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8 乙女の花園1




今日の朝はどこかバタバタしていた。


いつもなら起こされたりしないのに、


朝早くに起こされ、


アーシャとライラに寝ぼけた俺は服を着替えさせられ、


食事まで食べさせられた。


そして、少しの食休みの後、馬車に乗せられる。


そこらへんでようやくほぼほぼ目を覚ました。


ああ、そういえば、今日は王都観光の日だったか…。


ただなんとなくアーシャのご機嫌取りに付き合えばいいか、


と思っていたのだが、


どうやら俺の考えは甘かったらしい。


行く先、行く先で見たことがない、


使い方がわからないものがたくさんあったのだ。


ただ淡泊に道具の質問をしていたのだが、


興味深いものに次々とあたったためか、


テンションが徐々に上がっていき、


いつの間にやら、目をキラキラとさせて、大興奮していた。


「ねえ、ままっ、ままっ、これは?これ、これっ!」


アーシャの足に体当たりするように聞く。


すると、彼女やライラが


「これはね…。」


といった風に微笑ましそうに答える。


美女二人に将来有望な美少女然とした存在が、


こんな様子を行く先々で見せたためか、


来店された多くの店で普段よりも売り上げが上がったそうだ。




最後にと、この場所に案内された。


服飾店【乙女の花園】


closeという板がかかっていたのでお店は閉まっているようだ。


入っていいのか聞くと友人の店だから問題ないと返された。



二人に連れられ、店舗の中に入る。


そこには色とりどりのドレスやリボンなどの装飾が飾られていた。


見ただけでも町中にあるお店とは別格ということがわかる。


生地、デザイン、縫い方の丁寧さどこをとっても一流。


これだけのものをごんな人間が作ったのか自然と興味が出てくる。


すると、不意に声が聞こえた。


「いらっしゃ〜い。


ようやく来たわね、


アーシャちゃん、ライラちゃん待ちくたびれたわ〜。」


店の奥から声が近づいてくる。


声の感じからなんとなくどんな人なのか予想がついたので、


アーシャの裏に隠れ、


軽くスカートを握る。




現れたのは…筋骨隆々とした男、いや漢だった。


鍛え抜かれた身体から、この人が騎士団長だと言われても驚きはしない。


…口に真っ赤なルージュを引き、


目元にアイシャドウを携え、


前世のモデルがランウェイを歩くような歩き方さえしていなければ。


要するに、オカマさんだった。


女性の観点だけでなく、男性から見た女性という観点を持っている点からもオカマさんはファッション業界に向いていると論理的にも納得していたので、


俺自身特に忌避感もない。



なら、何故隠れたのかというと、


問題は鍛え抜かれた大胸筋にある。


彼というか彼女というかの服はドレスというわけではないので、


他は特段露出が激しいというわけではない。


しかし、明らかに胸元だけは露出していた…してしまっていた。


もし抱きつかれようものならば、生でその漢らしさに触れなければならない。


気を抜いたら、おそらくそうなる。


なにせ前兆も確認できる。


アーシャたちとの会話の中、


オカマさんは俺を見つめると、


時折身悶え、自身の身体を抱きしめている。


それになぜか手がワキワキとしていた。


十二分に警戒に値する。


挨拶のために前にでなければならなくなった。


「はじめまして、アイリスティアでしゅっ!?」


一瞬、ほんの一瞬頭を下げた瞬間、それはやってきた。


なにっ?!警戒していたのにっ!


まさに電光石火、俺はガッシリとした腕に抱かれ、


大胸筋に抱かれていた。


硬さ、その中にある柔らかさが急に不快指数がマックスに振り切った。


「あ〜ん、もう可愛くて可愛くてしかたがないわ〜!」


声が聞こえてくる…たぶん。


すりすりすりすりっ!


頬にジョリジョリしたものがあたっている…たぶんヒゲだ。


な、泣きそう…。


目元にじわりと雫が浮かんでいく。



「やめてください!」


その声が聞こえると、


すっと大胸筋の感触から開放され、


柔らかなそれへと変化し、すぐにそれも感じなくなった。


「坊っちゃまが困っていらっしゃるので、


そこまでにしていただけますか、()()()


意識が飛びかけていた。


急いでアーシャの後ろに隠れ、スカートをガッチリと握りしめる。


ほ、ほんとにもう無理だから。


お、おさわりは禁止だから。


今まで男の人には頭を撫でられるくらいしかしていなかったが、


今ので男性恐怖症になってしまったかもしれない。


アーシャはスカートから手を離させると、


優しく抱きしめてくれた。


温かい体温と柔らかさが俺を安心させる。


しばらく経って余裕が出てきたのか、不意に思い出す。



はて、そういえば、


なにやら奇妙な言葉が聞こえたような…だんなさまとか。


罵詈雑言とまではいかないスレスレのやり取りを繰り返すライラと店主?を交互に見る。


「も〜う!


ライラちゃんのいけず〜っ!


あなただって私の嫁じゃな〜い。」


嫁?


…どうやら聞き間違いではないようだ。


「あら〜、ライラちゃんもしかして浮気〜?


私というものがありながら〜、き〜っ!」


「何をおっしゃいますやら、旦那様。


別段私がどんな方に想いを寄せてもどうでもいいくせに。


そもそも、そんなことを言ったら旦那様は、


一体どれだけ浮気なさっているのでしょうか?」



二人のやり取りに戸惑っていると、


事情を教えてくれた。




アーシャの話によると、


二人は親に勧められる婚約にうんざりしていたらしく、


友人同士だった彼らは互いに利用しあう形で落ち着いたらしい。


店主?はおそらくだが、男が好きで…ってライラは?


母に視線を送ると恋バナ好きな女学生の如くキャピキャピしていた。


「ライラは恋愛結婚したいんですって、きゃ〜っ!」


「お、奥様っ!?」


二人の軽い嫌味の応酬を切り上げ、訂正しようと、慌てるライラ。


顔を覗くと真っ赤になってしまっていた。


普段のクールな装いからのギャップに胸が高鳴り、


思わず口から漏れる。


「らいら、かわいい。」


「はうっ!」


するとライラはもう限界とばかりに両の手のひらで、顔を隠れてしまった。




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