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31 とある宮廷魔術師とアイリスティアが再会して

私、ヘレナは先日までこの世の地獄かと思うような職場環境にいました。


私は宮廷魔術師なのですが、


私の他にも4人こちらに派遣されていました。


口うるさい先輩二人に、ちっちゃな後輩ちゃん一人。


ともに志気は高く、やる気に満ち溢れていた…のですが…。


テューダという公爵家の長子がここのトップとされたのです。


王派閥と貴族派閥の争いでバランスを取るためだったらしいのですが、


この人物が問題児でした。


貴族派閥の優秀さを見せつけるためと、


患者の優先順位をつけることが禁止されました。


患者の優先順位をつけるのは、


助かる人物を増やすためなのですが、


切り捨てる人間を決めていると判断されたようです。


私達はいわゆるトリアージが禁止されていたのです。


全員を助けることを要求された私達は早々にパンクしました。


睡眠もろくに取らせてもらえない環境。


それが一月余りも戦場で続き、


心の病気になりかけるものまで出てきました。


後輩ちゃんはずっと泣きながら、


治療をやっていて、


時折目が虚ろになったりともう限界でした。


かくゆう私も感情が死にかけていたので危なかったです。



そんなある時、地獄を作り出した責任者から、


新しい責任者に変わったのです。


思えば、それは運命だったのだと思います。


四年前の王女誘拐事件のときのあの子だったのです。


あのとき、若干3歳にして、


宮廷魔術師の私のプライドを完膚なきまでに打ちのめした子。


そして、私が再び努力をするきっかけとなった子。


彼に追いつきたいという一心で魔術を学び直したため、なんと司教クラスの能力がなければ使えないと言われる【ハイヒール】を体得するに至りました。


言わば、あの子は私の恩師のようなもの。


そんな子が、未だ7歳ながら私達の指揮を取ることになった。


流石はアイリスティア先生でです。


みんなは最初はどこか不安そうにしていましたが、


先生の私達を称え、励ます言葉を聞いて、


後輩ちゃんなんて号泣して、


信者になって崇めるとまで言っている次第。


そして、先生は言いました。


みんなが寝ている間は私が全ての患者を診る、と。


当然、誰もが反対しました。


しかし、どうしたことでしょう?()()()先生は奇跡を起こしたのです。


天才的な治癒魔術でテントの中にいた全員を完治させました。


それには辛口の先輩達も呆然、


後輩ちゃんなんてまるで女神様のように拝んでいました。


近いうちに像を彫るそうです。


…まあ、私の口からは反対に似たような言葉が出ましたけれども、


心では先生を信じておりましたとも、ええっ!


これが言わば口ではそう言っていてもというやつである。


…違うか。


そんなこんなで私は今、毎日8時間眠れて、


食事もしっかりと取り、余暇まであるという幸せな生活を()()()送っています。


確かに治療するのは、肉体、精神の面で大変ですが、


正直、宮廷での仕事よりも遥かに楽です。


そのせいか、どこか和気あいあいといった雰囲気の職場へと様変わりしました。


今もそんな仕事中、


腕に大きな切り傷を作った傭兵の怪我を見ていた。


「あれが聖女様か?」


「へ?なんですかそれ?」


「この前、医療テントで大規模な回復魔術が使われただろう?


それを知り合いの魔術師が見ていてな、


どう見ても人間にできるはずがない神の奇跡だったって、


それを見ていたやつらはあの娘のことを聖女様と崇めているんだよ。」


「へ〜…確かにそうかも。」


ヘレナは傭兵さんの手当てが終わるなり、


早速アイリスティア先生のもとへと向かった。


アイリスティアが枕の調整をしていると、


不意に大きな声が聞こえた。


「聖女様〜っ!」


誰のことかと思い、無視をしていたら、


アイリスティアに宮廷魔術師のヘレナさんが飛び込んできた。


「急にどうしたんです、ヘレナさん?


それと、その聖女様ってなんですか?」


困惑するアイリスティアにヘレナはどこか嬉しそうに教えてくれる。


「えへへ、患者さんたちがアイリスティア様のことをそうおっしゃっているみたいなんで便乗しちゃいました。」


「患者さんがですか…?」


ヘレナとそんな話をしていると


宮廷魔術師の方々も話に加わってきた。


最近は治療のほうが落ち着いてきたため、余裕ができたのだろう。


「へ〜、確かにそうかもな。」


「あ〜、確かに正に神の奇跡って感じだったもんね。」


「そうです。そうです!


なのでみんなでアイリスティア様の像を建てましょう。


そして、神殿も作りましょう。歴史に残るくらい立派なのを!!」


最後の一人の女の子?は少し心をやってしまったらしいので、話半分に聞くようにとアイリスティアは言われている。


ヘレナがその子にどこかからかうような口調で言う。


「像とか神殿とかはやり過ぎじゃない?


やるなら、木彫りとかじゃないと持ち歩けないでしょ?」


アイリスティアは「え、そこ?」と内心思っていたが、


馬鹿話をしているのだろうと思い、


微笑ましげにその様子を眺めていた。


「そうですね、それじゃあ休み時間にいっぱい作っておきます!」


「……。」


…まあ、いろいろあるよね。



こんな風に穏やかな時間が続けばいい。


そんな風に思っていると、テントの入り口がなにやら騒がしかった。


治癒魔術師の一人が駆け込んできた。


「アイリスティア様、急患です!」


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