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4 初めてのおねだり

ここ数ヶ月、大人しく食っちゃ寝だけをしていたが、

もう限界だ。


脳が腐る。


流石に1日の9割近くを寝てだけ過ごすのはきつい。


やらかしてしまうのは怖いけど、

退屈や暇で死んでしまうのはもっと怖い。


ということで、時間が潰せるであろうことをおねだりしていこうと思う。


まずは…



「あら、坊ちゃま、お目覚めですか?」


メイドのライラが優しく微笑む。


「だうあう!」


俺は返事をして抱っこを促すように両手をめいいっぱい広げて、アピールする。


初めてのおねだりだ。


すると彼女は「はうっ!?」やれ「尊いっ!」などよくわからないことを言って抱き上げた。


なんとなくする相手を間違えたかとも思ったが、致し方ない。


揺りかごのように揺らし俺をあやす彼女を止め、

服の裾なんかを引っ張ったり、指差しなんかをしながら、

俺は目的のブツの前まで彼女を誘導する。


俺がブツの目の前で大人しくなると、ライラは語りかけてきた。


「坊ちゃま?


もしかしてご本が読みたいのですか?」



そう俺が欲していたブツ…それは本だ!


前世では人並みにしか読んだり、

触れたりしてこなかったが、今世では別、

映画もテレビやネットもない今世、

それが今この赤ちゃんボディの最適解!


正直それは、この部屋にあった。


手を伸ばせば届きそうなところに…しかし届かなかった。


流石にベビーベッドから飛び降りるのは危険だったからだ。


欲に負けて、あの事件を引き起こしたサイコキネシス的な魔法を使おうとも思ったが、

また部屋を吹き飛ばしたら申し訳が立たないので自重した。


彼女はどの本がいいかなんて聞いてきたが、

わかるわけがないので、適当に返事をしてその本に視線を向ける。


これですかと確認を取り、

俺を膝の上に載せ、

本を広げ始めた。


ライラの優しげな声が心地よく耳を打つ。


この本はどうやら前世にもよくあった英雄譚のようだ。



魔は姫を奪い去る。


勇者は伝説の剣と、光を含む五大属性を自在に操り、


敵を薙ぎ倒す。


聖女は絶対的な守りと圧倒的な治癒で味方を助け、


時に敵を封じた。


賢者は全ての魔法を操り、敵を屠った。


そこの三者に名もなき剣士が立ち上がり、


天の災厄を打ち払った。



要は、悪者である魔王が姫をさらい、

勇者が姫を取り戻し、魔王を撃つ。

そして世界は平和に、彼らは結ばれ幸せに暮らしました。


というもの、そこには勇者のドロドロとした宮廷生活はなく、ソフトなもの。


日本の昔話のような教訓なんかも特にない。


深読みも大してできない本当に子供向けなお話。


こんなものか、と期待が大きかっただけに少しがっかりとも思った。


…しかし、俺は本に申し訳程度に書かれた文字を見て愕然とした。



読めなかったのだ。


生前いくつかの言語はどうにかなったのだが、

どの言語体系にも属さない。


もちろん日本語ですらない。


この言語を読んで理解できるようにならなければならない。


俺はそのことにワクワクした。


禁欲生活から開放され、再び少しハイになった。


キラキラと目を輝かせて、

本を見つめながら、

どこか息の荒いメイドの言葉に耳を傾ける。


そんな日々が数日続いた。



…要するに数日で終わった。


未知の言語はどうやら俺の敵ではなかったようだ。


このわがままボディめ…


俺は再びベッドでふて寝した。

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