11 パーティーで出会う
パーティーの日がやってきた。
父と母達に連れられ、
城の中に入り、
会場に案内され、時間になると爵位の順に子どもたちの王への謁見は開始された。
なんと俺の順番は一番最初。
はい、嬉しくないです。
しっかりとピンと指先を張り、そう手を上げたいところだが、如何せんそうしたところで要らん風評が立つだけでなににもなりはしない。
どうやら俺が生まれた歳は王族がいないらしく、まさかの大抜擢とのこと。
ひどく緊張し、なにかされるのではとされるのではと強ばっていたに違いない。
すると、案外すぐに謁見は終わった。
ほぼほぼ父が王と話をし、俺は兄たちにしたような自己紹介をして終わり。
割と楽だった。
まあ、それは少し周りを見渡せば納得のことだ。
そこには、アイリスティアと同い年のお子さんが軽く見ただけで30人くらいはいたのだから。
この全てがさっきアイリスティアがしたように、挨拶していくのだ。
さらには、大人たちは王と良好な関係を築くために気合いを入れている様子もうかがえ、これでは子供たちに何かしらの余計な時間なんてとりようもない。
あっ、自己紹介で噛んじゃって、顔を青くしている。
あっ、今度は記憶が飛んでしまったのか、父親の裾を引いている。
あっ、今度は転んで泣き始めちゃった。
そんな様子を見て、アイリスティアはふと疑問に思った。
なぜ3歳なのだろう?
正直、このお披露目パーティーは5歳とか…それより上でもいいんじゃないかと思う。そのほうが礼儀作法も、少なくとも今よりは上等なそれになっていることだろう。
そうアイリスティアが思っていると、気になる会話が耳に飛び込んできた。
「伯爵、うちの娘との婚姻をどうか考えていただけませんか?」
「貴殿の?そうじゃのう…。」
アイリスティアはその聞こえてきた親達の会話で納得する。
こんな会話がこの会場のあちこちで聞こえたのだ。
そして仮説を立てる。
なるほど、案外、3歳というのが肝なのかもしれない。
先ほどの謁見の様子からもわかるように、あまりはっきりと喋れず、親の言うことをはっきりと聞く素直さ持つ子が多い。
極めつけは恋なんていうものを知らないことだろう。
前世では、5歳くらいに幼稚園や保育園の先生に初恋をするなんていうのは、稀にあった。
おそらくここら辺がボーダーラインなんだろう。
まあ、それも俺には関係ない。
なにせ三男坊だから。
娘を嫁がせたいのは長男、そしてスペアである次男までだろう。
三男は実質放逐され、
基本的に三男坊が婚約を結ぶのは商会の娘あたりになる。
今回は貴族だけの集まりで商会関係者は来ない。
だから謁見が終わったので、適当に楽しんでいていいと言われた。
料理をつまんで、友達作りに勤しみたいと思う。
そう思ったのだが、予想外にも大人や子供、色々な人に話しかけられ、ひどく忙しかったのだが、その甲斐なく子供の友人はできなかった。
子供たちはアイリスティアと少し話していると、なぜか皆、顔を真っ赤にして去っていってしまうのだ。
3分以上話が続かなかった。
これでは当然友人など出来はしないだらう。
頑張った分、落胆は大きい。
ご飯を食べて、友人作りを頑張ったのに甲斐がなかったせいか、余計に疲れたアイリスティアはパーティー会場を後にし、喧騒が聞こえないくらいに離れた場所のソファに腰を預けると、重くなったまぶたに抵抗することをやめた。
そうちょっとだけと誰かに言い訳をして、自然に身を任せたのだ。
―
ひどく疲れた私は会場の外へと抜け出した。
今日のパーティーに私が参加したのは、
次期女王として、臣下となる者たちへのある種の顔見せだ。
王者としての貫禄で、
もしくは魅力で臣下たちの尊敬を集めよ、
ということらしい。
幸いにして、私こと、ランカ・アルファは容姿に優れているらしく、かなりウケが良かったので、
特に何をするでもなく、後者で尊敬を集める事ができた。
しかしこれには私も思うところがある。
毎年、
どこか惚けた、目でこちらを見てくる。
しかし、これがあと数年経つと、
自分のものにしたいという我欲や憧れ、嫉妬の視線へと変わると思うと、
気が重く、やるせない気持ちになってしまう。
あんなに可愛いかったあの子が…というやつだ。
諸行無常とでも言うのだろうか?
今日は珍しいことがあったというか、驚きが。
私にそういった視線をまったくといっていいほど送って来ない子がいたのだ。
その正体は、
今まで見たことのないくらい美しい子だった。
一番最初に挨拶をした子だ。
名をアイリスティア・アトランティアという。
公爵家の三男らしい。
えっ、男の子?
思わず父と母の方を見ると、
二人も顔を見合わせていた。
どうやら困惑していたのは私達だけではないらしい。
周囲でもそんな反応が伺えた。
彼は3歳にしてはしっかりとした挨拶をした。
謁見前、最中はどこか真剣な美しさが、
観客、我々をも魅了し、
謁見が終わると安心したのか、
見たことのないくらい可愛らしい笑みを浮かべ、
あどけない雰囲気で再び私を、いや、
父、母を含め、全てを魅了した。
表情が変わるだけで人の胸を打つ。
…これが俗にいう傾国の美女というやつか。
誰もが自然と目で追っていた。
正直、私も公務さえなければ、ずっと眺めていたかった。
今年は幸先がよく、どことなく気合が入ったのだが、
期待はあっさりと裏切られた。
前述のように例年通り。
余計に疲れた。
ここ数年のサボり場所へ私は向かう。
喧騒が徐々に離れてゆき、
自分一人の世界へと誘われて行くようで心地が良い。
目的の場所に着くと、
先客がいた。
いわゆる侵入者というやつだ。
興が削がれた。
ガックリと肩を落とし、去ろうと思うが、
もしかしたら気の合う仲間になれるかもしれないと思い、
勇気を出して近づく。
すると、そこには件の少年がいた。
猫のように丸まり、天使のようにあどけない笑みを浮かべていた。
私は流れるような仕草で彼の横に座り、
彼の頭を膝の上にのせた。
「え、えっと、うん!
枕がないと安眠できないからな!」
言い訳がましく、
誰に対して言うでもない言葉が自分の耳を打つ。
「…まったくなにをやっているのだ、私は。」
す〜、す〜。
寝息を聞き、
膝の上の程よい温かさを自覚する。
ごくり。
「せっかくだから、頭を撫でたりしても?
いいよな…ああ、いいに決まっているなっ!!」
きっとこれは普段頑張っている私へのご褒美だという謎理論のもと、
美しく手触りの良さそうな髪に触れる。
滑らかだった。
髪に指を通すと独特の柔らかさがあって、
指に幸せが広がる。
日々の疲れが抜けていくようだった。
それにどこか甘い、
安らぎを感じる匂いもする。
思わず匂いのもとを辿ろうとするも、
微かに残った倫理観がようやく仕事をした。
おそらくそれをしてしまったら、
私はなにかを失ってしまっていただろう。
もしくはなにかを手にしていただろう。
甘美なそれが目の前にあることに我慢しつつ、
眠ったアイリスティアを愛でて、
日々の疲れを癒やした。
ある程度の時間がたった。
名残り惜しいが、
そろそろお暇しなければならない。
断腸の思いで
彼の頭をソファにそっと置いた瞬間、
ひどい殺気を感じた。
私は剣を引き抜き、
刃を弾き飛ばした。




