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22 チョロいランカとラスティア

貸し出された部屋から、


必要なものを持って飛び出す。


ランカはイライラしていた。


妹たちとアイリスティアの仲があまりにも良すぎることに。


しかもそれがアイリスティアの母であるアーシャにも、


どこか認められている風なのだ。


微笑ましげな様子で見守り、邪険にされず、


仲良が良さげだった。


先程だって、


マナがアイリスティアを抱っこしたのに後ろからぎゅっと抱きしめて、


本を読んであげていた。


さらに、


ここに来てからのほとんどは、


アイリスティアが妹のロアナとべったりで、


まるで私ではなく、ロアナが本当の婚約者のようにすら見えた。


朝だって、食事の時にアイリスティアがあ〜んとロアナに食べさせていたりもした。



それは本当のところ、ロアナが半分寝ていて、


あまりにも危なっかしかったからなのだが、


恋を拗らせ、変になってすらいるランカにはそうは映らない。



本当に面白くない。


この会えない数ヶ月もの間、


ひとえにアイリスティアとの甘い一時を夢見ていたランカは、


やり場のないこのもやもやを剣に打ち付けんと、


中庭へと向かっていた。


するとそこにある人影が通り掛かった。


「あっ!」「あら?」


視線がかち合った瞬間、私は構えていた。


「き、貴様っ!なぜここに!」


先程まで、第2王女のマナに抱っこされ、スリスリされたり、


ぎゅっとされながら、


一緒に本を読んでいた。


内容は5歳程度が理解できるそれかと思われたが、


僕の歳からすれば、思ったよりもハードな恋愛小説だった。


現在、王都を拠点に活動している女性が書いているらしく、


貴族、平民問わず人気があり、


他の国にも写本がかなり出回っているらしい。


大人が読んでも面白いそれだったのか、


アーシャもその内容に興味を持ち、


いつの間にかその場にいた殆どのものが耳を傾けていた。


僕は少しハードな描写、主にキスシーンが出てきたので、


妙なこそばゆさを感じ、部屋をあとにして、出てきてしまった。


因みに、一つ年上のアヤも逃げるのに誘ったが、


どうやら本に集中していて、聞こえない様子だった。


少しでも過激な描写が出るたびに理解しているのか、


目元を手で覆い、覗き込むように、だけどより真剣に読んでいた。


どうやら女の子のほうが早く成長するというのは本当らしい。


専属としてはどうかとも思ったが、


通常描写を読んでいる分には、


年齢相応に愛らしいので、邪魔をするのは可哀想なので、


うるさく言わずにそっとしておいた。



部屋から出る時に気がついたのだが、


ランカがその場にいなかった。


確か読み始めの時はいたと思ったのだが…。


そういえば、様子がどこか変だったような…。


本を読むことが決まる前、


どこかそわそわして、


期待に満ちた視線をこちらに向けていたような気が…


マナに抱っこされた時も手を伸ばしていたような気もする。


そういえば、少し寂しそうだったかもしれない。


もしかして()()()()取られてしまったと考えたのかもしれない。


いつものはランカがマナを抱えるようにして、


本を読んであげていたと考えると少し微笑ましいし、


納得できる。


…そういえば、食事時も…。


そんな風に考えると、


最近のランカは変態性が目立ってきていてかなり心配していたが、


姉として面倒見が良く、優しい面もあるのか、


と思い、そんな面が知れて少し嬉しいと感じた。


今、なぜかランカと話をしたい気分になった。


探してみようと、


通り掛かった使用人たちに声を掛けていくと、


少しまずいことが明らかになった。



ラスティアが帰ってきたらしいのだ。



数週間前、ランカが来る日程が正確に分かり、


ラスティアのことをどうするかと頭を悩ませたのだが、


自分はその日あたりは時間の掛かる用があるからと言われ、


安心していた。



しかし、


どうやらその予定は早くに片が付き、


お屋敷を離れているはずの予定にも関わらず、


超特急で帰ってきたらしい。



まずい。



自然と足の進みが早くなり、


ランカを目視した時、その対面にはラスティアがいた。


「き、貴様っ!なぜここに!」


…どうやら遅かったらしい。



ランカの声に対し、


ラスティアは少し考える仕草をして、


軽く頷き、応える。


状況を把握したらしい。


「これは王女殿下、


私は春先にこのお屋敷でアイリスティア様の専属使用人となりましたラスティアと申します。


王女殿下は私のことをお知りのご様子ですが、


おそらくは勘違いかと私は他の国の生まれで、


貴族でもない身、貴方様のようなお方と出会おうはずもありません。」


「…ラスト、貴様〜〜〜っ!!」


ランカがラスティアの胸ぐらを掴まんとしたとき、


呆然としていた僕の意識は戻って来た。


「ら、ランカ様っ!」


僕の声に振り向くランカと微笑むラスティア。


ランカは僕を見て驚きの表情を浮かべ、


ラスティアは僕のその反応を見て、


どこか楽しんでいる様子だった。


対象的な二人に頭が痛くなる。


う〜〜っ…一体何でこんなことに…。


「アイリスティア、危ないっ!


下がっていろ!


こいつはあのときのやつだ!気配でわかる!」


そう言って、僕をかばうように背を向けながら、


ラスティアを警戒するランカ。


その様子は酷く興奮していて、話が通じそうにない。


まずは興奮を解かなければならないだろう。


声掛けの仕方がわからず、探るように声を掛ける。


「え、えっと…ランカ様?」


「大丈夫だっ!!


私がついている。


今度は私がお前を守ってみせるから安心しろ。」


どうやら怯えてでもいると思ったのか、


どこか優しく頼もしい表情を僕へと向けるランカ。


その表情は正直、もっと別の機会で見たかった。


きっと絶体絶命のときなんかにそれを見せられたなら、


一生忘れることはなかっただろう。



しかし、これでは違う意味で忘れることができなくなりそうだ。



「お、落ち着いてください!


