表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

21/64

21 王女たちと僕

マーサたちを送り出し、


ラスティアはともかくアヤが悪戦苦闘しているうちに、


気がついたら、夏になった。


このごろのアヤはあがり症が落ち着き気味で、


安心してみていられたのだが、


今日はやけにあわあわしている場面が目立つ。


「アヤさん、どうかなさったのですか?」


「あ、あ、アイリスティア様、


わ、私、変ではないでしょうか?」


変も何も、彼女が着ているのはいつものスタンダードなメイド服だ。


「ええ、いつも通り可愛らしいですよ。」


「つ、つまり大丈夫ってことですね、ね?」


まるで王子に見初めてもらうために必死な乙女のようでかなり愛らしい。


いや、その緊張に対する表現はあながち間違っていないか?


「ええ、ランカ王女も咎めることはないと思います。」


そう、今日はランカが遊びに来るのだ。


普段、公務、学園と忙しい婚約者がやってくる。


()から王都へ行けばいいのだが、アーシャの大反対のため、


そうもいかない。


なので、定期的にこちらへとやって来る。


前回来たのは、学園の春休み頃だったため、


アヤにとっては王族との初の対面だ。


粗相があってはならないと、緊張するのは当然のことだ。


実際、僕の場合、緊張して顔すら覚えていなかったくらいなのだから。


それにやはりアヤは女の子。


姫に対する憧れを持っていることだろう。


物語で登場する姫は必ずと言っていいほど連れ去られるが、


必ずといっていいほど性格は優しく、思慮深く、


聡明で、なにより見惚れるほどの美貌で愛らしい。


桁違いの完璧超人だ。


僕としては魔法や剣が堪能なら、自力で帰ってこいとも思うが、それはともかく、


姫とは女性の理想像だ。


だから正直、がっかりしないといいんだけど…。


あわあわ、そわそわ、キラキラを繰り返すアヤに僕は幸あれと願った。



「ア・イ・リ・ス・ティ・ア〜〜〜〜っ!」


ぎゅむっ!


「す〜〜〜〜〜〜っ。はあぁぁぁっ!


生き返る〜っ!」


僕は慣れた手つきで、


抱きついてきて、


匂いを堪能し、


あまつさえそれによって生き生きとしている王女を


軽く引き剥がす。


どうどうと、優しく頭を撫でつつ、


視線をアヤに向けると、


どこか呆然としていたかと思えば、


ぇぇ…と内臓が括りきれそうな声を出し始めた。


…うん、やっぱりすごくがっかりしている。


どこかカッコ良く、綺麗な王女だったランカだが、


なぜか知らないけどこの数年でこんな風になった…なってしまった。


綺麗さはこんなことをしていなければ、


増したように感じたが、


カッコ良さは僕の視点では完全に失われた。


その代わりに可愛らしさを感じるが、


それはどこかペットに対するそれに近い気がする。


つまり、人間はさっきみたいなことを人前ではやってはいけない。


会えない寂しさがこんな暴走を生んでいると本人は言っているが、実際は定かではない。


自分のせいではないのに、酷く罪悪感を感じる。


しかし、まだ目にはか細い光を感じた。


おそらく完全には、この残念さ満点に成長した存在が、


姫では無いと信じているのだろう。


その希望を打ち砕かねばならないのはかなり気が重い。


「アイリスティア?


