるみたいで羨ましかった。
一生懸命になれている女優さんがまぶしくて、いつか同じ舞台に立ちたい、そう夢見始めたのが昨日のことみたい。しかも、自分の演技で、一生懸命作った作品で誰かを感動させることができたり、誰かの人生の支えになったりできるなんて。私も一人でも多くの人を笑顔にできる女優さんになりたい。
「っ…。」
隣の席に誰かが来て私は慌ててスマホを閉じた。
2 黄色い晴れ予報
—キーンコーンカーンコーン。
「ねえ、こと!!うち、A組のひろと君と付き合うことにした!!
「え、お、おめでと!!もしかして昨日の?」
「うん!!思ってたよりかっこよくて。」
「さすがモテる女は違いますね。」
「そんなんじゃないって。あ、ねえ、次のホームルーム何するか知ってる??」
「文化祭の役決めだよ。」
「げ、もうそんな時期か…。ってかさ、貴重な夏休みを文化祭の準備で奪わないでほしいんだけど。」
「そんなこと言って。当日一番楽しんでるの、花だと思うけど??」
「当日は楽しんだもん勝ちじゃん、そうじゃなくて、夏休みは合法的に寝坊できるんだよ??」
「は~なさん、私たちは受験生です。」
「っ、し、知ってるもん。でもうちまだ何やりたいかわかんないんだもん。」
「花はさ…」 キーンコーンカーンコーン
「あ、ごめん。」
「あ、うん。クラス委員だもんね!ファイト!」
「えー今日は文化祭のクラス映画の役決めをします。この間、脚本担当者が書いてくれた台本を読んできてもらったと思うので、やりたい役に挙手お願いします。じゃあ、まず主人公の「あかり」やりたい人?」
同じクラス委員の寺本君はいつもしっかりしてて、なんでもテキパキこなしちゃう。こういう決め事も彼が司会するだけでかなりスムーズに決まるから、私は書記に回ることが多い。彼は話し方も「ザ・頼れる人」って感じ。私も「しっかりもの」ってよく言われるけど、彼にはかなわないなぁって思うくらい、彼はすごい。彼なら、何でもなれるんじゃないかな、って思う。
「…いないか。じゃあ、いったん次の役決めます。ヒロインの「はるき」やりたい人?」
「みつきがいいと思いま~す。」「俺もそう思いま~す。」
「成瀬君推薦されているけど、どうですか。」
「じゃあ、やります。あ、でもサッカーの練習もあるから、そこはよろしく。」
「じゃあ、成瀬君で。…高梨さん、?書記お願いしたいんだけど…」
「あ、ごめん。」あぶないあぶない。しっかりしなきゃ。
「ってか、高梨さん主人公やれば??演劇部だし、明るい感じとかピッタリじゃん!!」
「えっ。」
「高梨さん、どうする?」
「私もことが適任だと思いま~す。」
「……え、わ、私でよければ。」
「うえ~い決定!」
「じゃあ、次の役を…」
私でいいのかな、花の方がかわいいし、私、そんなに明るくないし。他の子の方が向いているんじゃ……でも、本当は、ちょっとだけ、…ううん、すっごくやりたいと思ってた。だっていつもインスタグラムでみているあの子たちに少しだけ近づけるような気がしたから。受験もあるけど、本気で頑張ってみようかな。
私は退屈だった学校生活が少しだけ楽しくなるかもしれない予感がした。
3 淡いフィルム
「じゃあ、さっそく読みあわせします。」
文化祭の映画製作が始まった。台本を読み合わせて、動きを確認したら撮影する。セリフが抜けて取り直したり、時には通行差が来ちゃって取り直したり…の繰り返しだったけど、カメラにうつる自分を見るのもなんだか不思議でわくわくした。私が演じるあかりは、いつもまっすぐでぶれない女の子だ。作品の中で彼女はたくさんの試練にぶつかる。友達と同じ人に恋をしたり、部活で上手くいかなかったり、親の喧嘩に悩んだり。でも、どんな時でも、まっすぐに思いを伝え、周囲の人を必ず笑顔にしてしまうのだ。そして最後は、正々堂々と友達と恋の対決をし、あかりは告白に成功する。もちろん、その彼は成瀬君演じるはるきだ。はるきはクラスの中心人物で、みんなの人気者。ちょうど成瀬君と同じでサッカー部だ。
…もちろん、私はあかりにはなれない。でも、自分ではないあかりを演じられることが楽しくて仕方ない。演じているときは、自然と笑える気がした。
「高梨さん、今から帰り?一緒に帰らない?」
「あ。うん。」何度目かの映画撮影終わりに成瀬君に声をかけられた。
「高梨さんってすごいな。演技上手すぎ。俺、相手役なの申し訳ないんだけど(笑)」
