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29 戦地到着と問題

この国の貴族も一枚岩ではないと、ランカは言う。


王派閥、貴族派閥、中立。


現在、王国ではの先の2つが勢力争いをしている。


そのため、今回の戦争でもやはりそれが原因の問題が起こった。


王派閥、貴族派閥で総指揮官の選抜が揉めたのである。


王派閥はアトランティア公爵、


貴族派閥はナイン公爵がそれぞれ筆頭であり、


両者が決裂したため、


中立からマスタ侯爵が選ばれた。


つまり、この人物は身動きが取れない状況にある。


アイリスティアはランカたちとともに戦地であるタラスクス平原へと到着した。


到着してからすぐに、


この戦の指揮を取っているマスタ侯爵に挨拶に向かい、


二人がするべきことを確認してきた。


アイリスティアとランカに依頼してきたのは、


まずは兵士たちの慰安だった。


それで全てがわかると侯爵が言っていた。



色々な部隊のところに行き、


激励の言葉を送るアイリスティアとランカ。


二人の美少女?に激励され、


多くの者がやる気を取り戻し、瞬く間に活気づいていく。




そして程なくして、アイリスティアたちはそれに気がついた。


「ランカ様、怪我人が多過ぎませんか?」


「アイリスティアも気がついていたか。」


先程まで、


部隊には必ずと言っていいほどに怪我人がいたため、


アイリスティアが治癒魔術で片っ端から治していたのだ。


そのためかなりの時間を食ってしまい、


最後の治療部隊への激励は日が落ちる寸前となってしまった。



「失礼します。」


ラスティアが先んじて、テントを開けると、


漂ってきたのは異臭だった。


この場にいた全員が思わず顔を顰める。


アイリスティアはラスティアを避けて、


中へと足を踏み入れた。


そこには目を覆いたくなるような光景が広がっていた。


劣悪な環境。


治癒魔術師と思しき人物たちは忙しなく動き回っているが、


全員が頬がこけ、目の下には大きなくまを作り、


治癒魔術自体がまともに動作していなかった。


そのせいか、治療はいっこうに進まない。


魔力が切れた治癒魔術師が包帯などで手当てをしているが、


それも追いつかない。


完全な人員不足なせいか、


血塗れのままうめき声をあげる患者たちは後を絶たない。


まるで地獄絵図だった。



そうか…だから誰も治療テントに近づかなかったのか。



動ける程度の怪我をした者たちは全員が部隊にいた。


そして互いに手当てをし合っていたのだ。


治療テントのことを話すとみんな顔を顰めて、


アイリスティアたちに言いづらそうにしていた理由がわかった。


こんな環境にいたら、体だけでなく心までおかしくなってしまう。


この治療環境は完全に崩壊していた。



「なにをやっておる。


儂の管轄じゃぞそこは。


臭くて敵わんから、閉めろ!」


でっぷりとしたどこか底意地の悪そうな男が下卑た笑みを浮かべて、


こちらへと向かっていた。


取り巻きの一人が男に耳打ちする。


すると、男は態度を一変させ、恭しく一礼した。


「王女殿下、


私はセタ公爵の長男のテューダ・セタ様でございます。


殿下におかれましては…」


「御託はいい。何用か、セタ公爵の長子よ。」


ラスティアが教えてくれる。


先程まで馬車でランカが教えてくれた貴族派閥に属する家でかなりの力を持っていると。


「いえ、ただ挨拶をと思いまして。


して、そちらの方は?」


ランカは心底嫌そうな顔で、どうにか問いに答えた。


「…我が婚約者のアイリスティアだ。」


えっと、ここは僕が挨拶するところだよね?


「アイリスティア・アトランティアです。


テューダ・セタ様、以後お見知りおきを。」


すると、テューダはペロリと舌なめずりをした。


ひっ!思わず声を上げ、顔を顰めそうになるのを耐える。


「これはこれは、ご丁寧に。


それでは私も用がありますので。」


テューダはランカとアイリスティアを舐め回すように見て、


そして去って行った。


ランカはゴミを見るような目で終始いて、


アイリスティアは笑顔を浮かべてはいたが、


内心悪寒に耐えるので必死だった。



えっ…なんなの、なんなのあの目…。


僕のことを犯すようなあの目は…。



アイリスティアはテューダが見えなくなったのを確認し、


自分の体をかき抱いた。


アイリスティアは初めて男の欲望の対象になったのだ。


そのショックは計り知れない。



言い知れぬ恐怖に身を震わせていると、


ランカとラスティアがアイリスティアを包み込んだ。


体温の暖かさと二人の優しさがアイリスティアを癒やしていく。



それから程なくして、震えが収まると、


アイリスティアの思考はもとに戻っていた。


目線の先にあるのは治療テントとは名ばかりのもの。


アイリスティアとランカの目は合った。


……あれを使おう。



ランカは首肯した。


治療を受けないといけない人でこの軍は溢れている。


おそらくその数が入っていないから、


均衡が取れていると王城の方では判断されたのだ。


つまり、この治療テントをどうにかしなければ、


確実に戦争に敗北する。


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