57 ノーリとカルトラの仕事仲間
アイリスティアに街案内をした翌日、ノーリは今日はギルドに顔を出さなければならない予定があったのだが、アイリスティアを手放したくないと駄々を捏ねるので、マーサに頼まれ、アイリスティアもギルドに付いていくこととなった。
「ふふ〜ん♪アイちゃんとおっでかけ〜っ♪アイちゃんとおっでかけ〜♪」
笑顔は弾けんばかり、身体は踊りださんばかりとご機嫌のノーリ。
絶対に忘れられていると思い、これ以上嫁のテンションが上がり過ぎるのを危惧したカルトラが声をかけた。
「あの〜僕もいるんだけど…。」
「あ!はい!私もいます!」
アヤもそれに付随するのだが、ノーリはどうやら本気で忘れていたらしくあっちこっちを見ると、やけに真面目な表情で付いてきた二人を見た。
「あ、え〜…うん、知ってる知ってる。」
「いや、絶対に忘れていたでしょ!」
「お母さん!」
カルトラに怒られてもなんのそのなのだが、アヤに怒られるのはどうやら困るらしく、慌てて否定のようなそうでないような言葉を並べた。
「そんなことないっ…こともない気がしなくもないこともないような気がする!!」
「結局どっちですか!」
「どっちって、まあ…その…うん!ほら、私、今アイちゃんとデートだから、アヤもお父さんとデートってことでいいんじゃない?」
「デートじゃなくてギルドに行くだけでしょ!それとお父さんとデートなんて嫌です!私もアイちゃんがいいです!」
アヤがノーリの提案に即否定プラス代替案を出すと、アヤの隣から物凄く負のオーラを感じた。
「つ、つい本音が!ご、ごめんなさい、お父さん!」
「うん…うん…いいんだよ…どうせ…どうせ…僕なんか…。」
アイリスティアはポンポンと肩には手が届かなかったので背中のあたりを叩いてあげると、カルトラは涙ぐみながらお礼を言ってきた。
「ありがとう、アイ様。」
―
「ジジイにイルミナ!ほらこの子がアイちゃんよ!どうでしょう?ホントーに可愛…。」
いいでしょ…と声を出そうとした時、ノーリの目の前を通り過ぎ、それはアイリスティアを掻っ攫って行った。
「って、ちょっとイルミナ!!」
「君が…そうか。なるほどいい目をしている。」
「って、あんた抱きしめっぱなしで、目なんて見ていないでしょ!!」
「そんなことはない。ほらこんなふうに…「むぎゅっ!」」
一瞬、アイリスティアの顔を見るなり、無表情なダークエルフはほんの少しの間さえ置かずに、再びアイリスティアを抱きしめていた。
「一瞬っ!?そんな一瞬でわかるわけないでしょ!あんた可愛いもの好きだからって、いい加減にしなさいよ!」
「…別にそんなことはない…ぞ?」
ジト目を向けるノーリ。
「なら離しなさいよ。ほらジジイの紹介も終わってないんだから。」
イルミナは無表情なのだが、物凄く手放したくなさそうにアイリスティアを放して、後ろに下がる。
ほんのりガッカリしている雰囲気を匂わせるイルミナにやれやれと嘆息すると、目の下に傷のあるドワーフが味のある笑顔を向けてきた。
「儂はドワーフのハンズ。おじいちゃんでいいぞい!主にこやつらの武器の手入れなんかをしておる。それからおじいちゃんでいいぞい!ダンジョンや長旅とまあ…特にこの小娘なんぞは扱いがなっとらんから、しょっちゅう武器を壊しおってな…。だからおじいちゃんでいいからの?」
「は〜いはい!ジジイの紹介はこれで終わりね!」
「…いや、まだ話の途中なんじゃが…とりあえずおじいちゃんでいいからの。」
「長話と同じ話の繰り返しは老化の始まりよ。私はそんなジジイを見たくないわ。それにアイちゃんの前で説教なんて御免。…というか、あんたどんだけアイちゃんにおじいちゃんって呼んでほしいのよ!!」
本当であるサブリミナル効果の印象が強過ぎて他の情報が頭から抜け落ちそうだ。
「んむ、まあ、できる限り。そうしてもらえると儂、嬉しい!」
大きな目をクリクリとさせ、おねだりのポーズを取るドワーフにアイリスティアがおじいちゃん呼びをしようとすると、ノーリは埒が明かないとそれを手で制し、もう一人に促す。
「…それじゃあ今度こそ、イルみ…。」
「私はイルミナ。弓を使う。それに…別に可愛いものが好きなことはない。もういいよね?じゃあ…」
ヒョイ…ぎゅっ!