「そんなことないよ、成瀬君サッカーで忙しいはずなのに、すっごい「はるき」のことわかってて、今日の「俺はどうしていいかわかんない」って言うシーン、すっごい感動した。あと、…」
「っはははは。高梨さん必死に語りすぎ。」
「ご、ごめん、でも演劇部にいてもおかしくないくらい上手いから。」
「ありがと、なんか最近高梨さん明るくなったよね。」
「え、そう??」
「うん、俺サッカーでキャプテンやっているからか、人の変化に気づく才能はあるんだよ。」
「すごいね。さすがキャプテン。
…うーん、多分映画が楽しいからだよ。」
「あ、それはおれも!これからも頑張ろう!じゃあまた明日~」
「うん!」成瀬君も撮影楽しいって思ってくれてるんだ…。うれしくて、でもにやけてるのを隠すために咳払いした。
「ねえねえ、みんなお昼持ってきた?」
「持ってきてないけど…」「俺も~」
「ことは?」「あ、私も持ってきてない。今から近くのコンビニ行こうかとおもってたとこ。」練習が終わった後に、花がみんなに満面の笑みで提案してきた。本当はすぐに塾に行くつもりだったけど、一日くらいいいよね…。
「やった!今からみんなで撮影おつかれ様ってことでご飯行かない?」
「いいけど、花、まだ撮影終わってないよ~~??」
「いいじゃん、こと、かたいこと言わないでさぁ~~」「俺は三浦さんに賛成!どこ行く?」「成瀬ナイス!」「腹減っただけ。」「ピザとかどう?」「いいね!!」
監督の寺本君に、カメラ担当の北林さん、衣装・ヘアメイク担当の花と、キャストのみんなで映画への思いを語り合う。初めはやる気がなさそうに見えた人もいたけど、みんな見違えるように一生懸命にやるようになった。どんどん仲良くなって、まとまりも出てきて、もう言葉にできないくらい楽しかった。映画を撮っているとき、私はなんでもできるような気さえする。背中に羽が生えたみたいに自由になれる。日常に不満があるわけじゃない。でも、ここが私の居場所だって自信を持てる。ずっとこの時間が続けばいいのに。
4 グレーに染まる気持ち
「…と、こと」「…え」
「もう8時よ」「えっっ」
「何度も起こしたわよ。」「やば、」
「最近忙しいみたいだけど大丈夫?寝るの遅くなった?」
「映画のセリフ確認してて気づいたら日付超えてて…」
「よほど楽しいのね。でも、よりによって受験の天王山って言われる夏にやらなくてもねぇ。」
「あはは、そうだね、」誤魔化すように笑った。私は映画撮影が楽しくてたまらないんだけどなぁ…。お母さんは映画製作のことを応援してくれている。それは伝わってくる。でも、心から応援してくれているのかわかんない。
ほんとは反対なんじゃないかなって。映画製作の話を本当はいっぱい聞いてほしいけど、どう思っているのかわからないから、何にも言っていない。花と前より仲良くなったことも、みんなでピザパーティーしたことも。前より会話が減って、お母さんとの間に見えない壁ができているみたい。そんな気がそしてしまってたまらなく寂しくて悲しい。
「寺本くんって将来何になるの?」撮影合間に、彼が熱心に勉強しているのを見て、気になって聞いてみた。
「僕は、弁護士。」
「うわぁ、想像通りかも。」
「高梨さんは医学部行くんだっけ?」
「うーん、どうだろ、そもそもいけるかどうか…。」
「でも、頑張るしかないよね」
「そ、そうだね、」
そうだ、頑張るしかない。でも…
最近、塾に行っても本当に集中できない。前までは、インスタグラムを見てもいいな、と思うだけだったのに、最近はどうしても羨ましく思ってしまう。それに、もっと最低なことに、明るく笑う花を見ても、可愛い子は悩みなんてないんだろう、と心のどこがで考えている自分がいるのだ。あんなに仲良くしてくれているのに。いつもこんな私が羨ましいと言ってくれる子なのに。いつも誰よりも明るく「おはよう」って言ってくれるのに。勉強しないと、頑張らないと、このままだと落ちちゃうのに、いろんなことを考えているせいで全く身にならない。自習室にいる他の人がのめりこむように勉強している姿がたまらなく辛くなって、泣き出したくなることが増えてきた。親にもせっかく塾に通わせてもらっているのに、私最低だ。あんなに応援してもらっているのに。毎日お弁当を作ってくれたり、毎晩駅に車で迎えに来てくれたり。模試の朝にはスイーツを用意してくれることだって。でも最近、どうしようもなく周りが羨ましくて、私も女優になりたいという思いでああふれてしまう。