こちらの少女はどなただろうか?」


その機会は強制的にもたらされる。


自分のタイミングですら、行かせてもらえない。


「…ええ、はい、こちらはアヤさんです。


春頃に僕の専属使用人になりました少し恥ずかしがり屋さんの女の子です…ランカ王女殿下。」


予想通りピキリと完全に固まった。


目元にはじわりと涙が滲んでいる。


これは完全に夢が打ち砕かれた姿だ。


本当はすぐにでもこの場から逃してあげたいところだが、


そんなことをすれば、色々な人に叱られてしまうので、


ここは心を鬼にして、挨拶するように促す。


「アヤさん、ランカ様に挨拶を。」


アヤはどこか絶望したような表情を浮かべたが、


僕が頑張ってと応援しているのが伝わったのか、


涙を眼尻にためて、頑張る。


「は、春よりアイリスティアしゃまの、専属になりました、アヤと申します。


今後、とも、よろしく、お願いします…っひく…。」


「あ…ああ、よろしく、アヤ。


今後もよく会うことになるだろうから、


仲良くしてほしい。」


「…ひゃい、こちらこそ。」


物凄く空気が居た堪れないので、流れとか関係なく早速逃がしてあげる。


「アヤさん、どうやらお疲れのようですから、


下がって少し休んでください。」


「…ひゃ、ひゃい、ありがとうございます、アイリスティア様。」


そう言って部屋を出ていくアヤが扉が閉まる直前、


涙をこぼしていたのが見えた気がした。



頑張った。


本当によく頑張ったよ、アヤさん。



僕はこのように内心でアヤの奮闘に感動していたのだが、


夢を砕いた張本人たるランカは本当に恥ずかしがり屋なんだね、大丈夫かな


とどこか心配した様子だった。



…いや、あなたのせいだから。


僕は漏れそうになった言葉を飲み込んだ。


ランカは僕を驚かせようと、


妹たちも連れてきたらしい。


付き添いできた王妃とメイドがアーシャたちと


会話をしている。


子供は子供同士、自己紹介なんかをしてみる。


先に僕が挨拶だ。


「アイリスティア・アトランティアと申します。


お二方ともどうかよろしくお願いいたします。」


「ああ、私の将来の旦那様だ。


一生を添い遂げる約束をしている。


こんなに可愛いが、男の子だどうだ?羨ましいだろ?」


ボーイッシュな子は羨ましそうにしていたが、


眠そうな子はまるで興味がなさげだ。


本当に対象的な二人だ。


そうこうしていると、二人の紹介が始まった。


「アイリスティア、こちらは第2王女のマナだ。


歳は私の一つ下で、


好きなことは…」


第2王女のマナはどこかボーイッシュな美少女だった。


金の髪は首の辺りで揃えられ、


整った顔立ちが少年っぽい笑みを浮かべていた。


「君がアイリスティアくん、


わ〜、すごく可愛いね。


お人形さんみたいだ〜。


僕はマナよろしくね。」


そう言って、手を差し出してきた。


どうやら気さくな性格のようだ。


「はい、よろしくお願いします、マナ様。」


僕の手を握ると、


もう片方の手が僕の手を撫でる。


「うわっ!


すべすべだ。


声も可愛いし、いいな〜。


お姉さま、僕もアイリスティアがほしいよ〜。


だめ?ねぇ、ねえってば〜っ。」


「はい、お触り禁止。


マナ、アイリスティアがほしいなら、


私を倒してからにしなさい。」


どこか迫力のある笑みの浮かべるランカに、


チェッ、とどこか楽しそうなマナ。


彼女たち以外にも、王女はいる。


我関せずというか、いま起きていることを認識すらしていないのかもしれない。


目蓋が重たげだ。


正直僕は()()()()()()()()()()()()()()()()()


「では、気を取り直して、アイリスティア、こちらは第3王女のロアナだ。」


「ロアナ、アイちゃんよろしく。」


第3王女のロアナはどこかふわふわしていて、


眠そうに、


僕と同じように()を抱いていた。


握手をする。


その瞬間、僕は本能的に覚った。


それにおそらく相手も。


ロアナは閉じた目を見開いていた。


魂が繋がった気がした。


「ロアナ様、ベッドへ行きましょう。」


「は?」「はい?」「え?」「アイリスティア?」


「うん、行こ。アイちゃん。」


ロアナと手を繋いで、部屋を出ていく。


僕たちに言葉はいらなかった。


枕と布団それさえあれば、もう何もいらない。


二人は手を繋いで、眠りについた。


その様子はとても幸せそうで、


一人を除き、自然と母親のような微笑みを浮かべていた。


「ロアナ、なんでアイリスティアと一緒に寝ているのだ、


まだ私だって寝たことないのだぞ!」


ランカはマナと専属のサリアに引きずられて、


部屋から連れ出された。





こうして僕に初めてのソウルメイトというやつができたのだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