地元がテレビに映った
……地元がテレビに映っている。
世界情勢の緊迫したニュースのあとに流れる、のどかな風景。
遠い国の光景のあとに流れる、すぐ近くにある、見慣れた風景。
この番組は…全国放送だ。
今、この瞬間。
全国の視聴者が…平凡な日常のワンシーンに注目している。
……なぜ、このニュースが。
……なぜ、このタイミングで。
どこにでもありふれている、イベント。
どこでも発生するような、エピソード。
誰もが口にする、フレーズ。
どこかで聞いたことのある、ワード。
誰もが知りたいと思う、世界の出来事。
誰も知る必要のない、片田舎の出来事。
悲惨なエピソードを、平凡なエピソードで中和しているのだろうか。
胸に突き刺さるワンシーンを、のどかなワンシーンで癒しているのだろうか。
気持ちの切り替えに適していると…判断された?
ありふれた日常として…この町の光景が取り上げられた?
……地元が、テレビに、映っている。
昨日、通った場所だ。
子供の頃から通っている、場所だ。
これからも通る、場所だ。
……目が、離せない。
いつも通っている場所を…画面越しに見つめる。
自分の知っている場所がテレビに映った、それだけで…テンションが上がる。
たかが一分弱の、他愛もないニュース。
画面が切り替わり、誰もが知るニュースキャスターの姿が映った。
簡単なコメントを残し、天気予報の画面に変わった。
……地元がテレビに映った。
その事実が、気分を高揚させる。
この事実が、一日を豊かなものにしてくれる予感がする。
手早く準備を整え、意気揚々と職場に向かった。
「地元がテレビに映った」
その事実を、伝えたら。
「そうなんですね」
「あ、もうそんな時期なんだ」
「自分が映ったわけではないんですよね?」
「それはそれは…」
「なんか…田舎者って感じ」
「私の住んでたマンション、毎朝映ってるんだよ」
「そう言えば資料の写真、修正入ったんで」
………地元が、テレビに映った。
貧弱なエピソードは、平凡な日常の中に溶け込んでいった。