「女優になりたい。夢が変わったの。」
そう言えたらどんなに楽だろうか。でもお母さんとお父さんだけには絶対言えない。だけど、頑張れてないのに、このまま二人に応援され続けるのにも耐えられる自信がない。将来ってもっと明るいものだと思っていた。信じていた。でも、今の私にとっては暗くて先の見えないトンネルみたいに思えてしまう。みんなはどうやって選択するのかな。まっすぐに夢にむかって頑張れる人はどこでその能力を手に入れたのかな。私にはできないよ。癒しだったはずのインスタグラムを見ても、何も行動できない自分が嫌になって泣きそうになるだけだ。
「…次はあかりがまっすぐな思いを告白するシーンです。このシーンは…」
寺本君がみんなに的確な指示を出してくれるお陰で、順調に撮影が進んできた。撮影し始めてから、もうすぐ3週間がたつ。もう半分以上撮影したと思う。完成まであともう少し。みんなでああでもない、こうでもないと一つのシーンで討論会が開かれたり、休憩中に成瀬君が衣装にジュースをこぼしちゃって大慌てで洗濯したり、ホントに毎日いろんなことがある。花とも映画の話で盛り上がり、成瀬君ともかなり打ち解けてきた、
なのに…成瀬君といるとつらいと思ってしまうときがある。女優になりたいという思いが強くなればなるほど、成瀬君といるのに辛さを感じることが増えてきた。
原因はわかっている。彼がサッカーに一生懸命になれているから。ただそれだけ。つまり、原因は私の嫉妬。花にも、気まずさを感じ始めていた。花は親友だからなんとか笑ったり会話したりできた。でも、成瀬君とは、上手くできなくなっているきがする。どうしたら…
「あのさ、高梨さん、どうかした?」
「え??」
「あ、勘違いだったらごめん。」
「ううん。…。」
「高梨さん?」
「ごめん、今日は先に帰るね」
成瀬君のまっすぐな視線が心に刺さってくるようで、痛くて、辛くて、気づいたら思わず走っていた。かなり走った後、頬が熱いのに気づいた。危なかった。このまま成瀬君と対峙してたら、困らせるところだった。もしかしたら、耐えきれない思いを彼のせいにしていたかもしれない。自分でも何がしたいのか、どうしたらいいのかわかんない。彼を避けるのはおかしいのに。
このままだともっと自分を嫌いになりそうで、辛い。夜、ベットの中で声を殺して泣いた。いっぱい、いっぱい泣いた。泣く以外に何もできなかった。考えると辛いから、考えないようにもっと泣いた。布団が涙でぐちょぐちょになっても涙は枯れてくれなかった。疲れて寝落ちして気づいたら朝で、また「おはよう」の練習をする。でも、いつもみたいに上手く笑えない。泣きすぎて、目も腫れている。私って何なんだろう。もうわかんない。また涙がこぼれてきた。
―ごめん、今日風邪で休みます。
はぁ。とうとうずる休みしちゃった。今までずる休みなんてしたことなかったのにな。でも、花と成瀬君に会わなくて済むことにホットした。やっぱり私最低だな。でも、今は今だけは会いたくない。花、成瀬君、ごめん。
お母さん、お父さんもごめんなさい。今日だけは、嘘をつく私を許して。頑張れない私を許してください。
5 君がくれるまぶしい光
それから3日休んで何とか撮影に参加した。全く集中はできなかったけど、塾にも行った。ただ、一人でいるとごちゃごちゃ考えちゃうから、一人になりたくなくて、外に出ただけ。
そして長い長い撮影が終わった。もう、成瀬君とも関わらなくてもいい。学校に来なければ、花とも会わない。早いとこ帰ろう。
「ねえ!!打ち上げしない??」
「三浦さん、それいい!成瀬君は空いてる?」
「サッカーの練習今日は休みだからいけるよ。」
「寺本君は??」
「楽しそうだから行こうかな。でも、夜はさすがに勉強しないと。」
「今勉強の話しないでよぉ~。」
「ごめんごめん。高梨さんは行ける??」
「…。」
「高梨さん??」
「あ、ごめん。」
「こと、どうしたの?」
花が珍しく、心配そうな顔だった。やばい、みんなの雰囲気を壊すのはさすがにだめだ。
「空いてるよ。」
大丈夫。ただ静かに空気を壊さないように参加して、花とも成瀬君とはなるべく話さなければいい。そう思った。
