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19 ラスティアを問い詰めているはず

事務的な挨拶が済み、アイリスティアは早速、二人を自分の部屋に連れてきた。



今日は顔合わせだけで、荷物の整理もあるだろうからと、今日の業務の終了を伝え…そして、ラスティアには残るよう伝えた。



アイリスティアは枕を抱っこし、警戒しつつ聞く。


「お久しぶりです、ラストさん。」


「はい、お久しぶりです。


お綺麗になられましたね。」


「いや、僕は男なのですが…それはともかく、動じないのですね?」


「動じる?」


ラスティアはコテンと首をかしげる。


その様子は演技がかっているわけでもなくどうやら素のようだ。


「…あなたの目的はなんです?」


「目的?う〜ん…そうですね〜?」


あらあらとどこか可愛らしいものを見るように、


どこかいたずらっぽく微笑む。


そんな様子にどこか力が抜ける。


「…もう…なんですか、その反応は警戒している僕が馬鹿みたいではないですか…。」


「あらあら、そんなことはありませんわ。


警戒なさるのが、大変可愛らしくていらっしゃって、


とてもキュンキュンしましたわ。」


いや、別にラスティアを萌えさせるためにやったわけではないのだが…。


抱きしめていた枕を側に置いた。


「どうやら交戦の意思はないようですね?」


「ええ、もちろん。」


相変わらず底の知れぬ笑みを浮かべるラスティアに聞く。


「今はといったところですか?」


にっこり。


「……。」


「うふふ、冗談ですわ。


本当にアイちゃんは可愛いですね?」


「いや、アイちゃんって…。」


「だってそちらの方が可愛らしいでしょう?」


ぷくぅ。


ラスティアが真面目に取り合ってくれないので、


思わず頬を膨らませた。


「そんなことないもん。」


その姿は美幼女が拗ねているようにしか見えないのだが、


アイリスティアは気がつかない。


ラスティアは鼻を押さえて、首の後ろをトントンし始めた。


「どうしましたか?」


「い、いえ…それにアイちゃん?


アイちゃんはそもそも間違っていますわ。」


「え?間違っているってなにを?」


急にそんなことを言われて困惑している俺に、


ラスティアは予想もつかないことを言いはじめた。


「私は使用人で、アイちゃんは雇い主様。


なので一言、言えと、おっしゃっていただければ、


なんでもお答えいたしますわ。」


「う〜ん…そういうものですか?」


「はい、私はアイちゃんのものですから。」


う〜ん…そうか…僕のものか…。


そう言われて困惑がより酷くなったせいか、


もうほぼ答えを言われていることに俺は気がつかない。


「それじゃあ、ラスティアさん、


あなたがここに来た目的を言ってください。」


どうだ!とアイリスティアが胸を張るも、


ラスティアは首を振る。


「全然駄目です。」


「え?」


「アイちゃんには主らしさが足りません。」


「主らしさ?


偉そうにしろってことですか?」


「端的に言って、そうです。


アイちゃんの奥ゆかしさは美点ですけど、


貴族としては、


そのように振る舞わねばならないこともあるかと…。」


ふむ、一理あるか。


しかし、具体的にどうすればいいのだろうか?


「まずは私を呼び捨てにしていただきたく。」


初対面…ではないが、


それほど知らない人を呼び捨てにするのは、


この数年、


男らしく生きることを封じられてきたアイリスティアとしては、


看過しがたいものだった。


内心では俺という一人称を使ってはいるが、


外では僕という一人称を使っている。


最近では、内心でも俺という一人称を使っていることに、


疑問を持ちつつある。


なぜこんな風になったのかと言うと、


アイリスティアは淑女の教育を受けていた。


最初は当然、男として育てられていたのだが、


ドレスを普段着として着用し、


戦闘訓練や、魔法の訓練といった血生臭いことよりも、


縫い物やお茶会の方が楽しそうにしていたので、


周囲が自然とそうしてしまったのだ。


アイリスティアは天才的な才能が表に出る危惧をしなくて済むため、


一切の気を抜いていただけなのだが、


どうやら勘違いしたらしい。


実際、それは勘違いなので、


口が動かしやすくなった頃、


俺と言ったり、男っぽい口調をした。


しかし、勘違いしていた母やライラ、屋敷の人間たちも酷くショックを受け、悲しそうな顔をした。


それに母やライラなんて、


どこでそんな口調を学んできたのか、


調べてその原因を排除せんとすらしていた。


そのせいか、自分の一人称を俺と言うことさえも、


禁止していたのだ。


よって、女らしさ、淑女らしさは加速し、


今のアイリスティアの表に出せる心は、


完璧な大和撫子となってしまっていた。


そんな人間が、


さんや様付け無しで、いきなり名前呼びを口から出すというのは厳しい。


「…ら、ラスティア…こ、これでいいですか?」


アイリスティアが恥ずかしさを押し殺して、


頑張って名前呼びを成功させると、


ラスティアの胸を貫いていた。


「はあはあ…はい、良く出来ました。


ですが、敬語でしたね。


駄目ですよ、もっと偉そうになさらないと。」


「…ううう…。」


アイリスティアの姿はまるで卑猥な言葉を言わされている少女のようだったのだが、


彼自身はそれに気がつかない。


ラスティアは途中から完全に目的を忘れて楽しんでいた。


本当は気に入ったアイリスティアに、


命令されてみたいと思っていただけなのだが、


アイリスティアの反応があまりにも可愛らしすぎて、


気がつくと意地悪をしてしまっていた。


しかもそれを自分の意思で止めることはできない。



アイリスティアは純粋に自分のために言ってくれていると思っているので、頑張ってしまう。


彼は清水の舞台から飛び降りるくらいの勢いで、


その可愛らしい口から言葉を発する。


「ら、ラスティア、口答えしないで、


僕にここに来た目的を言いなさい!



……ううう…。」


なんか今までで一番恥ずかしいかもしれない。


思わずしゃがみこんでしまう。


顔から火が出そうだ。


頬に触れてみるとやはりかなりの熱を持っていた。


これでよかった、とラスティアを見つめる。



顔を真っ赤にして目を潤ませて見上げるその姿はくしくも上目遣いになっていたようで、


破壊力は抜群だった。



予想以上の結果に、


ラスティアは鼻血を吹き出して倒れた。




アイリスティアはラスティアをベットに寝かせ、


後始末をしてから、


用事を済ませることにした。


どうやらラスティアに害する意思はなさそうだ。


鼻血を吹き出し、やり残したことはないと言わんばかりの清々しい笑顔を向けているラスティアが、


なにかを企んでいるとしたら、


流石に演技に身体を張り過ぎだと思う。




アイリスティアの専属使用人以外にもこの屋敷で採用するそうだ。


他数名の使用人が結婚や年齢のため、


入れ替えになるらしい。


現在は引き継ぎのために残っているが、


少なくともあと数日でここを去るということなので、


長い間お世話になった人も多いため、


お礼を言いに行くことにした。




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