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魔女と美男子と異世界(仮)  作者: 血飛沫とまと
第二章『学園編』
33/37

第32話『使用人は乱暴に扱ってはならぬ』

真ん中らへんに差し込んだ世界観解説は、読んでも読まなくてもあんま関係ないやつです。

あとあと他の国も物語に影響しますが、あとあとなので。

「アルター・フリーゼ。今月の頭、軍務大臣に就任した貴族の青年」


 ドヴァレーツは脇に挟んでいた書類を開いて、まとめた情報を話し始める。

 すらりとした長身は英国紳士風だが、そのうえに乗るのはドーベルマンの頭という奇異な外見をした男だ。しかし、これを奇異だと見てしまうのは、この世界のことを知らないからである。


「出自は分かったのか?」


「いいえ、出自のことは何も。所詮は使用人たちの耳に入る程度の情報ですよ」


「だよなー」


 パテルは溜め息を吐き、煙草に火をつける。

 パテルが生まれるよりも早い時期からリーベルタース家に仕え続ける執事、ドヴァレーツ。実年齢はパテルにも分からぬ、ベテラン執事である。


 彼には国中の使用人たちとのパイプがある。いわば、『使用人コミュニティ』である。この国には昔から使用人を乱暴に扱ってはならぬという風習があるが、半ば都市伝説的に扱われているこの『使用人コミュニティ』があるからである。

 使用人たちは互いに情報を共有し、扱いの良い貴族、悪い主人、悪徳ビジネスへの関与など、一般には流れないような情報が、使用人たちの間では共有されているのだ。つまり、良い主人の許にしか良い使用人は来ない、ということだ。


 ――加えて。ドヴァレーツのように主人に最も信頼されているような使用人は、主人の書斎を漁ることなど容易いのである。


 このコミュニティはその存在がほぼ都市伝説なため、実在を知らぬ者も多い。しかしながら、パテルのように、使用人と相互に信頼しあっているような貴族はその存在を認知し、また利用することが可能ということになる。


「出自不明、出身不明。本名かも不明です。現在の住居は王都内にあるそうですが、そこでは使用人を雇っていないようで、詳細は何もわかりませんでした」


「そうか。ご苦労」


 結局、何も分からなかったということだ。何も新たな情報はなかった。


「どうしてアルター・フリーゼについて知りたいのですか?」


 ドヴァレーツが問う。


「……いやな、ブルマイスター辺境伯から手紙があったんだ。あの人は前の会議でもフリーゼを気にかけていた。やけにその話ばかりするから俺も気になってきてな。別に問題ないとは思うんだが……」


 パテルはそう言って、指に煙草を挟み、頬を掻く。


「なるほど。――彼の素性については一切不明でしたが、動きは少し不穏かもしれませんね」


「というと?」


「アルター・フリーゼは最近、軍務大臣に就任しました。出自がわかっていないのに、です。うわさでは王族の誰かの隠し子というものもありますが、でしたら尚更、目立つようなことはさせないでしょう」


「……そうだな?」


「そして不穏なのはここ」


 ドヴァレーツはそう言って人差し指を立てた。


「――実はアルター・フリーゼが就任する以前に、軍務大臣に就任予定だった者がいるのです」


「そいつは?」


「就任を目前にして、亡くなりました」


「…………」


 パテルは口をつぐんだ。アルター・フリーゼ自身の危険性について、パテルはあまり気にしていなかった。ブルマイスターが気にしすぎているだけだろうと。貴族の社会ではありがちなことだ。出自を重んじる者しかいないのだ。出自の分からぬ者がいれば、怪しまれる。

 しかし、しかしだ。

 アルター・フリーゼの関連するところで人が死んでいるとなれば、また話は変わってくる。


「自殺として処理されており、注目すら受けていませんが、どう考えても怪しい、不審です」


「よし、じゃあまずそいつについて調べよう。死んだ軍務大臣候補だった奴」


「――いえ、パテル様」


 煙草を灰皿に押し付け、立ち上がったパテルをドヴァレーツが止める。


「……?」


「その前に」


 言って、ドヴァレーツは懐から一通の封筒を取り出してみせた。


「国王陛下からのお呼び出しです。おそらく、リンティネン男爵の件かと思いますが」


「――っだぁ、めんどくせえ」


 ――まだ疑われてんのか、俺。





   *****





 図書館でこの世界について、いくつかの本を参照すると、大まかだが分かったことがいくつかあった。


 まず、この世界は奇妙なほどにメイの居た世界に似ていて、また奇妙なほどに異なっていたことだ。

 というのも、この世界には6つの大陸があったわけだが、そのいずれもが、どこか地球に似ていながらも違った形をしているのだ。


 その違いに関して細かい記述は省略するが、重要だと思われる、今現在メイの居る国についてはいくつか記すべきだろう。

 メイの居る『シェアト王国』は六大陸の中でも最も大きい『プトレマイオス大陸』の北西部に位置する半島部分、『ペガスス』のちょうど中心辺りに存在する国である。この国の歴史は他のペガスス半島諸国と密接な関りがあり、半島は世界中を見渡しても類を見ないほど技術を発展させている。