私たちは北林さんの提案でカラオケに行った。カラオケなら、途中でも抜けやすいし、公園を抜けたらすぐ駅に行けるから。それは私にとっても好都合だ。「ごめん、俺そろそろ…」適当に歌って食べて2時間が過ぎたころ寺本君が帰る話を切り出した。
「あ、私もそろそろ帰るね。」
「え~~、こと帰っちゃうの~~」花がマイク越しに言ってきた口調が酔っ払いみたいでみんな大爆笑。私も苦笑いして「ごめん、また」って言おうとしたときだった。「俺も帰るわ。」「えっ」
何で成瀬君も帰るのよ!!「そっかぁじゃあねぇ~」しかも、なんで花止めないのよ…。
方向が違う寺本君と別れた後、仕方なく、成瀬君と帰ることになってしまった。
どうしよう。き、気まずい…。前までなんて話してたっけ…。会話記録でも取っておけばよかった。どうしよう。でもずっと黙ってたら変に思われるし…。公園の静けさが辛い。
「高梨さん」
「っひゃ。」必死に考えてたせいで変な声が出てしまった。「あはははは」
「もう!!」
「ごめんごめん、あはははは」
成瀬君の笑っている顔を見ていたら、自然とおかしくなってきた。「ふふふ」
「あ、」
「うん?どうしたの??」
「高梨さん、やっと笑った。」
「え、あ、」
「最近全然笑ってないし、なんか避けられてる?て思って」
「そ、そう??」ば、バレてた…どうしよう、申し訳なさすぎる…
「あのさ、俺でよかったら相談のるよ?」
「えっ」
「いや、その、前にも言ったけど、おれ、キャプテンだから。そういうの他の人より得意だよ。そのだから…」必死に語る成瀬君は珍しくて、でもうれしかった。
「高梨さん、??」
「私ってどんな人?」
「え、?」
「あ、いや成瀬君から見た私ってどんな人かな、って。」
「え。……う、うーん。……真面目、かな。」
「…。」
「あ、悪い意味じゃないから。なんていうのかな。勉強だけじゃなくていろんなことに一生懸命になれる人って意味。どんなことも手を抜かないで努力するから、みんな高梨さんを頼っちゃうんだろうなってすっごい感じる。…なんか恥ずかしいな。あ、ベンチ座ろ。」
「うん。あ、ごめん。ありがとう。」
「でも、なんでそんなこと?」
彼が真剣に話を聞こうとしてくれてるのがわかって、気づいたら…
「…私さ、そんなすごい人じゃない。」
「…どういうこと??」
「…。」
「言いたくないなら言わないでいいよ。」
「……いなの。」
「え?」
「私、最低なの。あのね、…誰にも言ってないんだけど、私ホントはずっと女優になりたかったんだ。映画とかドラマとかで輝く女優さんに憧れてたの。ホントは高校受験の時も悩んでた、親に言うか。中3のクラスにさ、売れてないけど芸能界目指してた男の子がいたの。最初は純粋にすごいなって思ってた。でもだんだん、羨ましいって思い始めた。ただ自分が挑戦できないことに挑んでるその子に嫉妬しただけなの。それなのに、素直にその子のこと応援できなかった。」あのころのことを思い出して、涙が出てきた。でも、成瀬君はただ静かに聞いてくれていた。
「高校に合格したら、親に言おうって思ったの。でも、でもね、高校になんとか合格してね、親の喜び見てたら、まさか女優になりたいだなんて言えなかった。だから、せめてもの思いで演劇部入ったの。だけど、やっぱり映画と演劇じゃ全然違くて。演じるのは楽しいんだけど、私がやりたのはこれじゃないって思ったの。
だから、クラスの映画で主役やらないかってクラスの子たちが言ってくれた時、すっごくうれしかった。でもね、撮影にのめりこんでいくうちに、この撮影が終わったらって考えちゃったの。また、悩むのかって。そしたら、怖くなって。目標に向かって頑張る成瀬君と可愛くて明るく笑っている花がどんどん羨ましくなったの。私は心から笑えていないのにって。一緒にいるのが辛くなってきて、撮影もずる休みした。私、最低でしょ。自分に自信がないから何もチャレンジしてないで、ただ諦めて頑張っている他の人に嫉妬して。私はこういう人なの。」
一気に言ったせいで息が切れていた。顔も涙でひどいことになっているんだろうな。言い終わった後、また静寂が戻ってた。冷静になった途端に怖くなった。冷や汗さえ出てきた。成瀬君、怒ってるよね…。どうしよう。怖くて、成瀬君の顔が見れない…。
「高梨さん。話してくれてありがとう。」
「えっ。なんで」
「うん?」
「わ、私人として最低なこと言ったんだよ?何で、何で怒らないの??」
「三浦さんと俺に対して嫉妬したこと?
