4-07 【急募】異世界への戻り方!
勇者として異世界に召喚された天野東寺は、地球へ帰還するため、仲間達と邪神を討伐していた。
その戦いの最中、邪神の魔術により地球に戻されてしまう。
帰還の望みは叶ったが、8年間死戦を共に乗り越えた仲間の安否が気になり、異世界に戻ることを決意する。
その方法を探す中で、自分とは全員違う異世界から地球へ出戻りした三人と出会う。
イカれてると言えるほど強い正義感を持つ女勇者、久遠。
太っているのにイケメンな雰囲気を放つ異界の魔導王、太子。
素性を異界の魔女ということしか明かさない謎多い女、葛葉と出会い。
この世界に自分達が止まれる期限があること、生半可には戻れないことを知る、
早急な帰還をするために、東寺は三人と協力関係になり、それぞれの世界へ戻る様に動くが、暴走、裏切りなどなど一筋縄では行かない協力者達。
東寺はそんな中でも必死に活路を探すが……。
神殿の残骸が散らばる荒野に、聖剣と魔剣がぶつかり合い、甲高い音と眩い閃光が飛び散った。
受けた斬撃を無理矢理弾くが、即座に三対六本の腕に握られた剣全てで、マシンガンのような連撃が返される。
「ちっ、厄介な。この邪神を討伐しろとかふざけてやがる!」
愚痴をこぼしながら剣戟を捌き続ける。
理不尽な状況、理不尽な敵の強さに、文句でも言わなきゃ投げ出したくなるが、そんなことしたら世界は滅びるし、
「東寺! 横に飛べ隙を作る」
「東寺さん、補助魔術をかけ直します!」
今共に戦っている仲間達も死ぬ。そして何より、俺が元の世界に帰る手段も消える。そんなクソッタレな現状を再認識し、脚と腕に限界を超えた力を込め、一閃。
「縺薙@繧?¥縺ェ」
「くっ……へっ、これでお前の手数が減ったな阿修羅もどき」
戦士のロキと共に邪神の腕五本を切り落とした。
その反動で、腕が明後日の方向に曲がったが、即座に淡い光りに包まれ、何もなかったかのように再生される。
「東寺さん、こんな時にふざけないでください!」
「回復助かったよ、天使な聖女アメス」
「も、もう! 戦いに集中しなさい!」
アメスの可愛い叱咤を記憶しつつ、邪神の近接射程から離脱。後方にいる魔術師ニケの周囲に浮かぶ魔術文字を流し見て、叫ぶ。
「ニケ!」
「問題無い。皆、散開。撃つ!」
直後ニケは極大な光線を放ち邪神を焼いてゆく。端々から塵になり、邪神にかなりの損傷を与えたが、
「ガァ! 縺オ縺悶¢繧九↑」
「皆! これやばい!」
ゲヘナの奇声とニケの叫びが重なり、周囲に赤黒く、溶けたような無数の魔術文字が浮かんだ。
「何か仕込んでやがったな! 皆、全力で退避し――」
言い終えることなく、視界が白く染まる。
「ちっ、周囲の空気が変わった、ってことは……」
転移か、と言いかけ一転した景色を見て、息を飲む。
アスファルトで出来た道に、コンクリート製の建物が並ぶ、覚えのある景色。
――ここは俺がいた世界だ。
よく似た違う場所などでは無い。向こうで八年、仲間と共に死線を乗り越え、帰れる日を楽しみにしていた故郷。でも「やっと戻って来れた」なんて考えるよりも先に、俺は周囲を見回す。
「クソ、三人がいない。俺だけ飛ばされた⁉︎」
魂のパスが仲間達の生存を伝えているが、相手は邪神だ。三人でどれだけ持ちこたえられるか……。
とにかく早く戻らないとと、魔具で仲間達の座標を表示し、転移魔術を構築するが、上手くいかない。何度試しても同じだった。
「術は起動してるが移動しない」
異世界間転移だからできないってことは無い。
魔術に対して嘘を言わないニケに「討伐を諦めるなら帰還してもいい、それも可能」と教えられた。
おそらく何かが足りていない。膨大な魔力が必要だから容易には使えないとも言っていたが、魔力が足りない感じじゃ無かった。それ以前の……もしや魔術事態が発動できない?
などと考えていたところで、パシャリという音が鳴り、意識と視線が音へと向いた。見てみれば、知らぬ男が俺をスマホで撮っていた。
何故俺をと考え、理解する。
あ、俺鎧姿のままだわ。こりゃ撮られてもしかたな――い訳あるか!
