4-01 天使な二人は俺の義妹
俺の義妹達は可愛い天使だ。金色のカフィヤと銀色のスアラ。美少女義妹二人との生活は、楽しく賑やかで輝かしくて。だからこそ、それを邪魔する奴らは兄の俺がぶっ飛ばす。ってえ? 天人の将軍? 魔人の王? 人外は想定外だって!!ヘルプシスターズ!!!!
今にも雨が降りそうな真っ黒な雲が空を覆い尽くす。
そんな空の真下を、僕は少し小走りしていた。
これ間に合うのかな。
幸いランドセルの中身はほとんど空なので、走るのは楽だが、それでも家までの距離は後一キロほどはある。
小学生の身体なので割と絶望的な距離だ。持久走は苦手だし。
……近道通るか。
いやでもあそこあんまり綺麗じゃ無いし……いや間に合わないよりはマシ。
僕はすぐに決断し、通学路にある家と家の間の隙間に入り込んだ。
ちょうど大人一人分の狭い隙間も、僕の体格ならまだ余裕だ。
ほどなく隙間から出ると、スネくらいまで伸びた雑草だらけの道に出た。
この道は真ん中に浅い水路があるので少し危ないが、気をつけて端を真っ直ぐに歩けば、半分くらい距離を短縮できるのだ。
少し息を整えてから再度小走り。その道を半分くらい過ぎた時のことだ。
「クチュッ!」
くしゃみ?
思わず立ち止まってあたりを見回すが何も見えない。
気のせい? と思ったその時。
——ピカッ!!!
辺りが凄まじい光に照らされた。
「おわっ! ……ん?」
その光は、水路を挟んで反対側の草の陰で、何かをキラッと光らせた。
「んん?」
なんだろ。気のせい?
——ドゴロロロロロロ
「「ひゃっ!?」」
遅れて聞こえた雷音にほんの少し遅れて悲鳴が聞こえた。
なんとなく光ったところが気になった僕は、水路をトンッと飛び越えてそこに近寄る。
するとそこには。
蹲ってこちらを見上げている二人の天使がいた。
一人は金髪碧眼、一人は銀髪翠眼。
纏う白いノースリーブのワンピースは、この肌寒い時期には合わないが、妙に似合っている。
そして背中からは、目を見張るほど美しく光る大きな翼が二対。
まごうことなき金色の天使と銀色の天使。
その二人が怯えたような視線で僕を見上げていた。
「えーと……」
目と目が合う。
陳腐な例えだとしても、宝石のようとしか言えない美しい青と緑の玉。
「えーと……」
言葉が出てこない。
と。
——ピカッ!!
「「へひっ!?」」
——ドンゴロロロロロ
「「ぴゃい!?」」
雷に驚いた二人が抱き合ったままさらに小さくなる。
音で我に返った僕は、二人が所々汚れていることに気がつき、少し考えて口を開いた。
「うちくる?」
二人は少し目を震わせて口を開いた。
「「○÷=%$☆〒〆|\」」
天使は謎の言語で僕に答えてくれた。
全く何を言ってるのか分からない。
「えーと……雨降るし雷くるしここは危ないから一緒に行こう」
真上を指差したり耳を塞いだり身振り手振りするが二人とも理解していない様子。
だが時間は限られている。
「行こ?」
とりあえず両手を伸ばす。
顔を見合わせた二人はまた聞いたことのない言語で何やら話し合うとこちらを見上げてきた。
そしてオズオズとそれぞれ手を伸ばし返してくる。
初めて触った天使の手は、小さくて、柔らかくて、冷たくて、弱々しかった。
これが金色の天使と銀色の天使と初めて会った時のこと。
後に僕の義妹達になる二人とのファーストコンタクト。
「…………どこか懐かしく手離したくない。そんな夢を見た気がする」
だって今物凄く二度寝したいもの。
夢の続きを味わいたいと身体が欲しているもの。
なんの夢かは分からないけど、多分俺の癒しは夢の中にあるそんな気がしてならないあの愛と慈愛と希望に満ち満ちたハートフルドリームに戻れと俺の何かが叫んでいる!
