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54 家族の紹介と夕飯

もう…お母さんったら、何やってるのよ…。


絶対、アイリスティア様に変な家族って思われたじゃない…。


アヤとしては別に自慢の家族だと紹介したかったわけではなく、普通の家族だと思われたかったのだが、母ノーリの突飛な行動のせいでその欲しかった評価は明らかに失われた。


そのショックからしばらくの間立ち直れずに落ち込んでいたアヤだったが、マーサの咳払いによって自分のやるべきことを思い出す。


「コホン。」


「!」


そ、そうでしたね…私はアイリスティア様の専属使用人!


自分の家族の紹介くらいできなくてなんですか!!


よし!と勢い込んで、まず一番の年長者の祖父の紹介をしようとした時、アイリスティアがノーリにぎゅっと抱きしめられて座っていたのを見て…またも母の想定外な行動に勢い削がれ躊躇する。


すると、その瞬間、ノーリがアイリスティアへと家族の紹介を始めてしまったではないか…。


「あぁ…。」


という、アヤの声はノーリの元気な声に掻き消され、アヤは寂しげにその声に耳を傾けた。



「アイちゃん、母さんのことはもう知っているからいいわね。こっちが私の父、アヤのおじいちゃんのラクト。昔はお屋敷に出入りしていた商人だったんだけど、今はただの散歩が趣味の爺さんよ。」


ラクトはノーリの辛辣な言葉にまったく怒ることもなく優しく微笑み、礼儀正しくアイリスティアへと頭を下げる。


「よろしくお願いします、アイリスティア様…いえ、アイ様。」


「はい、こちらこそお願いします、ラクトさん。」


「ほっほっほ、どうぞ自分の家と思って過ごしてくださいませ。」


「で、こっちは…メガネでいいかしらね、はい終わり♪」


ぎゅ〜〜っ!!


ラクトの紹介が終わり、今度は自分の番だとワクワクしていたカルトラはあんまりな紹介に声を上げる?


「ちょっと、ノーリ!それはいくらなんでも…「なに?」…いえ、なんでもないです…。」


「…このメガネは私の旦那のカルトラ。幼馴染で放っておけなかったのよね〜。まあ、いい奴だから面倒事はだいたい押し付けとけばいいんじゃないかしら?」


「…ううう…ひどい…。」


夫婦の力関係が一瞬でわかり、アイリスティアは少し可哀想に思っていると、マーサがパンっと手を叩いた。


「お話はそれくらいで。さあ、アヤ手伝ってください。少し早いですが、今日はしっかりしたものを作りたいので夕飯の用意をしましょう。」


昼過ぎくらいに家を出たので、今は夕方になる少し前だ。


おそらくマーサのことなので仕込みは済ませているので、日が沈む前にご飯を食べ始めるとしたら、今頃が準備するには丁度いい時間帯だろう。


「あっ、マーサさん、僕もお手伝いします。」


アイリスティアはしっかりと躾けられているので、そのように手伝いを買って出たのだが、それはマーサとノーリによって否定される。


「いえ、アイ様はお客様ですから…。」


「そうそう!こんなことは母さんとアヤにでも任せておけばいいのよ!そんなことより私とお話していましょ。私、アイちゃんのこといっぱい聴きたいな〜。」


「…ノーリ、あなたは本来率先して手伝うべきなのよ…。」


マーサがそうノーリに呆れた視線を送るも、どこ吹く風。


「え〜っ!だって母さんも知ってるでしょ。私そういうのさっぱりだってこと。たぶんだけど手伝ったら、半分くらいはダメになっちゃうんじゃないかな?かな?」


「…はあ…まったくあなたって子は…。」


「いや、だって…だから母さんはお屋敷で働かせるの諦めたんでしょ?」


そんなふうにノーリの歯に衣着せぬ物言いに咎める言葉を送ったのだが、一切悪気のない振る舞いにやれやれといつものことだと諦めるマーサ。


「…やっぱり僕、お手伝いしたいので…それに自分の家のように過ごしていいとラクトさんに言われましたので。」


おそらくマーサも久々にアイリスティアと厨房に立ちたかったのだろう。


マーサは一度否定はしたものの、アイリスティアの言葉に嬉しそうに微笑む。


「ふふっ、そこまで言われては仕方がありませんね。ほら、ノーリ、アイ様をお離しなさい。」


「…ううう…でも…。」


そんな不満そうなノーリの耳にマーサの呟きが届いた。


「アイ様の手料理。」


「っ!!……い、行ってらっしゃい、アイちゃん…。」


ノーリもなんとなくわかっていたのだろう。


アイリスティアの手料理を食べる機会など、お屋敷勤めのアヤと違ってそうはないと。


そして、アイリスティアがマーサに従って台所に入ろうとしたとき、暗にせっかくの癒しの時間の邪魔をするなと、マーサは先ほどアヤに言った発言を撤回した。


「アヤ、アイ様がお手伝いしてくださるそうなので、あなたは手伝わなくて構わないわ。そうね…お腹でも減らしてきたらどうかしら?ほらノーリも。」



「え?どういうことですか?」


今度は家族の紹介という仕事までノーリに奪われたせいで再びいじけていて、今ようやく正気を取り戻したアヤは、今までのやり取りを聞き流していたため、マーサの言葉の意味がわからなかった。


しかし、マーサのお腹でも減らしてきたらという言葉になぜかわからないが、妙に嫌な予感がした。


背中を通り抜けるこの寒気は、一月くらいの間感じていた馴染み深い…。


「…まさか…。」


アヤがそれを理解した途端に、ご機嫌なノーリに腕を掴まれ、外へと引っ張っていかれ…。


「アイちゃん、い〜っぱいお腹空かしてくるから、たくさん作ってね♪」


「は、はい!頑張ってください。」


台所から顔を出して行ってらっしゃいと手を振るアイリスティア。


アヤはアイリスティアに助けを求めるように手を伸ばすのだが、アイリスティアはその意味がわからずに首を傾げて、そしてその意味を理解する前にマーサによって台所へと連れ戻されてしまう。



こうして、アヤは近場とはいえ里帰りだというのに、ノーリがたくさん夕飯を食べるためというくだらない理由の、特別ハードなシゴキを、夕飯が出来上がったとカルトラが呼びに来るまで受けることなった。


アヤとしては、訓練の影響で、生まれたての子鹿のようにぷるぷると震えながら食べるアイリスティアの料理は美味しいのかどうかわからなかったのだが、アイリスティアが見かねて食べさせてくれたりもしたので、激しい訓練の元は取った気分でいた。


ちなみにノーリはアイリスティアの作ったといわれた料理ばかりを食べて、マーサの料理には一切手を付けなかったのだが、マーサも似たような食べ方をしたため、珍しくお咎めはなかったらしい。


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