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17 枕を作る

俺が王からもらったのは、


マジックスパイダーの糸とストレンジシープの毛だ。



マジックスパイダーは、


糸に魔力を付与して、剣のように鋭くしたり、


粘着力を強めて相手を絡め取ったり、


属性を付与して燃やしたり、凍らせたりするなど、


多彩な攻撃手段を持つ大蜘蛛だ。


ちなみに討伐のランクはかなり高いAランクらしい。


ストレンジシープは、


牧場なんかで普通の羊から稀に生まれる種族で、


外見は遠目で見ると普通の羊と変わらない。


しかし、毛の質が段違いだ。


その毛で作った布団や枕はどんな存在でも安眠に導くらしい。



そんな2つの高級素材。



「それで一体なにを作るのですか?」


「うん、まくらをつくろうとおもって」


「枕?」


実はここ王都に来てから、寝不足で、


1日だいたい8時間弱しか寝ていない。


普段は14時間は寝ていたというのに、


半減に近い。


なので色々な場所で自然と眠くなって寝てしまうのだが、


如何せん安眠感がなく、寝起きが優れない。


理由はおそらくこれだろう。



まくらがないこと。



「なるほど…そういうことでしたか…。


そういうことでしたら、


私の膝を使って頂いて結構ですよ。」


すると、俺は思わず苦虫を噛み潰したような顔を浮かべた。


「ど、どうなさったのですか?


なにか不満でも?


はっ…もしかして私の膝枕ではお気に召しませんか?」


そう、どこか不安そうにライラが聞いてくるので、


すぐに否定する。


「ち、ちがうよ、らいらのはだいすきだよ。


ほんと、ほんとだからね、らいらはだいすきだから。」


ほっとした様子のライラ。


そして、なにやら若干頬が赤い。


「それではなぜあんな表情をしてらっしゃったので?」


俺はライラに説明する。


実は先日、王城に行ったときに馬車の中で、


眠ってしまった。


そのとき父が膝枕をしてくれていたようだが、


妙な硬さと弾力、そして臭いのせいだったのだろうか、


最悪の夢を見た。



その夢で俺は…筋肉に囲まれていた。


男たちは思い思いのポーズをとり、にじり寄ってきた。


当然俺も逃げたし、魔法も使ったのだが、


バリアに弾かれたようにそれは効かない。


そして、


もみくちゃにされ、気を失ったところで目を覚ました。



「…こういうゆめをみたことをおもいだしちゃって…。」


ライラはなにやら笑いを堪えたような顔をしている。


まあ、当然だ。


俺だって他人がそんな夢を見れば、


似たような反応をするだろう。


しかし、現実に似たような思いをした俺は…笑えない。


なにせ夢に出たような筋肉は実在するのだから。


マルティネス。


先の夢でも先頭を切って出てきた。


やつは夢でも現実でも俺を苦しめる。



せめて夢であいつには出会いたくない。


だからこその枕だ。


持ち運び可能なそれがあればきっと…。



クスクスと後ろを向いてライラが笑っている。


ぷくぅ。


流石に笑い過ぎじゃないかな?


「…ライラ、もうへやからでていって。」


俺は手始めに不快な表情を浮かべたライラを部屋から追い出すことにした。




さて、


それでは始めよう。



部屋の外から「坊っちゃま、坊っちゃま」と聞こえるが、


気のせいに違いない。



魔力縫いを始めよう。


魔力縫いとは、


魔力を糸の中に流し、


その糸を自在に操り、


服や小物に作っていく作業のことを言う。


その出来上がった服や小物は比較的、魔力を通しやすい性質を持ち、


限られた有力貴族の服や最上位冒険者の服は、


この製法で作られたものもあるらしい。


このことからもわかるように、


この製法は桁違いに難易度が高い。


流す魔力量、性質、操作性どれもが最高難度で求められる。


さらに一度でも魔力を切らしてしまったら、


魔力暴走を起こし、爆散する。


よって、今できるのは、世界で数人。


冒険者が手に入れたそれは迷宮内で見つかったもの。



そんなことを知らないアイリスティアは、


スイスイと枕を縫い上げていき、


数十分もしないうちに、


第一号の枕が出来上がった。



自分の肩幅くらいのそれが。


しかし、このサイズでいいのだろうか?


俺は悩む。


できれば、もっと大きくして抱き枕にもなったほうが、


いいのではないだろうか。


それに常に持ち歩くのであれば、


魔力媒介にもやはりしたい。



そんなこんなしながら、


納得のいく出来になる頃には、辺りは暗くなり始め、


気がつくとお腹が空いていた。



扉を開けると、


目の死んだライラが立っていた。



俺は試作した枕を一つプレゼントした。


ごめん、ライラまさかまだいるとは思わなかった。


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