「というわけで二度寝しよう」
「そうはいくか兄貴起きろ!」
その声と共に、羽織っていた布団をひっぺがされると、とんでもない寒気が俺の体をぶっ叩く。
「か、返せ! というか何で窓開けてんだ!」
俺は布団を奪った憎き相手を睨めつける。
「だって臭かったから」
「お前それ酷すぎない? 俺まだ高校生だよ?」
「それより早く起きないと遅刻するよ?」
そう言って呆れたようにため息をつくのは、銀髪ロングの我が義妹。
セーラー服を着て布団片手に大きな胸をふんぞり返していやがる。
この寒い中、よくもまあミニスカでいられるもんだ。タイツ履いてたって意味ないだろうに。
「き、今日はあれだ。俺は休みなんだ」
「え? そうなの?」
「ああ。俺はほら優秀だから。だから出席日数が免除されてんだよ」
「そんなこと、ある? の?」
「というわけで二度寝させてくれ。なんならスアラも一緒に寝るか?」
「ななななななな」
顔を真っ赤にして焦り散らかすスアラに俺はチャンスとばかりに追撃する。
「ほら俺がさっきまで入っていた布団はあったかいぞ? こうしている間にも刻一刻と冷めていくんだ。こんな曇って寒いだけのつまらん冬に外出たって楽しくないぞ。ほらほらこちらは天国さ」
言いながら布団を軽く叩くと、スアラは何やらぶつぶつ呟きながらも、ふらふらこちらに寄ってくる。
「そ、そうよね、ほら寒いしね。せっかくのあったか布団ねあるからね。決して兄貴が誘ってるとかあわよくばなんてないけど、うん。とりあえず寒いからね。あったまった方がいいよね。決して兄貴と寝ることに何かあるわけじゃないけど。でも兄貴だし。血は繋がってないけど。別にいいよね。だって兄貴がいいって言ってるんだから。あたし発信じゃないから」
よしよし。
これで俺はまた幸せな夢の続きを。
「何やってるんですか? お兄ちゃん、スアラ」
「「あ」」
精神的極寒の空気の発信源に目を向ければ、スアラと同じセーラー服と胸の部分が大きく膨らんだエプロンを纏い、片手に包丁を持っているもう一人の義妹が俺たちをジーッと眺めていた。
いや待て何で刃物持って歩いてんだ。せめてフライパンとお玉だろ。
「えっとーこれは、だな。そうだスアラがな。どうしても私もお兄ちゃんと寝たいーって言うんでな」
「ちょ!? なんてこと言うのさ! 裏切り者!」
「お兄ちゃん。スアラはそんなこと言いませんよ」
「そうよそうよ! カフィヤはわかってくれると思ったわ」
「スアラは兄貴と寝たいと言ったんでしょ?」
「言ってない!!」
二人のやりとりの間に俺は静かにベッドから降りようとしたが、極寒の視線は常に俺に向けられていることに気がついた。
逃げられない。
「お兄ちゃん。せっかくの朝ご飯が冷めてしまいますよ? 早く起きてください」
「お、起きてまーす」
「二度寝は?」
「しません」
「しないんですか?」
首を傾げないで! 怖いから!
「しません! ご飯食べます!」
「なんだ。私は誘ってくれないんですね」
「え?」
「スアラは誘って、私は誘ってくれないんですね。お布団に」
「カフィヤ!?」
こ、れは、何を言うのが正解なんだ……?
下手なこと言えばあの包丁が飛んでくる可能性があるぞ。
考えろ、考えろ、マク○イバー!
「…………スアラも、寝る?」
「せっかくのお誘いですが、やはりご飯が冷めてしまうので。また誘ってくださいね。ほら行きますよスアラ」
「ヒャイ!」
カフィヤはニコッと笑うと、スアラの腕を取って部屋を出ていった。
「あ、あぶなかった……」
たまーにカフィヤはああなるんだから怖いんだよな。
特にここ最近は、目の光も鈍くなってきてるし。
昔は二人とも、にーにとかにいちゃんとか言って可愛らしかったのに、今やあんなに美少女になって。
って何で昔のこと思い出したんだろ。
ひとまずさっさと行かねーとまた何されるかわからん。
俺は染色しすぎて引っかかる髪の毛を掻きむしりながら居間に向かった。
※その頃の義妹達は?
「抜け駆け、しようとしましたね?」
「だって……」
「抜け駆け、ダメですよ?」
「はい……」