 このプトレマイオス大陸は地球でいう「ユーラシア大陸」、ペガスス半島は言うまでもなく「欧州」の部分と近い。というか、メイの居た地球と非常に似通った地形をしているのは、ここだけとも言える。


 たとえば、アメリカ両大陸に相当すると思われる部分に目を向けてみると、北アメリカ大陸はそのカナダに相当する部分と、その南方、アメリカに相当する部分が大河により分断されている。アメリカ合衆国に相当すると思われる『ノグリア合衆国』なる国がある。

 また、カナダの部分は未開の地となっている。歴史の教科書によれば、なんとそこは氷河と吹雪に包まれた極寒の大陸となっており、古の錬金術師たちの一族がいるとか、いないとか。


 ペガスス半島中央に位置する『シェアト王国』は、お察しの通り、現在の地球でいうところのドイツやチェコ、オーストリア、ハンガリーのあたりをその版図に収めている。言語もドイツ語に非常に近く感じられ、実際にドイツ語だと思われる。


 シェアト王国は立憲君主制国家であるが、その実情においては民主主義的であるわけではなく、貴族たちが形成する貴族院と公選によって選出された議員が形成する庶民院の二院議会制政治となっている。

 しかしこの両院も決して平等なパワーバランスとなっているわけではなく、貴族院の力にやや偏っている。つまり、貴族の発言権が庶民よりも強いということだ。加えて、立憲君主制といえば君主の力が憲法によって抑制されていると想像しがちだし、実際にそういった側面もあるのだが、日本のように『君臨すれども統治せず』というわけではない。王族もまた、議会同様に影響力を持っているのだ。

 要は、庶民院はあれど、実際には上流階級に都合のいい政治がまかり通っているというのが現状のようだ。――しかしながら、現在の貴族院の指示を受けるいわゆる『宰相』と呼ばれている男というのが、貴族たちの期待を裏切るほどに、そしていっそ庶民たちの期待すら裏切るように、親亜人派であるのが、唯一の救いか。


 シェアト王国の南方には、いくつかの小国群が見られ、その辺りが例の『亜人戦争』のお相手だと思われる、各種族たちの国なのだろう。

 王国の西の隣国は、つまり地球のフランスに相当する国が『アルゲニブ共和国』。エルフと人間の共存する国だ。


 半島の北西には島国があり、ここにあるのがユナイテッド・キングダム。『アルフェル連合王国』だ。

 世界から一抜けて技術革命、産業革命を果たし、今もなお世界中に影響力を持つ大国である。


 半島諸国とアルフェル連合王国は、元は大きな一つの国だったようだ。このあたりがメイの知る地球とは違った歴史を辿っているということが顕著に見られる部分なのだが、それはまたの機会に取っておこう。


 ゴシック調や絵本から取り出したようなメルヘンな街並み、ついでにそこに差し込まれる魔法科学によるマジックパンクな要素も、シェアト王国に限った話ではないようで、半島諸国は文化圏が近しいようだ。

 それでも各国でそれぞれの特徴が表れており、飛びぬけてメルヘンで、頭抜けて魔法と科学の調和を感じられるのはシェアト王国だった。


 とにかく、メイにはこの世界がさらに奇妙に思えた。

 それは絵本の世界から取り出したような家屋や、近未来的な『魔法科学技術』、魔法に限った話ではない。世界の形が似て非なるところであるところだ。

 地形に限らず、歴史上の人物にはメイのきいたことのある人物も散見された。しかしながら、メイの知る歴史とは違う登場の仕方をしていたりするのだ。いわゆるパラレルワールド、と言い切るには不十分な程度の重なり――これがメイには奇妙に感ぜられた。


 





