30 アイリスティア、久々に魔術を使う
アイリスティアが王から渡されたのは、
白紙の王令だった。
王令とは要するに王の命令のこと。
それが白紙。
つまりは王の命令として自由に書き込むことができるのだ。
王が下賜するものとしては、最上級のものだった。
本来それをもらえるとしても、
総指揮官が不足の時に使える一枚のみのところ。
アイリスティアにはそれが5枚も授けられていた。
余程アイリスティアが…いや、二人のことが大切なのだろう。
もしくは、王もなにかを感じ取っていたのか…。
一枚はランカを総指揮官にするために使い、
もう一枚は……。
―
「私が新しいここの責任者になりましたアイリスティアです。
皆さん、どうかよろしくお願いします。」
僕が治癒魔術師の方々に挨拶をしていると、
テューダがあんなに嫌がっていたテントの中へと入ってきた。
「なに勝手をしている!」
1枚の紙を出す。
「…馬鹿な…これは…。」
「王令です。」
「…そんなこと許されると、いったいなんだ、これはっ!」
囲むように騎士がやって来て、元治療関係責任者のテューダは取り巻きとともに連れて行かれる。
暴いているようすがテントの中にまで伝わっていたが、
程なくして静かになった。
困惑する痩せこけた医療関係者と患者のみがそこには残された。
アイリスティアは一度周りを見て確認すると、
魔術を展開した。
「【サーチ】」
「いったいなにを?」
お姉さんに声を掛けられたので、
僕はテント内部にサーチを掛け、怪我の状態、病状などを瞬時に確認し、
即死級の重篤患者がいないと判断していると説明した。
では、早速話を始めようと思う。
「私からの最初のお願いは、
あなたたちには休んで頂くことです。」
すると、何人もが安堵の表情を浮かべていた。
「皆さんは本当に良く頑張りました。
あなたがたの頑張りのおかげで何人も救われ、
今この場で倒れている方もなんとか生きています。
でも、このままではあなた方が壊れてしまいます。
それでは本末転倒です。」
アイリスティアの労いに救われたように涙まで流す人がいた。
しかし、アイリスティアの次の言葉を聞いた途端に、
態度は一変した。
「とりあえずは8時間ほど、その間は私一人で対応しますから、どうかおやすみを…。」
「無茶です!」
「そんな事できるはずがない!」
「そんなことをしたら、君が壊れてしまう!」
そんな言葉が次々と聞こえていく。
「それではそれが可能だと証明いたしましょう。」
すると、
反対していたものだけでなく、
その他の者たちまで目を見開き、こちらを見ていた。
アイリスティアは優しく微笑む。
マジックボックスから、魔術媒介である枕を取り出し、
ギュッと抱きしめた。
そして、詠唱は始まった。
「範囲を指定。
神の光は天上より齎された 光よ 優しく包み込み
傷ついたものたちに どうか癒やしを
【エリアハイヒール】」
瞬間、枕から暖かい光が出たかと思うと、
魔法陣が地面に出現し、
テントの外にはみ出る程に広がっていき、
やがて回転を始めた。
すると、魔法陣から暖かい光が漏れ始め、
気がつくと、
テントの中をまばゆいばかりの光が満たしていた。
ほんの僅かに混乱が生まれた。
なんと大怪我をしていた人たちが何事もなかったかのように起き上がり始めたのだ。
急ぎ足で治癒魔術師たちが確認をして回る。
すると…
「嘘でしょう?」
「な、なんなんだこれは!」
「…凄い。」
感嘆の声を漏らした。
患者たちは皆、治っていたのだ。
歓声がテントの中から湧き上がった。
患者と抱き合う治癒魔術師を見て、
アイリスティアが優しい微笑みを浮かべていると、
不意に声を掛けられた。
「ど、どうやったのですか?」
先ほどのどこか見覚えのあるお姉さんが興奮気味で聞いてきたので、
アイリスティアは宥めつつ答える。
「落ち着いてください。
ただ上級魔術ハイヒールと範囲魔術を合わせただけですから。」
「なっ!?」
周囲が絶句した。
しかしアイリスティアにはわからない。
なぜそんなことになっているのかを。
まずハイヒールは司教と言われる存在くらいにしか使用できないほどに高難易度であることを、
そして、合成魔術など過去に大賢者くらいしか使用した記録がないことを、
アイリスティアは知らなかった。
当然のことだと思っていた。
楽しそうに笑うラスティアの手には、
誰にでもできるシリーズがあった。
大賢者ヘルミオーネ作。
世界最大のネタ本が。