それってさ、誰もが経験することじゃない?」
「え、、」
「俺も似たようなことあるよ。中学の時、バドミントンで優勝したやついてさ。俺、高校受験だから、とか言って中3入ってすぐ引退したんだけど、そいつはずっと頑張ってた。しかもそいつ、勉強できんだよ。俺、すっげー悔しくて勉強必死にしたのに、いつもかなわなかった。挙句の果てに優勝、もう何もかも嫌になってさ、そいつに言っちゃったんだ。お前は何でも思い通りにいっていいなって。そいつがめっちゃ努力してたの知ってたのに。自分ができないからって、そいつと俺は違うって自分から諦めたんだ。だから、高梨さんが自分を最低って言うなら、俺も同じだな。」
こんなつらそうな彼の顔は見たことが無かった。いつもきらきらしてて、目標に向かって迷いなく突き進んでいると思ってた。彼の辛そうな顔を見ると私まで辛くなる。
それに、私は彼が努力家なのを知ってるから。
「そんなことないよ。成瀬君は、ちゃんと勉強して、高校合格してるじゃない。」
「それは高梨さんも同じでしょ、頑張ってるその芸能界入った人見て、勉強して、努力の結果合格した、違う?」
「…。でも、成瀬君は今、サッカーしてる。ちゃんと、諦めてないし、ちゃんと頑張ってる。」
「うん。もう逃げたくないって思ったから。でも、迷いもあるよ。このままサッカーし続けてもプロになれる保証はない。正直言って怖いよ。親にも、「そろそろ現実と向き合え」ってこの前言われた。だから、しっかり考えて悩む高梨さんは偉いと思う。
…ちょっと前に、高梨さんに「私ってどんな人?」って聞かれたとき、俺、「真面目」って言ったじゃん?あれ、そういう意味。俺はサッカーは必至にやってるのに考えることから逃げてるから、高梨さんが羨ましくなったんだ。」
「そんな風に思ってくれてたんだ。」成瀬君の告白に驚きを隠せなかった。彼はいつも自信があると思ってた。
「それに俺、高梨さんもまっすぐだと思うよ。」「ええっ!?」
「っふは。そんなに驚くか?」
「だって…」
「やりたいことにまっすぐだから、他のことやりたくないって思うんじゃないか?そもそもやりたいことをやりたいって強く思って、真剣に考えているから悩んでるんだよ。今の自分から変わりたいって心から願っていなかったら、高梨さんのその悩みは生まれてないよ。高梨さんは、正面からまっすぐ向き合おうとしているんだよ。」彼の言葉はまっすぐで、心にすとんと落ちてくる。
「あのさ、俺、高梨さん、あかりそのものだと思う。あかりはいつもまっすぐじゃん。でも、俺が台本読んで思うあかりよりも高梨さんが演じるあかりの方がすっごいまっすぐでさ。最初は「こんなにまっすぐな人いないだろっ」って解釈不一致だったんだけど、どんどんそのまっすぐさに引きこまれてった。まっすぐすぎて怖いくらい。マジで動物で例えるらなイノシシだなって思った。」
「いのしし!?」
「うん。ただ、まっすぐすぎて心配にはなった。いつか、壁にぶち当たって、壊れてしまうんじゃないかって。前さ、俺の演技褒めてくれたじゃん?あの時もまっすぐだったよなぁ。すごいよ、ほんと。あのまっすぐさに俺は救われた。だから、ありがとう。」
「そ、そんなこと…」もう我慢できなかった。うれしくてうれしくて涙が勝手にあふれてきた。今まで心にこびりついて離れなかった悩みが少しずつ流れていくのを感じた。
「あとさ、三浦さんのことだけど、心配してたから、ちゃんと話してあげたらいいと思うよ。信じてるんじゃないかな、高梨さんが話してくれるの。」
「うん。ありがとう。ごめん、涙止まんないや。」
「いいよ、泣けるときに泣きなよ。」