アイリスティアは手を開き、抱っこポーズを取っていたのだが、後ろから抱えあげられてしまった。
すると、当然のごとくイルミナの両手は空振り、行き手を失い、アイリスティアがいた場所を何度かワキワキとして、声の方を見上げた。
「もうダメ。これから話し合うことがあるでしょ!あんたはアヤでも抱っこしてなさい!」
「…………アヤ…こっち来て。」
イルミナの表情はやはりピクリとも動かなかった。
しかし、あまりにも長い間が不本意さと妥協を暗に示している。
「なんでかわからないですけど、物凄い傷つきました!」
―
冒険者ギルドには酒場が併設されており、そこの四人掛けの席をわざとらしく選び、話し合いは始まった。
「さて、これからしばらくはこの街を拠点とすることが決まったわけですが…まず二人ともありがとう。」
カルトラが音頭を取って話を進めていく。
カルトラが情報屋から得た情報によると魔王復活により、魔物の凶暴化が予測されるので、他の二人には無理を言って、家族がいるこの街に来てもらったみたいだ。
そのほかにも、どんな依頼を主に行なうかなど、また、メンバー補強についてなんかも話されていた。
主に話していたのが家では空気…いや、あまり話をしないカルトラだったので、アイリスティアはノーリに耳打ちした。
「ノーリさん、カルトラさんがリーダーなんですか?てっきりノーリさんがリーダーだと思っていたんですけど…。」
「え?うん、まあね、あいつ頭いいし、それに面倒なことは任せ放題だから。」
そのアイリスティアへの返答にノーリ含め、他の二人の瞳もキラリと煌めいた。
アイリスティアは真剣にプレゼンをしているカルトラに聞こえていないことに安堵すると、苦笑いを浮かべた。
「……そ、そうなんですね…。」
それから、今後気をつけるべきこと、主に住む場所なんかの日常で使う店の紹介なんかを挟みつつ、主だった話し合いはそのうちに終わった。
「ふむ?結局いつ頃から活動をするのじゃろうて?」
「そうだね…できれば明日から…「「は?」」…といいたいところだけど、二人に決めて貰おうか?いつがいい?」
「そんなの決まってるわ!アイちゃんが帰ってからよ!」
「うんうん。」
一緒に…遊びたい!ご飯食べたい!ショッピングしたい!お昼寝もしたい!お風呂なんかも入りたい!
とにかくやりたいことがいっぱいでもうこれが終わったら、速攻でそれらに取り掛かるとノーリとイルミナの二人は決めていた。
すると、ドワーフが二人の心を揺さぶってきた。
「…でも、儂、じぃじカッコいいとか言われてみたいのう…。」
「「はっ!?」」
これはお前さっきまでおじいちゃんだっただろというツッコミではなく、その手があったかという驚きだ。
そして、ドワーフの方を向き、美女二人はグッドサインを出し、意見を翻そうとしたのだが、それは慌てたカルトラによって止められる。
「待った待った!流石にそれはまずいよ!アイ様に危険が及ぶのはダメだって!」
すると、二人はアイリスティアの事情を知っているからか、肩を落とし、渋々ながら頷いた。
ドワーフは頭を掻くと、よっこらせとイスから飛び降りる。
「そうじゃったのう…こう街の危機みたいなことが起きれば、颯爽と登場し、いいところを見せられるのじゃがな…ハーッハッハとなっ!」
そんなふうにバチンとウインクをかまし、ドワーフが格好をつけていると、両開きの扉から慌てた様子の人間が飛び込んできた。
「大変だっ!北門のところに魔物が!!」
大慌てのギルド職員たちの中、冒険者たちの視線はヒーローポーズをしていたドワーフに集まっていた。
「…儂…かの…?」
ドワーフが自分のことを指差すと、見ていた全員が頷いた。