   *****





 2月3日。新入生歓迎会当日。

 校舎内は準備日より輪にかけて騒々しくなっていた。


 それぞれの教師が持つ教室では二年生の生徒を中心にして、授業内容の説明会のようなものが開かれている。

 メイマピゲリズ学園では三年生以降は将来を見据えた専門コースへと移行する。


 具体的には『魔法使い』、『士官』、『医者』、『研究者』、そして軍は通らない役人である『官僚』である。

 もちろん、労働者なんて選択肢はここにはない。亜人族が募集されるまでは、貴族家たちがこぞって入学させるエリート向けの学園だったのだ。


 各寮は三年生までしか使用せず、四年生からはそれぞれ自分で住居を用意しなければならない。そもそも、四年生は学校にはほとんど来ないらしい。


 要するに、生徒たちは学園での生活や授業によって、直接将来の進路が決まるのだ。

 二年生は熱心にプレゼンして、一年生はそれを聞く。熱心に聞く。これが当然の在り方なのだ。


 ――シャッテン寮を除いては。


 シャッテン寮の多くを占める亜人族たちにとって、エリート向けに用意された三学年以上のカリキュラムは不要である。どうせ、彼らの将来は労働者だ。

 とはいえ。時の宰相は、亜人協調派である。やがては亜人族がエリート層に食い込むことも夢ではないのかもしれない。そのためのメイマピゲリズ学園への亜人の募集であり、彼らも三学年以降のカリキュラムを習得する権利が与えられているのだ。


 しかしながら、国や世間の在り方とは無関係なところで、亜人族はそもそも将来について考えていない。――というのも、彼らの将来は労働者であると決めつけてかかるのは決してエリートたちの考えではなく、彼ら自身の諦念だからだ。


 彼らが親や家族から期待されているのは、少しでも条件の良いところで働くことであって、その「ところ」を管理する側に回ることは期待されていない。はなから、親や家族などいない者が多い。家名やらなんやらという重荷を背負わされた貴族家の子どもたちとは、その背景や根本から全く異なる世界に生きているのだ。


 ともかく、寮別に不真面目度を数値化すれば、最下位を堂々獲得するのがシャッテン寮だ。

 ――そんなわけで、新入生を歓迎しようという会の真っ最中だというのに、当のシャッテン寮新入生たちは授業の説明など聴かず、寮の談話室に籠っていた。というか、たむろっていた。


「メイちゃん、私たちだけでも説明、聞きに行く?」


 カーミラはそんな談話室を見て呆れ、メイにそう言った。

 シャッテン寮はそのほとんどが亜人族の生徒で構成されているが、人間族の生徒もいないわけではない。しかしながら、人間族らしき生徒たちも、その他の犬や猫の耳を生やしたり、身体の表面に鱗を浮かばせる生徒たちと同様、見るからにやくざな柄の悪さをしている。

 これは……『学園の唯一の汚点は亜人族が通っていること』といわれてしまうだろうな、と感じられる。いやいや、旦那、待ってください。人間だって柄が悪いんですぜ、この寮は。


「そう、だね……」


 メイマピゲリズ学園の授業形式は、メイの慣れた高等学校のものとは異なり、どちらかといえば大学に近い形式をとっていた。

 それぞれの教員が教室を持っており、その教員の担当科目を受講する場合は生徒たちがその教室へと移動する。日本人的感覚からすれば「全授業移動教室」みたいなものだ。


「今展示やら発表やらをしているのは一年生向けの授業だけだと思うから、とりあえず全部回って気に入った授業とるっていうのが王道かな」


 カーミラが言う。


「メイちゃん、とりあえず回ろ。でさ……、」


 カーミラは珍しく少し言い淀んだ。メイの印象では、彼女は自分なりの芯があるタイプで、心が揺らぐようなことはあまりないだろうと思っていたが。


「え、なんて?」


 メイはその続きを聞き逃したのかと思い、問い直す。


「いや……、あの……いくつかでいいから、授業一緒にしない?」


 彼女の言い淀んだ内容というのは、思いのほか可愛らしいものだった。





 それからメイはカーミラと二人でいくつかの教室を見て回った。

 まず話を聞きに行ったのは『政治学』の授業だった。大きな教室だった。いかにも、大学的というか。

 そこに集う聴衆たる新入生たちは髪の色も目の色もばらばらな人たちだが、一様に白い肌の人間族たちである。そういえば、この世界に来てから人間族といえば白人しか見ていない。欧州に位置すると思えば、まあそういう国なのだろうというところではあるが。


