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33 ランカの苦悩と暗殺

エリザベートが受けた魔術はあまりにも危険なものなので、


アイリスティアはエリザベートとともに、


ランカのもとへと報告に向かった。


すると、危険性について広まると混乱が生じると判断したランカは、


自分のテントへとアイリスティアたちを招いた。


そして、報告は始まるかに思えた。


「アイリスティア、治療テントの件、ご苦労だった。


本当にありがとう。


疲れているだろうが、もうしばらく頑張ってくれ。


そうすれば、王城からの応援も来ることだろう。」


「ランカ様、今、治療テントは特に困った状況にはないので、


今のままで問題はありません。


それならば、他に足りていないところに人員を送ってもらうほうが宜しいかと。」


「そうなのか?


やはり前任者が駄目なやつだったらしいな…。


わかった、それならば応援は不要だと父に伝えるとしよう。」


「ええ、そのようにお願いします。」


「…まあ、それはともかく…。」


アイリスティアは来たと思った。


アイリスティアの後ろからは先程からずっと機嫌が良さげに鼻歌のようなものが聞こえていたのだ。


「なぜアイリスティアを膝の上にのせているのですか、師匠!」


その犯人はアイリスティアが助けた女性、エリザベートだった。


彼女はこのアルファ王国の将軍の一人で、


この国最強の武人、


ランカの師匠でもあるため、ランカに対してもかなり気安い。


「別にいいではないか。


堅いことを言うな。」


「いいわけないでしょう!


アイリスティアは私の婚約者ですよ!


私がそういうことをするならともかく、


なぜ師匠がそんなことをしているのですか!」


「なにっ!?


ズルいぞ!なら、私も婚約者になる!」


こんなことを言うことからもわかるように、


エリザベートはなぜだかわから…なくはないが、


アイリスティアのことをかなり気に入ってしまったらしく、


助けたお礼を言われた後は、なにかと理由をつけずとも、


抱きしめられたり、くっつかれていた。


「わがまま言ってはいけません!


もう私の婚約者なのですから、駄目に決まっているでしょう!」


「そんなのアイリスティアと少し早く出会っただけではないかっ!


アイリスティア、私のほうがアイリスティアのことが大好きだぞ〜♪」


「なっ!そんなことありえない!


アイリスティア、私のほうが君のことを愛しているし、


君が望むのなら…なんだって…その…えっちなことだって…。」


赤くなってそんな事を言うランカに、


エリザベートは僕に言い聞かせるようにしながら、


辛辣な言葉を返す。


「アイリスティア、これが発情したメスだ。


つまり、こいつの本性。


危険だから離れような。」


「なっ!私はただアイリスティアが望むならと…。」


「アイリスティアは7歳だぞ!


そんなこと望むわけあるまい! 


このド淫乱が!」


「べ、べべべ別に淫乱などではない!


私はアイリスティアが望むならそうしてやりたいと思っただけだ!


本当に、本当にそんなんだからな!」


「ふん、言い淀むところが怪しい。


アイリスティア、あいつはああいうやつなのだ。


私は師匠だから、知っている。


たから、私から離れてはいけないぞ♪」


そう言って、アイリスティアに抱きつくのをさらに強めた。



すると、ランカの眉が天井知らずに釣り上がっていき、


そして、いつしか…。


「…表へ出ろ、師匠!