やっぱり私は恵まれているんだろうな。花とちゃんと話したい。お父さんとお母さんにもいつか、きっと話したいな。彼の言ってくれたまっすぐな私のままでいたい。私は泣きながら強く強くそう願った。
6 青く燃える勇気
「花。あのね話がある。」家に帰ってすぐにラインした。その返事は予想通りOKだった。
次の日、花の家に呼ばれた。花のご両親には会ったことがことがなかったから緊張してピンポンしたら、仕事に行っているらしい。
「…花、あのね、えっと」
花の部屋は静かで、昨日の自信が薄れてしまい、なんて言い始めていいかわからなかった。でも逃げることはしたくない。
「あのさ、私女優になりたいって昔から思ってて、それで最近悩んでるんだ。だからね、可愛くていつも明るい花に嫉妬、してたの。どうしていつもそんなに明るく笑えるのって、花は何も悪くないのに勝手に羨ましがってた。それで、花といるのが辛く感じることがあって、ホントごめんなさい。怒っていいよ。」
「謝られたら謝りにくいじゃん。」
「えっ」突然花の真剣な声が降ってきた。
「うちも同じだから。あのね、うちやりたいことがわからないんだ。いつも周りに流されて、とりあえず何となく生きてるの。だからね、えっと、その………あぁ、ほんとごめん、ごめんなさい。」
「えっ」
「うち、ことが羨ましかった。医学部進学っていう目標があって、いつも必死になってて。うちには頑張れることがなくて、だから…」
「ふふ。」
「…こと何で笑うの、真剣に話してるのに」
「違うの、ごめん。花が同じ悩み抱えてるのに親近感みたいなの抱いちゃって。なんか、おんなじなんだって思ったらちょっと心が軽くなるって感じがしてさ。」
「こと…」
「花、私やっぱり花になりたいな」「ふふ、もう、だ、か、ら!うちはことの方が羨ましいんだって!!」
いつも通りの花のテンションと言葉に笑いが止まらなくなっていた。
「ねえ、こと。私、ことの夢応援するよ。」
「え、」
「一回親に話してみたらどうかな?怖いならうちも一緒にいくよ。」
「っ………。ありがとう、でも自分で伝えないと。」
「やっぱり、そう言うと思った。ことは真面目さんだもん。」
「真面目…?」
「うん。覚えてる??うちが高2で一回ぐれたじゃん。あの時、ことはうちのこと絶対に馬鹿にしなかったし、唯一真剣に話を聞いてくれたんだよ。こんな良い友達、他にはいないよ。ことが真面目に話聞いてくれたから、私ちゃんと生きていこうって思えたんだよ。ことの真面目さがうちらをつないでくれたんだよ。だからうちはことが好きなの。」
「っ…。」私はずっと、中学生の時に友達に言われた「真面目だね」言葉が嫌だった。でも、花の一言で、自分の真面目さを少し好きになってもいいような気がした。「ありがとう。」
花に抱き着いたら、あったかい腕で花も抱き着いてくれた。
その夜、私は決心した。お母さんとお父さんにちゃんと告白する、もう、逃げない。
「今ちょっといいかな。」
「どうしたの?」「ごめん、こと後でもいいか」いつもなら、いい。でも今だけは…
「今じゃなきゃだめ。ごめん、今言いたい。決心が揺らがないうちに。」
それから、私は今までの思いを全部伝えた。うれしいこと、辛いこと、悩んできたこと。成瀬君と花のことも伝えた。二人は初め、何か言いたそうな顔をしたけど、私の話を静かに聞いてくれた。
「女優って生きていくのが大変なんだぞ。厳しいし、今よりもっと悩むと思うぞ、それでもいいのか。」
話し終わるとお父さんが静かに言った。反対されることは覚悟していた。だけど、花が私の真面目さを褒めえくれた。成瀬君がまっすぐなのがいいって言ってくれた。私は私らしく思いを伝えるんだ。
「どんな道に進んでも悩みはきえないでしょ。どうせ悩むなら、真剣にやりたいことやって悩みたいの。だから、挑戦してもいいかな。」