「うわっ、なんだ冷た!」
不快さから放水魔術で男を水浸しにしてしまった。
あれ、他の魔術は発動できた。
異世界間転移だけ特別無理なのか? ならと、別の魔術を男へかけ、話しかける。
「よお、久しぶりだな!」
「ん、え? あぁっ! 久しぶりじゃん。どうしたんだ?」
「うわっ。いや、ちょっと困ってることがあって、スマホくれん?」
「ん、ん? 勿論いいさ俺とお前の仲だろ! もってけもってけ!」
【認識誘導魔術】多量の魔力を込めても魔力抵抗で無効化されるゴミ魔術。
だが、魔術が無いこの地球だとやばいな。
俺は快く差し出されたスマホを引きつつ受け取り、画面に表示された日時に眉を寄せた。
あの世界に行ってから一日どころか多分、数分も経っていない。
むこうの世界に八年いたが、こっちは数分か数秒、両世界の時間の進みにズレがあるなら、今の経過であいつらが死んでてもおかしくない。でも、まだ魂のパスは生存を示している。
もしや、世界間転移で帰還した場合、同時刻に戻るのか? そうだとすれば、向こうの世界は実質停止状況なのかも知れない。馬鹿げた推論だが、大きくは間違ってない気がする。
だから戻るため、情報を集めよう。
俺はそう決心し、情報収集用に魔術を構築し、SNSに『【急募】異世界への戻り方!』と呟いた。
あほらしい呟きだが、何もふざけているわけでは無い。
至って真面目、その証拠に……。
「二時間で三万リツイート、四十リプ。今なお拡散され続けてる」
呟きと共に乗せた画像に〔有用な情報があったら書き込み、知らなかったらいいね・リツイート、そしてこのツイートの事を忘れて〕という認識誘導魔術を刻印したのだ。結果、早々に気になる情報が載っていた。
〝異界へと繋がるスポット《桜樹神社》〟 複数の神隠し事件が起きている、いわく付きな場所。
幽霊見たり枯れ尾花的なものか、火の無い所に煙り立たぬと言うような本当になにかがあるのか。
面白そうだと、俺は神社の位置を確認し、転移魔術を起動する。
「ダメ元だったが通ったか。やって後悔したほうがいい、ロキの口癖だったな」
親友の言葉を思い出し、同世界内の転移をした。
これ、ここのが特別転移出来るのかもしれない。境内手前に飛んだにもかかわらず、魔術の法則が俺の知る両世界ともやや異なっている。
――ん?
魔力を持っている奴が一人? いや、今三人になった。しかも瞬間的に増えた?
炎のように熱く揺らぐ神々しい魔力と、今にも爆ぜそうな暴れた魔力、一番濃い状態ながら、意識しないと見失う程に制御された魔力。
一般人に魔力持ちはいないはず、しかもこんな洗練された奴ばかり。
このリプ罠だったか? 偶然今来たなんてのは無いだろう。逃げるか?
「あんた洗脳魔法使いの魔族ね! 私を元の世界に返す方法をおしえなさい!」
逃亡を考えたところで、突然茶髪でロングの女が現れ、斬撃を振るってきた。
女の襲撃を必死に交わしたが、紙一重だった。こいつ五百メートルは先にいたぞ。移動形魔術の発動予兆はなかった。なのに何故目の前にいる。
というか今の斬撃、地面を数センチ抉ってやがる。しかも手に持ってんのその辺で拾った木の棒だろ。無茶苦茶だこの女。剣捌きもあの邪神と同格でクソ厄介だ。
避けるのに手一杯で反撃が出来ない。
「手助けするぞ、帰還募集者殿」
そんな声と共にでっぷりと太った、妙な格好良さを放つ男が、黒い紐状の魔力を女の棒へ向わせ、俺の前に立ち塞がってきた。
「何故止める異界の魔導王!」
「突っ走るな、異界の女勇者。こやつも我々と同じ、帰還を望むものよ」
「そんな事は無い。あの呟きは洗脳魔法だ、奴なら魔族側の手先ノ可能性が高い、そうで無くても人を操る禁呪だ、到底許せる物ではない!」
「はー、言っただろあれはそういう類いの魔法じゃないと」
この男女は何かの協力関係みたいだが、今絶賛仲間割れし始めたな。うん、今のうちに逃げよう。
口げんかに集中し始めた二人にばれぬよう気配を消し、ゆっくりと引き下がる。
「逃げるのは待っていただけないかしら? 異界の勇者さん」
和服を着た黒髪の妖艶な女が、逃亡を阻止するように腕を掴んできた。
こいつもどこから現れた。いや、高度な魔力制御で気配を消してたのか、こいつ厄介さで言ったらこの中で一番だ。一番相手したくない。
「断る。無駄な時間を使っている暇はない」
「あら、私だってそうよ。貴方を含め異世界帰りの私達は一ヶ月内に元の世界に戻らなければ存在が消滅しちゃうのだから」
「は? それはどういうことだ」
俺は女を睨みつけたが、困った用に眉を下げられるだけだった。その顔は、与太話をしているのでも、冗談で俺を揶揄っているようにも見えない。
「私達の体は今、元の世界の法則で成り立っているの。そのせいでこの世界に拒絶されてしまっている。その証拠に、はい」
女は俺に背を向け、臀部から生えた魔力で出来た紐のようなものを見せてきた。
「これは元の世界とのつながり、貴方にも生えているわよ。ほら」
彼女に誘導され、自分の背を見れば確かに魔力製の紐が付いている。
それはゆっくりとだが、確実に綻び始めており、一ヶ月程で消えてしまうだろうと予想できた。
「これは実質、魔力供給装置兼、制御装置。これが無くなればどうなるかわかるわね?」
あの世界では、肉体の魔力がゼロになれば等しく皆死ぬ。そしておそらく、その法則は目の前の三人とも一緒なのだろう。言い争いから本気の戦闘に何故かなっている奥の二人にも、同じような紐が生えている。この情報を掴むくらいの判断力があるなら、利は多いだろう。
「分った。求めているのは協力か?」
「えぇ、そう訪ねると言う事は貴男、協力してくれるのよね?」
否とは言わせない眼差しで、こちらを見つめ返してくる女。
「おぃ! 異界の魔女! 洗脳魔法の使い手などいらん! 殺せ!」
「無鉄砲に暴れるでないアホ女勇者! お、我は協力者は大歓迎だ」
戦闘を続けながら、こちらの話を聞いていたのかあの二人は。
というか茶髪女俺を殺す気満々じゃん、やばっ。
「協力はするが……このメンバーで大丈夫か?」
「あははは、多分ね……」
とてつもなく、不安だ……。