表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

35/64

35 エリザベートVSファティマ

アイリスティアたちはエリザベートの提案に乗り、


彼女自身を囮とすることで、


先の魔術を再び使わせることを目的とされる作戦が開始された。


時間が限られたこの作戦だったが、


その結果は思ったよりも、


早くに訪れる。



それはエリザベートが出撃し始めて、


三度目の戦闘が行われんとするときのことであった。



両雄相まみえる。



「私、アルファ王国将軍エリザベート・カミナはガンマ帝国ファティマ・アトラに一騎打ちを申し込む。」


「良かろう、エリザベート将軍お引き受けしよう。


お前たち下がれ。」


ファティマが馬上から降りる。


続いて、エリザベートも降り、兵たちを下がらせる。


残されたのは、


アイリスティアを除いてはエリザベートとファティマのみ。


ファティマはアイリスティアの存在に訝しげな視線を送ったが、


「見届人だ。」とエリザベートが言うとすぐに納得した。


どうやらエリザベートのことを余程認めているらしい。



お互いに使用する武器を出し、


軽く打ち合わせる。


エリザベートは剣、ファティマは槍。


武器の破損はない。


その確認が終わると二人の距離は離れて行った。


ファティマが歩みを止めると、エリザベートも止めた。


お互いが向き直り、それぞれ剣と槍を構えた。


二人は同時にアイリスティアを見た。


いつでも良い。そう言っている気がしたアイリスティアは、


頷く。


すると、背筋が凍り始め、


まるで死神が首元に鎌を突きつけているような感覚に襲われる。


殺し合いが始まる。


アイリスティアは震える身体を引き締め、


この世紀の勝負に泥を塗らないよう、声を張り上げた。


「始めっ!」


声が震えないでよかったと思ったのも束の間、


まずはファティマが駆け出した。


奇襲だ。


ほんの一瞬のうちに間合いを詰め、


槍を突きだす。


「ハァッ!」


一閃、そう表現するのが妥当な一撃が放たれた。



しかし、エリザベートは何事もなかったように避ける。


追撃を放つのかと思われたら、


ファティマはすぐに引いた。


なぜかと思ったが、その答えはすぐにわかった。


ファティマがいた場所には、


大刀で傷つけられた痕のようなものが残っていた。


っ!?今の一瞬で…。


避けたファティマも凄いが、エリザベートはもっと凄い。


あの斬撃は目視すら出来なかった。


何という戦いだ。



再び距離を取った両者。


二人はニヤリと肉食獣のような獰猛な笑みをうかべた。


これはあくまで小手調べ。


本番はどうやらこれかららしい。


そして戦闘は始まった。


「…なんという…。」


言葉を失い、絶句するメイラン。


眼の前で展開される武の到達点と称しても、


誰も文句をつけないであろう戦い。


それに目を見開きつつ、


メイランはファティマの楽しそうな様子を見て思った。


本当に良かったと。


彼女はエリザベートに破れてから、


脇目も振らず、自身を高め続けていた。


しかし、皇帝の命令によって、


一対一での戦闘が許されず、


策略の一端を担わされることとなった。


ここに来てからのファティマはずっと自分を追い詰めている様子だった。


エリザベートを罠にかけてからはもう見るのも忍びなかった。


敵に対しこんなことを思うことになるとはついぞ思わなかったが、


エリザベートが生きていてくれて本当に良かった。


「メイラン様、我々はどうすれば…。」


部下がメイランに聞いてくる。


しかし、


その部下の様子も戦いに見惚れているためか、


メイランには事務的に尋ねている様子だ。


やることだと?そんなことはわかりきっているのだ。


ただ言葉にそれを出さねば、


この戦いに集中しきれない。


エリザベートの副官はすでに指示を出していた。


流石だ。


そしてメイランも遅ればせながら、同じ指示を出す。


この戦いは誰にも邪魔をさせない。


願わくば、ファティマに勝利を。


メイランはその言葉を口にすることなく、


ただただ戦いを見つめるのだった。



二人の生命の削り合い。


これが正に最終決戦のように思えた。


いつまでも続くかに思えたそれもどうやら終わりのようだ。


「くっ!」


エリザベートの一撃がファティマを捉えた。


ファティマが槍を手から離してしまう。




そして、


ついに横槍は入ってきた。




遠方より莫大な魔力を感じた。


アイリスティアは直感した。


おそらくこれだと。



アイリスティアは枕を取り出すと、


全力で魔力を流し込んでいく。


絶対防御の魔術を発動させるために。


アイリスティアの美しく凛とした声が詠う。


「アイリスティア・アトランティアはアリスに願う。


災禍を弾き、安寧を齎すもの


絶対防御、全てを守る神の御楯


【アイギス】」


美しい装飾をされた大盾が


天に浮かび、最初はわずか数枚だったところが、


回転しながら増えていき、


瞬く間に空を覆い尽くさんばかりに増えていた。


遠方から死がやってきた。


ミサイルのような爆撃がこの戦場に降り注ぐ。


その魔術がアイリスティアの生み出した盾とぶつかり、


空中では数限りないほどの爆発音が響き続ける。


戦闘はいつの間にか収まっていた。


下では、怯え震える者、


天を仰ぎ祈る者、


呆然と立ち尽くす者さまざまな存在がそれを確認し、


その奇跡を目の当たりにする。



何百という死が降り注いだが、


その全てが盾に遮られた。


そして、気がつくと遠距離爆撃魔術は収まっていた。


「はあ…はあ…はあ…。」


アイリスティアの口からは荒い息が漏れ続けていたが、


空からなにも降り注がなくなると、徐々に息が整っていく。


枕の発光が収まると、


役目を終えた幾重もの光の盾は崩れていき、


天から雨のように降り注ぐ。


あとに残ったのは戦場には似合わない澄んだ空気だけだった。



全員が呆けていると、どこからか声が聞こえた。


「アルファの聖女。」



ファティマの声が聞こえた。


「私の負けだ。殺せ。」


「…勝負はまだついていないと思うが?」


「いや、さっきの横槍がなければ、私の首は飛んでいただろう。」


貴方もそれはわかっているでしょう、とエリザベートに視線を向ける。


彼女はなんとも言えない表情を向けたが、


ファティマの気持ちは変わらない。


「それにここではもう戦いたくない。


あなたと戦えたから…いや、この空気のおかげか…


私は今、とても気分がいいんだ。


このまま死んですら構わないと思うほどに。」


視線の先には、アイリスティアがいた。


一度受けた私はわかる。


地獄の怨嗟を思わされる一撃を防いだ、


彼の神の如き御業の残滓が降り注いでいる。


本当なら私も同じように空を見上げていたい。


本当に綺麗で、見ているだけで穏やかな気持ちになる。


まったく…ままならないものだ。


こんな光景、二度とは見ることが出来ないだろうに。


「エリザベート・カミナ将軍、


最後に頼みがある。


部下を頼む。」


彼女らしい一言に笑みが浮かびそうになるが、


全てはランカの趣くまま、約束はできない。


よって、口から出たのはこの言葉だった。


「善処しよう。」


エリザベートは形式的にファティマの首元に剣を突き付け、


勝鬨をあげた。


「我、アルファ王国将軍エリザベート・カミナはガンマ帝国将軍ファティマ・アトラを討ち取った。


よってファティマ・アトラ以下部下の者たちをを捕虜とする!」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