27 馬車の中
物資をマジックボックスに詰め込み終わり、
ようやく出立となる。
「よし、出してくれ。」
ランカがそう告げると馬車は走り出した。
どこか疲れを感じていたアイリスティアがラスティアの膝の上に、
電池が切れたように倒れ、いつものように眠ろうとすると、
ランカの声のどこか羨ましそうな声が聞こえた。
「あっ…。」
そのまま気にせずに眠ろうとするが、
ジッと見つめられている気がして気が休まらない。
「ランカ様、もしかして膝枕をなさりたいのですか?」
アイリスティアがそう聞くと、ランカは小さくコクリと頷いた。
「…だって、いっぱい我慢したんだもん。」
「そ、そうでしたか…。」
どうやらランカはロアナが言ったことを内心では本気にしていたらしく、
馬車の中でいっぱいくっつくから、
王や王妃たちの手前、
いつものように急に抱きついたりはしないよう我慢していたそうなのだ。
そのご褒美を我慢していた幼子のような様子に心を動かされ、
ランカの横に座り直し、ランカの膝に頭をあずける。
「失礼します。」
「おいで、アイリスティア。」
すると、ランカはお預けを食らっていたためか、
かなりだらしのない笑みを浮かべたが、
アイリスティアはそれでもいいかと思った。
最初にその様を見たときは、
内心かなりドン引きしていたのだが、
見慣れてきたせいか、妙な愛らしさを感じていた。
ドキドキはしないが、微笑ましさを感じるとでも言えばいいのか。
ランカが幸せの絶頂といった様子で、
アイリスティアの頭を撫で始めると、
かなり疲れていたのだろう、
程なくしてアイリスティアからす〜す〜という寝息が聞こえてきた。
―
どうやらアイリスティアは眠ってしまったらしい。
ランカとラスティアはその様子にしばらくの間、
癒やしを得ていたのだが、
ラスティアが不意に口を開いた。
「して、戦況の方はその実、どのような状況なので?」
折角のリラックスタイムを邪魔され、
ランカは思わずラスティアを睨みつけるが、
ラスティアはどこ吹く風、暖簾に腕押し。
仕方がないので、ラスティアの質問に答える。
「よくわからない。
これが私の見解だ。」
「よくわからない?もうすぐ停戦するのではないのですか?」
「…確かにそんな話も出ているし、
交渉が行われたという話も聞いている。
しかし…。」
ランカの顔はどこか思案げだった。
「なにか妙だと?」
「ああ。」
「なぜそう思いになったので?」
「わからん。
確かに条件のすり合わせは上手く行っている様子だった。
しかし、報告を聞いて本能的にそう感じた。
戦いの空気に触れずともそう思ったのだ。
お前ならわかるだろう?
このゾワゾワとした感覚。
首の後ろになにかがそっと触れるようなその感覚が。」
ランカは天才と言われる剣士だ。
まだラスティアに劣るとはいえ、
そのため若いながらにして、戦士としての感覚が備わっているのだろう。
流石はあのファティマに勝利した剣聖エリザベートの弟子だ。
帝国とは一度仲が改善され、その時に友好を祈願して、
親善試合が行われたのだが、
その試合には互いの国で最強と称されるファティマとエリザベートが選ばれた。
ラスティアはファティマの実力を、暗殺ギルドにいた時何度かやりあって知っていたので、
ファティマの勝利を疑っていなかったのだが、
それに勝利したのだから大したものだと思っていた。
おそらく今回もその二人が互いに殺し合うことになるだろう。
その点は楽しみだ。
ラスティアは自分の戦闘狂的要素が顔を出し始めたので、
慌てて考えを途中で打ち切り、ランカとの会話に戻る。
「そのことを他の人には?」
「こんなこと言ったところで今王城にいる連中にはわかるまい。
なにせこんなことがわかる連中は戦場にいるか、
国境の警備で大忙しだからな。
伝えたのはほんの数人だ。」
「王には伝えたのですか?」
「ああ、だからこそ、この国で一番の魔術媒介をアイリスティアに渡してくれたのだ。
本来、終わりかけの戦であんな国宝を人に授けるものか。
私の勘を考慮した結果だろうよ。
あれは王から与えられる安全策としては最上級のものだろう。」
ランカとしても、それだけで足りるとは思っていなかったのか、
やはりどこか顔色は優れなかった。
「…私の思い過ごしだといいのだがな。」
「ええ、そうですね。」
(…もしかしたら誰かがこの戦でアイリスティア様を…。)
考えすぎだとは思ったが、
ラスティアはそう思わずにはいられなかった。
アイリスティアは本人が認知しているいないに関わらず、
アリス教の聖女候補なのだから。
自分の他にも思惑が存在するかもしれないと思い、
ラスティアは気を引き締めた。
アイリスティアが道中、目を覚ましたので、
王からもらった布に包まれたものを確認した。
「「「っ!?」」」
中身を見て驚愕する。
3人は顔を見合わせ、さらに気を引き締めたのだった。




