34 広がる混乱とファティマの戦意
緊急の会議が朝になって開かれた。
先日の夜、テューダとサム男爵が何者かに殺害されたらしい。
そのため、調査として彼らの持ち物を調べたところ、
なんと隠されるように帝国関連の書類がいくつも出てきたのだ。
書類には、
帝国に依頼された内容、
帝国のこの戦争での方針、
そして報酬など詳細が事細かに書かれ、
治療関連を崩壊させろとも書かれていた。
そこには、現在、過去の情報との齟齬はほぼなかったため、
急いで遠見から【サーチ】で確認したところ、
帝国のこの後の本格的な侵攻が事実であることがわかった。
なんと帝国はこの後さらに二万は呼び寄せるらしいのだ。
現在、三万対三万で均衡が取れていると思われていたところにこれだ。
当然の如く、会議場は混乱の渦に巻き込まれた。
「なんということだ。
まさかテューダ殿が…。」
「それだけではない。サム男爵もだ。
まさか帝国に我らを売り渡しているとは…。」
「ふん、まさか貴族派が裏切っているとはな。」
「なに!貴様、なにを根拠にそんな事を言っておる。」
「根拠?そんなのはお前たちが示していることだろうに。
我々は元々テューダの行いに対し、
散々あやつのことを治療テントの責任者から外すよう働きかけていたではないか。
それを邪魔していたのはお前達貴様派だろうが!」
それは明らかに貴族派の力を削ぐための提案だったのだが、
現在はそんな言葉さえも王派閥の武器となってしまう。
「我々だって知らなかったのだ!
テューダがアルファを裏切っていると知っていたらこんな…。」
「ふん、どうだかな?」
そうして、貴族たちは派閥に関係なく、誰が悪いのか犯人探しを始めてしまった。
本来、今話し合わなければならないことは、
子供でもわかるというのに。
しかし、アイリスティアにも気持ちはわかる。
目の前にある対処しなければならないことは、
あまりにも大きすぎる。
例の禍々しい魔術が知らされた次の日にこんなことがわかったのだ。
そんなことはわかっているが、
対処しなければならない。
総指揮官たるランカがその不毛な争いに終止符を打った。
「静まれ!皆の者、それこそ帝国の思うつぼだぞ!」
「し、しかし殿下…。」
「…私に策がある。」
そして、ランカが言うことに誰も口を出さずに、
その説明は終わった。
いや、余計なことは言えなかったというべきか、
貴族派の人間からあれだけの証拠が出た以上、
次になにか提案をして、帝国に有利な出来事が起きた場合、
貴族派は完全に信用を失ってしまうだろうから。
そして、僕はエリザベートとともに最前線へと向かうことになった。
その援軍が来る前に戦争を止めるために。
エリザベートを襲った存在が帝国の切り札だと信じて。
―
ファティマは後悔していた。
エリザベートをあの罠に掛けてしまい、
その身をあんなにもおぞましいものに変えてしまったことに。
エリザベートの副官が涙を流し、
布に包んだものを持ち帰っていった瞬間、
眼の前が真っ白になり、
身体に力が入らなくなったことを今でも鮮明に覚えている。
これで私の戦争は終わったのだと本能的に思った。
本当につまらないものだった。
一人になると、自分がなんてことに手を出してしまったのかと、
後悔の念に苛まれるが、
ファティマは将軍の一人のため、
周りにそんな弱音を吐くことは許されず、
一人、人気のないところを探して彷徨っていた。
次の出撃の時間にはまだ余裕があることを確認すると、
再びあてもなく歩き回っていた。
すると、
ファティマは不意に自分が知らない大きなテントを見つけた。
「…このテントは?」
ファティマが中を覗くと、
そこには…
…数百はくだらない棺桶があった。
「…こ、これはあのときの…。」
ファティマが衝撃を受けていると、誰かに声をかけられた。
「ファティマ様、こんなところに居られたのですか!」
ファティマは声に思わず、テントを閉めてしまう。
誰だと振り向き、
そこにいたのはファティマの副官のメイラン。
この聞き慣れた副官の声すら、
ファティマには動揺でわからなかったらしい。
メイランがどこか焦った様子でファティマを呼びに来た。
ファティマはその報告を聞き、
今見たものを忘れるくらいの衝撃を受けた。
そして、自然と口が動いていた。
「メイラン、出撃の準備を!」
「はっ!」
今度こそ逃すものか、誰にも邪魔はさせない。
ファティマの目は獲物を見つけた狩人の如く煌々と輝きを放つのだった。