今日こそ目にものを見せてくれる!」


「上等だ、ランカ!」


力を伴った喧嘩になりかけたので、


慌ててアイリスティアが宥めて、その場は落ち着いた。


そして、改めて再開された。



「…つまりは、炭化もしくは燃焼が伴ったまま、


苦痛を与え続ける呪術が使われているということです。


おそらく目的は戦意を削ぐことが目的かと、


あのエリザベートさんの状態を兵士たちの前で見せれば、


誰も逆らう気さえ起きなくなっていたでしょうから。」


「…それほどのものだったのか…。」


「…はい、ランカ様。」


アイリスティアの短い返答に呆然とするランカ。


それからどれほどかして、言葉を発した。


「…対策はあるのか?」


「…ないこともないですが、


しかしそれにはその術者を見つけることが必須となります。


それ以外となりますと…どうにかもう一度、もしくはさらにもう一度その術を使ってもらう必要があるかと…。」


「も、もう一度…もしくはさらに一回だと?」


「…はい。僕もどうにか努力しますが、やはりどうしても一回は…。」


「…そんなことをすれば…。」


「当然、混乱になるかもしれません。


おそらくは戦意を喪失するものもかなり現れることでしょう。」


ランカはひどく困った様子で頭を抱えていた。


最低一度、もしくは二度もそんなおぞましい結果を生み出す魔術を使わせねばならないのだ。


アイリスティアはその魔術を防ぎ、


実害はもたらさないつもりだが、


成功するかはわからないため、それは言わない。



そのため、ランカは誰かしらに地獄を見せることを選択しなければならなかったのだ。


それもこの国でそれを使われる価値がある存在に。


そんなことを王族とは言え、まだ14歳のランカに求めるのは酷過ぎた。



すると、今まで黙っていたエリザベートが口を開いた。


「私を囮にするのが一番だろうな。」


「そ、それは…。」


「…それが妥当ですね。」


「ランカ様っ!?」


「アイリスティア、私だって師匠にそんなことはさせたくない。


しかし、その方法が一番可能性がありそうなのだ。」


それは確かにアイリスティアも思いついた。


しかし、術式を解析したアイリスティアは、


あんな苦痛をもう一度味わうことに人間が耐えきれるとは思えなかったため、


その可能性は意識的に排除していたのだ。


「大丈夫。私ならなんとかなる。」


そう微笑むエリザベートに、


アイリスティアとランカはなにも言うことはできなかった。


「クソっ!クソっ!」


テューダは焦っていた。


帝国からの命令は治癒部隊の機能不全だった。


あの王女の婚約者が責任者になると、


それがまさかこうも早くに解決されてしまうとは…。


このままでは、ランカを手に入れることなどできない。


テューダはだいぶ前からランカに目をつけていたのだ。


そのためランカがアイリスティアと婚約したというときは荒れたし、


どうにかして手に入れねばと苦心した。


しかし、父に頼んで、二人を引き離すようにしても、


アトランティア公爵と王によってそれはすべてシャットアウトされ、


まったく実を結ばなかった。


そんな時のことだった。


数年前、帝国がテューダと接触してきたのだ。


彼らはテューダに情報と工作を依頼してきた。


そして、その報奨として、


ランカを帝国が手に入れたときに、


テューダに譲り渡すということになったのだ。


そのため、テューダはその目的のために今回の戦争でも、


工作作業に勢を出していた。


謹慎を言い渡されてしまったが、裏から手を回し、


再び治癒部隊をどうにかしようとしていたのだ。


そんなとき、


「テューダ様、大変でございます!」


とある男がテューダなテントに入ってきた。


「騒がしいぞ!


どうした、男爵!」


こいつは自分と同じように帝国と繋がっている貴族の一人で、


この戦争の後に帝国に鞍替えするつもりの者だ。


「大変なのです!