 対して授業のカリキュラム等を饒舌に語る上級生はいかにもインテリという感じ。

 試しに話を聞きに来るメイたちとは違って、家柄や育ちの中でおのずと政治家を目指すようになった上流階級の者たちだ。


 その後ろ、教卓に座って気難しそうに生徒たちを眺めるのがバッハシュタイン教授。

 一族は政治家の家系で、本人も役人として働きながら、民主主義について研究しているらしい。ならば民主主義者なのかというと、そういうわけでもないようで、自由主義国家ノグリアが西方の大陸で後進国ながら目覚ましい成長を遂げる中、民主主義の優位性が叫ばれる世の中に対して、その問題点をあげつらう男のようだ。


「この『政治学』の授業では、世界の捉え方、動かし方などを学ぶ。世相を正しくとらえ、未来を鋭く洞察し、国を、世界をより良い方向へと導く術だ。まさに、政治家を目指すならば必須の授業と言っていい」


 教壇に立った上級生が声を張る。


 『政治学』なんて大層な名前を付けられては、その授業内容が特定の思想に傾倒することは致し方のないところである。しかしながら、バッハシュタイン氏は教育においてはプロ。プロ意識を有する。思想と教育、思考方法の伝授とではまったく別のものとして、どのような思想を持つ生徒であろうと平等に同じ教育をしてみせるようだ。


「政治学の先生、指導も評価も厳しいって聞いてたけど、もう顔に出てるね」


 カーミラが言った。


「噂になってるの?」


「そうだよ、厳しい先生代表みたい。なしかなー」


「厳しいなら私も無しー」


 メイとカーミラが次に訪れたのは、『魔法学』の教室。

 『政治学』の教室とは対照的に、規模の小さい教室で、説明会を開く上級生も、説明を聞きに来た新入生も少なかった。


「メイちゃん、魔法が使えるの?」


 カーミラが問うた。メイはふふんっと鼻を鳴らしながら、常に携帯していた白色の魔法の杖を取り出し、見せびらかした。


「え! 凄い才能だよ!!」


 カーミラは自分のことのように喜んだ。


「『魔法学』なんて私には縁のない授業だけど、魔法使いの素質があるなら、絶対受けるべき! 説明だけなら私も一緒に聞くよ」


 カーラがそう言ってくれたので、『魔法学』の説明を一通り聞いた。

 要は、『基礎魔法』の使い方を教えてくれる授業のようだった。『基礎魔法』というのは、以前エルが説明してくれた、魔力を放出して攻撃に用いる『射撃魔法』と、反対に防御のために使う『防御魔法』のことだ。そのほかには、自分の腕力が持ち上げられる程度のものならば、手の届かぬ場所のものでも操れるという力も、基礎魔法に該当するそうだ。





 次に2人が顔を出したのは、『歩兵学』という授業だった。物騒だし違和感のある授業名だが、なんでも上級生になると『用兵学』という授業を学ぶ人もいるらしく、これはその準備のための授業と言うことだった。


「『歩兵学』の授業では、『用兵学』に先駆けて戦場の見方と基礎的な戦い方を教える。用兵学というのはいわずもがな、兵を用いるための知識を学ぶ学問のことだが、兵として使えない奴に兵を用いる権利などない。ここでは駒の使い方を学ぶ前に、駒として使える奴になるための訓練をする」


 大きな教室で教壇に立ち、流暢に言葉を並べるのは、オスカー・リーベルタースだった。


「軍隊に行くつもりがないという生徒も多いだろうが、官僚を目指すのならば学んでおいて損はない。最近、若い官僚が軍務大臣になったろう。出世の道はどこに隠れているか分からんものだ」


 軍役経験が買われて講師として雇われたとのことだったが、こうしてみるとますます、とても17歳の青年には見えなかった。顔立ちや身長、体格が若者らしくないというのももちろんその要素だったが、なにより貫禄が違う。彼はまるで100年の時を乗り越えた老兵のように見えた。

 老兵のような貫禄と、若々しい肉体。それらはミスマッチしているように見えて、案外、共存出来得る要素なのだ。


 教師然として、眼鏡なんかもかけてしまうオスカーを見るのは、なんだか愉快なものだったが、メイがこの授業を取ることはないだろう。実際に教室にいるのは男子ばかりだった。

 オスカーは「出世の道はどこにあるか分からない、軍に対する理解がその道かもしれない」と言っているが、それは女性に適用されるものではない。メイの居た世界の常識は基本この世界では通用しないが、所詮1920年代。こちらでも力仕事は男の仕事なのだ。


 そんなわけで、講師として必死に頑張るオスカーくんを茶化すのはあとにして、メイたちは寮へと帰った。

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