えっと…彼女はそう、ラストではなく、ラスティアさんです。


ランカ様、勘違い、勘違いですよ。」


ねぇ、ラスティアもなにか言ってくださいと、


視線を送るもラスティアは楽しげに微笑んでいた。


どうやらあてにならないらしい。


僕は一人でどうにかしなければいけないと、


ランカに次の声を掛けようとすると、


なぜかランカの怒りは強くなっていた。


どうやらランカのアイリスティアへの愛情を測り違えたらしい。


「ラスト、貴様っ!


純粋なアイリスティアを騙すなどと…こんなにいい子を…許せんっ!」


剣を構え直し、手に力が入った。


まずい!


「ランカ様待って!」


アイリスティアは、ランカを止めようと羽交い締めにしようとする。


しかし、


背が足らずに腰の辺りにぎゅっと抱き着く形になってしまった。


これでは止めることは出来ないと焦るアイリスティア。


しかし、当のランカは…。


「は、離せ、アイリスティアっ!……っ!?(えっ、なにこれ?幸せ?天国?)」


現状に内心うっとりとしていた。


アイリスティアに抱きつかれ、ある成分を補給することで、


欲望が憤怒を打ち消し、


気がつくと、正気に戻っていた。


どうやらランカは思った以上にチョロいらしい。


今はこの幸福をどれだけ長く楽しむかを考えることに忙しく、


ラスティアのことなど眼中にない。


背中を切りつけられ、命を奪われかけたことなどもはやどうでもいい。


そんなことよりもアイリスティアの感触だ。


小さく柔らかく暖かで、


触れているだけで多幸感に満ち溢れる。


身体ごと振り向こうとすると、


眼の前に頭が来た。


柔らかくすべすべな肌触りの良い、


美しい金の髪、


年に数度しか触れられない髪、


そこからは甘いミルクのような芳しい匂いが立ち昇って来て、


自然と鼻息が荒くなる。


はあはあ、はあはあ。



異変に気がつくアイリスティア。


ん?あれ?


抱き着いた瞬間、前に進む力を感じなくなった。


なにかがおかしい。


アイリスティアはランカを必死になり、興奮したためか若干瞳が潤んでいたが、


構わずにランカの顔を覗く。


すると、ランカの頬にはどこか赤みがさしていて、


目がどこかトロンとしている。


アイリスティアと目が合うと、


視線をラスティアに戻そうとするも、


アイリスティアの魅惑的な上目遣いに目が離せず、


完全に振り向く事はできない。


「わ、私は…そうっ!


あいつを成敗してやらねばならんのだ!」


口ではそう言っているが、


足がまったく動いていないし、


勢いもどこかへ消え去ってしまった気もする。


抱き着く力を弱めてみる。


「あっ…。」


漏れ出た切なそうな声で確信する。


「…どうやら落ち着かれたようですね、ランカ様。」


アイリスティアの目はどこか冷めていた。


「……うむ、あ、愛の力は偉大だな…あはは…。」


まったく…なんでこの人はこうも…。


はあ…いい人ではあるんですがね…。


確かに愛(欲)?の力とやらで正気に戻ってくれたようですし、


次もこの方法なら正気?に戻ることもわかりました。


パブロフの犬的なことになってしまわないか、


かなり心配ですが…。



「どうやら話は済んだようですね?」


…まあ、こっちもだけど…。


ずっとまるで喜劇でも見ているように楽しげに、


僕たちを見ていたラスティア。


なんでこうも残念な人が多いのだろうと内心愚痴った。


「…なるほど…」


僕は早速、僕の部屋に二人を連れていき、


あらましを話した。


すると、ランカは納得したように頷き、


ラスティアに頭を下げる。


「先程は済まなかったな。


それと礼を言う。先日、ダルチック侯爵が捕まった。


どうやらお前が情報をくれたようだな。


お陰で帝国への情報流出が抑えられそうだ。」


ダルチック侯爵、


彼はどうやら例の暗殺事件の首謀者と目された人物だったらしい。


彼は姫の暗殺の他にも後ろ暗いことに手を出していて、


その中に帝国との繋がりがあったそうだ。


それらの情報が一月ほど前に匿名で持ち込まれたらしい。


「いえ、私としてもアイリスティア様のもとで過ごすためにも、


後顧の憂いを断っておきたかったものですから。


しかし、私に少しでも恩義を感じるというのならば、


過去のことは水に流していただければ…と。」


「ああ、それはもちろん。


なにか他には褒美はいらないか?」


すると、ラスティアは微笑んだ。


どうやら事が思い通りに進んでいるらしい。


「それでは一つ貸しということでいかがでしょう。」


「貸し?ああ、構わないぞ?


しかし、私にできることなどたかが知れていると思うが…。」


「いえいえ、なにをおっしゃいます。


次期女王となられるランカ様にこの国でできないことなど、


そうはあるはずがありませんわ。」


早まったことをしたとランカの顔が歪む。


「…領地をくれとか、貴族にしろとかは少し考えさせてくれよ。」


「いえ、そんなことは望みませんから、問題ありませんわ。」


それからもいくつかの質問をしたが、


ラスティアはそんな望みはないと否定し続けた。


「…なぜだかわからないが、


私の人生で最大の失態となる気がするな…。」


「大丈夫ですわ。


これは私とアイリスティア様のためになることですから。」


ラスティアがそう付け加えると、


ランカは不承不承ながら、納得したようだった。


僕は説明が終わったら、


二人に嫌悪な雰囲気を、感じなかったので、


ずっとうつらうつらしていた。


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