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13 暗殺者との戦闘2

瞬間、首の後ろに障壁を張る。


パリンっ!


ラストは目を見開く。


恐らく渾身の一撃だったのだろう。


「なっ!」


声が漏れたところに、


すかさず、魔力糸で拘束しようとした。


速度重視の直線的に狙いを定めたそれはあまりに単調だったためか、間一髪避けられてしまう。


内心舌打ちをする。


ならばっ!


軌道を変える。


狙いが読まれないよう波打たせるも、


ラストはそれを器用に避けていく。




発想は面白かったが、あくまで奇策。


動きはどこか単調でそれなりに攻撃を避けていれば、


パターンが生まれている。


ラストはほのかな安心を覚えた。


この子供は戦闘に慣れていない。


小刀に一瞬力が入る。


あと一手攻撃を避ければ…。



ラストは一瞬、ほんの一瞬油断した。


アイリスティアはその隙を見逃さなかった。


その油断こそアイリスティアが狙っていたものだ。



背中になにか硬いものがあたっている。


「ん?…これは…」


距離感を間違えたのかと手で触れてみると、それは明らかに壁のようだが、周りのものの配置からそれはありえないと理解する。


そう、ラストの背面には障壁が貼られていたのだ。


「…しまっ!?」


理解し、瞬時にそこから逃げ出そうと前方に駆け出そうとするも、


前方も両横も壁に覆われている。


そして、気がつくと、


上下四方が障壁によって囲まれていた。


呆然としているラストに拘束の糸を絡ませる。


すると、鎧のガチャガチャという音が聞こえてきた。



アイリスティアはそこでやっと一息をつくことができたのだった。


騒ぎを聞きつけやって来た兵士たちは、ランカの怪我を確認し、すぐに治癒魔術師を手配した。


彼女は宮廷治癒魔術師とこの国における治癒魔術のスペシャリストだったのだが、傷を見るなり顔色が優れない。


どうやらランカの傷は難しいものらしい。



「…残念ですが、傷が残ってしまうかと。」


麻痺と小さな傷は回復させたが、


王女の傷は思ったよりも深い。


これでは、どれだけうまくやっても、


無様な一本線が残ってしまう。


これはまずい。


ランカ様は王族だ。


様々なパーティー、


式典、その他諸々に出席なさる。


その際の正装は例外なくドレスだ。


ドレスはランカ様がいま着られているように、


背中が大きく開いたものがほとんどで、


それ以外を着ているのは、ご妙齢の方くらいだ。


特にランカ様は見目麗しくいらっしゃる。


女として体に自身がないと見られ、


どこか蔑まれてしまうだろう。


背中の傷というのはそれほどに女として致命的だ。


このまま成長されれば、


この国の歴代女王で最も美しいと表現されるだろうに。


そこにケチがついてしまうとは、


私は自分の能力のなさを嘆く。


「申し訳ありません。」


「よい、そなたのせいではなかろう。


傷が痛くてかなわない。


さっさと治してほしい。」


どこかふざけるように言うランカ様。


私が心遣いを無にしてはいけないと、魔術を発動しようとしたその時、


「あの、ぼくがなおそうか?」


「なにをっ!?」


ランカ様が手で私を制した。


そして優しく微笑みこう言った。


「それではお願いしようか。」



私は宮廷の治癒術師だ。


いわばエリート。


それがこんな幼い子供に劣るわけがないそう思わなくもなかった。


そんなプライドは一瞬で砕かれた。



【ヒール】



子供の手から暖かな色をした大量の光が溢れ出てくる。


その光は真っ直ぐにランカ王女の傷口を優しく包み込んだ。


その暖かな光は周囲を浄化でもしたのだろうか、


周りの殺伐とした雰囲気まで浄化されたかのように消し去ってしまっていた。


そして、その優しい光はいつの間にか消えている。


どうやら私は見惚れていたらしい。


そのあまりにも暖かで…そして、優しい光に。


「おわりました。


これでいいですか?」


呆然としていた私だったが、この声により自分を取り戻す。


彼女を再び見やると、年相応な笑みを浮かべていた。


できたことを褒めてほしそうなどこか興奮した笑顔。


そんな様子を見て、一瞬肩の力が抜けかけるも、


ランカ王女の傷を確認しなければと思い直す。


「失礼します。」


目だけでなく手で触れて、傷口があったであろう場所をなぞって確認する。


やはりというか、なんというか、目で見てもわかりきったことだが、当然、完璧に治っていた。


自然と声が漏れる。


「…凄い。」


「どうだ?」


「え、えっと、傷は完全に完治です。


文字通り傷一つありません。」


「そ、そうか…良かった。」


口では傷が残っても仕方がないと言っていても、


それはやはり強がりだ。


彼女は第一王女はまだ子供であり、女の子なのだ。


やはり悲しかったり、苦しかったり、


不安を覚えていたのだろう。


ランカの目は微かに濡れていた。


少しの間、一人にして差し上げよう。



さて、功績を称えてあげなければ、


めいいっぱい褒めてあげようと、


どこかうずうずしていたかの子を見やると、


さっきのところにはいなかった。


どこに行ったのかと探すと、


ソファの方から寝息が聞こえた。



眠っている姿も本当に天使のようだった。




「見つけました、みつけましたわっ♪とうとう、ようやく…。」


「早く歩かないか。」


「はい、もちろん。ふふふ、うふふふ♪」


不気味な微笑みが聞こえてくる。


兵士はそれを拷問を受けることを覚り、狂ったのだと思っていたが、それは違った。


理由は単純だ。




後日、牢からラストの姿は消え去っていた。


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