「どうせやるなら、本気でやりなさい。お母さんは今まで通り応援するから。」
「っ…。」
今までお母さんが心から応援してくれてないと少しでも思った自分に「ばか」って言ってやりたくなった。私は改めて、幸せ者だと感じた。お母さん、お父さん、大好き。
花、成瀬君、勇気をくれてありがとう。
7 赤くて甘い幸せ
文化祭、当日、お母さんとお父さんが見に来てくれた。びっくりしたのが、二人が一番客だったってこと。私たちの映画はたくさんの人たちに褒めてもらった。演技についても、ナチュラルで見てて違和感がない!って言ってもらえた。後輩の中には、「サインください。」ってちゃんと色紙を持ってきている子もいてびっくりした。でも、何よりうれしかったのが、お父さんが私の告白シーンで泣いてくれたことだった。お父さんは泣いているのをばれないように必死だったみたいだけど、終わったあと、「よかった」の一言を言ってくれた時、目が真っ赤だった。お母さんは泣いてはなかったけど、「よく頑張ったね」って褒めてくれた。
文化祭終了後、成瀬君に一緒に帰ろうと誘われた。実はまだ、親に話せたことを報告出来てなかったから、私も話したいと思っていた。
「成瀬君、あのさ、私、花とも親ともちゃんと話したよ。成瀬君が私のことまっすぐだって褒めてくれてそれで自信ついた。ありがとう。」
「今日、最前列で泣いてた人って高梨さんのお父さん?」
「えっ、なんで?」
「やっぱりそうなんだ。良い人そうだな。」
「うん。なんだかんだ、応援してくれた。なんかあんなに悩んでたのかちょっと嘘みたい。全部成瀬君のおかげだよ。」
「俺も。」
「え、え?何が?」
「俺、サッカー続けることにした。」
「ほんと!?」
「親にさ、ちゃんと伝えたんだ。まだサッカーやりたいですって。ちょっと渋い顔されちゃったけど、でも反対はしなかった。ま、だからこそ、結果出さないとな、練習頑張るわ。
…高梨さんに勇気もらった、ありがとう。」
「よかった。」
「…。」
「なるせ、くん?」
「あのさ、来週って空いてる?」
「え、うん。空いてるよ。」
「あのさ、その、良かったら、なんだけど、俺、試合出るんだ。だからその、見に来てくれないか?」
「え、私行っていいの?」
「俺、ずっと好きな人にサッカー応援してもらうが夢なんだ」
「えっ」彼の顔を見たら耳まで真っ赤だった。
「ふふふ、はははははははは。」
「な、なんだよぉ」
「だって真っ赤だから。おかしくて。」
「っう~、かっこよく決めたかったのに。」
「ふふ、いいよ、応援行きたい。」
「え、マジで。やっべうれしい。俺、頑張るから。」
「うん!!」
8 真っ白な一ページ
これから、やっぱり生きてたら悩みは絶えないと思う。どんなにネットに頼っても私が欲しい言葉はくれない。だから、悩み続けるしかない。でも、悩みって生きてる証だ。悩むのは生きてる特権だと思う。私はこれからも夢を見続けたい。夢は人を変えてくれるから。生きていくエネルギーになるから。たくさん考えてたくさん悩んで、時には誰かに頼って、私なりに一生懸命真面目に生きていこうと思う。今日も、鏡の前で笑って1日が始まる。今日の幸せを願って「おはよう」
この度は数ある小説の中から、選んでいただきありがとうございました。
これは私の今の悩みをそのまま言葉にしてできた作品です。同じ悩みを持つ方に、少しでも届いたらいいなと思ってします。
私はまだ悩みが解決できてないので、これはあくまでも私の希望、妄想です。それでも、たった一度きりの人生を楽しみたくて書いてみました。うまく書けているか、言葉にできたか心配ではありますが、多くの人に読んでいただけるとうれしいです。
本当にありがとうございました。