あの婚約者がエリザベートの治療に成功しました!」


「っ!?な…なんだと…。」


テューダは知っていたエリザベートが策によって誘い出され、


あのおぞましい姿に変えられることを。


以前帝国を訪れたときに、


テューダはその初期の実験を見ていた。


そのため、それがどういうものでどういう原理かも知っていたため、


この場にいるような人物にはどうにもできないと判断していたのだ。


これをどうにかできるとすれば、それは大司教くらいのものだろうと。


しかし、それがアイリスティアによって破られた。


これを確実なものとするために治療の現場を崩壊させたのに、


それは水泡に帰した。



そして、テューダは知っていた。


これが帝国の本当の戦争開始の合図だと。



ついでにアイリスティアも手に入れたいと出会ったときには思ったが、


どうやらもうその時ではないらしい。


「…アイリスティアを殺そう。


このままでは、ランカが手に入らないだけでなく、


俺たちまで帝国に殺されてしまう!」


そう、帝国は容赦がないのだ。


数年前にも、とある貴族が工作で大きな失敗をしたために、


獄中で不可解な死を遂げた。


帝国の者は否定していたが、それが彼らの仕業であるのは明らかだった。


「…かしこまりました。


それでは私の手勢で…」


男爵がそう言葉を発したとき、


どこか寒気がした。


その寒気は気温なんかによるものではなく、


首筋にそっと刃物を突きつけられたようなそんなに寒さだった。


そして、暗がりから声がする。


「あらあら、まさかあの小娘を狙ってのものだったとは。」


「誰だ!?」


声は女のもので、どこかのんびりとしていたが、


テューダと男爵の顔からは血の気が引いていた。


ヤバい、こいつはヤバい。


本能が危険性を訴えかけ続ける。


カツンカツン。


「しかし、そんな理由で聖女候補を暗殺だなんて随分と思い切ったことをなさいますね?」


その声はそんなことを言いながら、歩いてくる。


自分たちに近づいてくる。


「なに?」


「せ、聖女候補ですって…。」


そして姿を現した。


それは見覚えのあるメイドだった。


あいつは確か…アイリスティアの…。


「ええ、アイリスティア・アトランティア様は次期聖女候補でございます。


つまりあなた方は教会を…うふふ。」


ラスティアからは穏やかに笑っているようだったが、明らかに殺気に溢れていた。


「どうか、どうか私の家族には、どうか…。」


耐えきれなくなり、その場に跪き、低く低く頭を下げ続ける男爵。


それにラスティアは微笑う。


「ええ、今回の戦争に関わっていなければ、


あなたの家族にはなにもありませんとも。


なにも関わりがなければ、ですけどね、うふふ。」


男爵は顔が真っ青になり、呆然自失となった。


関わりがなければ、


その言葉はあまりにも惨い。


関わりなどいくらでも理由がつけられるのだから、


男爵の表情が暗澹たるものに変わった。


瞬間、男爵の首が飛んだ。


「ひっ!?」


思わずテューダにラスティアは近づいていく。


「そういえば、貴女方には、私、感謝もしているのですよ。」


「な、な、なににだ?」


テューダは自分の未来を予想したのか、


顎をガタガタと震わせながら、そんな言葉を吐き出した。


「帝国と貴女方の杜撰な計画のおかげで布教が上手くいきましたもの。


アイリスティア様は今やこの戦場に於いて聖女と称されるようになりました。


この戦争が終われば、この国の聖女と呼ばれることでしょう、


ああ…なんて甘美な…。」


どこか恍惚とした表情を浮かべるラスティアに、


テューダは震えを加速させた。


ビクビクビクビク。


狂っているテューダはそう思った。



しかし、宗教団体の上の方にいる人間などはどこかしらそんなものなのだ。



そして、ラスティアがテューダに優しく微笑んだ。


「なので、きっとあなた方は赦されるでしょう。


女神アリスのために。」


テューダの首がゆっくりと滑り落ちた。


普段微笑んでいるラスティアの顔から、表情は抜け落ちていた。



いけないと表情を整え、控えている部下を呼ぶ。


「ハミル?」


「はっ!ラスティア様!」


「処理を。」


「はっ!」


そして優雅にテントを後にしようとした時、


ラスティアは気がついた。


「あら、あらあらまあまあ。」


自分の服に本当に微かながら、血が飛び散っていたのを。


ラスティアは内心かなり怒っていたため、


どうやら手元が狂ったようなのだ。


「仕方ありませんわね。」



処理を任せたラスティアはアイリスティアのテントへと戻っていた。


アイリスティアは自分が暗殺されかかっていた事などまったく頭の中にはないように、


穏やかに、そして無垢に眠っていた。


その姿を見て、ラスティアは心が安らいだのか、


自然と心からの微笑みを浮かべ、


もし頬にツンツンなんてしたらなどと悪戯心までも湧いてしまう。


こんな愛らしい主人を起こしてしまうのは、


心苦しいが、


このままというわけにもいかないので、


理由をつけて許してもらうことにした。


「これでいいかしら。」


ラスティアはワインを手に取り、


血が飛び散ったあたりに掛けて、


アイリスティアを起こす。


「ん?…ラスティアさん?


って、どうしたんですか、それっ!?」


「眠れなかったので、少し飲もうかと思ったのですが、


少し手元が狂ってしまいました。」


ラスティアの嘘にアイリスティアは気が付かず、


どこか気遣うようにアイリスティアは言う。


「なるほどそうだったのですね。ラスティアにしては珍しいです…もしお疲れでしたら、このまま休みますか?」


そうアイリスティアが気遣ってくれたので、


せっかくだからと言い、


マジックボックスから取り出されたカバンを受け取る。


そして、中から替えの衣服を取りだし、


着替えを始めるとアイリスティアが見ていることに気がつく。


どうやらまた眠くなってぼ〜っとしていたようだが、


ラスティアと目が合って、自分がしていることに気がついたのだろう。


「ご、ごめんなさいっ!」


顔を真っ赤にして背をむけてしまうアイリスティア。


後ろから抱きしめたい衝動に駆られたラスティアだったが、


今はまだ調理の途中だったので、


仕上げをすることにした。


「アイちゃんのえっち。」


すると、耳まで真っ赤にして俯いてしまった。


アイリスティアは本当に可愛らしい。


こうして、極上の男の娘が出来上がった。


今すぐに食べてしまいたいくらい。



そんな事を考えながら、着替えていると、


自分の胸の一部が固くなっていたことに気がつく。


(あら?どうやら私も戦場の空気にあてられたようですわね。)


朝の着替えと、下着を一枚余分に出し、


残りをバッグに詰めて、アイリスティアに仕舞うよう頼む。


「アイちゃん、


今日は一緒に寝てもいいですか?


私も少し怖くて。」


するとアイリスティアはどこか困った顔をしたが、


優しく微笑んだ。


「ラスティアが怖がるとは思えませんけど…いいですよ。


僕も誰かと一緒にいたいと思っていましたので、


どうかラスティアの疲れがとれますように、


さあ、どうぞ。」


ラスティアが中に入り、アイリスティアを抱きしめると、


アイリスティアもギュッと抱きしめてきた。


ラスティアの温もりに安心したのか、


アイリスティアはまたすぐに眠ってしまった。


ラスティアもアイリスティアを見つめながら、事を済ませてすぐに眠った。




朝、ラスティアより早く起きたアイリスティアが、


彼女を起こすとどこか顔が赤く可愛らしかったのを、


アイリスティアは忘れない。


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