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魔女と美男子と異世界(仮)  作者: 血飛沫とまと
第一章『屋敷編』
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第18話『罪と罰』

 敵の攻勢が落ち着いた。


 安堵に胸をなでおろした一向は、中庭に姿を現した。お互いに、被害状況を確認するためである。

 メイらも、オスカーに連れられ、C館から脱出した。


 まだ、空は暗い。


「おおおおお!」


 C館4階から降りてきた使用人は、奇跡の勝利に歓喜していた。


 しかし、屋敷のそこかしこから中庭に姿を現した面々は、損耗が激しく、ずっと数が減ってしまっていた。今やA・C館の2館のみを残して、瓦礫の山と化してしまった屋敷。

 A館に配置していた内からは、紫髪の軍人ケニー、おさげぱっつん眼鏡っ娘のメイドカーラ、そして6人いた厨房係のうち、2人しか生き残っていなかった。4人の損失で100人単位の敵を押し退けたのだと考えると、十分すぎる快挙ではあったが、メイは人を数として見ることはできなかった。

 C館はその他の使用人たちが配置されていた。内訳は、メイド1人、執事7人、庭師2人、それにガイルとオスカーである。こちらも、見事敵襲を撃退したが、損耗は激しい。ガイルとオスカー、それに執事が4人、生存していた。


 逆に、エルナに匿われていたメイ、エル、イザベル、ネアン、ロッサは全員生き残っていた。自分たちだけが生き残っていればいい、といいたいわけではないが、結果的に彼らは防衛線に成功したことになるだろう。


 生存者は、執事が4人・ケニー、オスカー、ガイルの軍人3人・エルナとその護衛下で6人・厨房係2人・そしてカーラの合計15人だった。はじめは屋敷のメンツは合計で25人だったので、10人の損耗ということになる。


「みんなよく戦ってくれたよ」


 ガイルが言った。服もボロボロになっている。装備も、拳銃のみになっていた。それもそのはずで、彼の使っている機関銃――この国に流通しているものだが、これは水冷式のものであった。連射により熱せられた銃身を冷やすために、水を使うのだ。その水というのは、銃身を包むジャケットの中に入れてあるわけだが、熱により蒸発した水蒸気を回収するため、据え置きのタンクが必要となるのだ。銃本体も含めて、総重量は60キログラム近くになる。そんなものを、手軽に持ち歩くことはできないということだ。


「ああ。……今からそれぞれ、敷地内を探索して、敵の情報を分析する」


 オスカーは集まった、合計9人の戦闘員と、エルナとそれに護衛された非戦闘員5人に向けてそう言った。


「俺は屋敷の中や瓦礫の下敷きになっている敵兵から情報を得るつもりだ。エルナたちはこちらについてきてくれ。――ガイルとケニーはそのほかを連れて林に行ってほしい。敵の残党がいないか探すんだ。第二攻勢の可能性も考えられる」


「了解」


 オスカーの指示に、ケニーが応える。

 メイたち6人はオスカーに続いて瓦礫の山を避け、A館へと向かう。すぐ側にひとつ、敵兵の死体が落ちていた。


「黒い戦闘服に、赤のベレー帽……」


 メイは死体を見て、その姿について呟く。

 その他の死体もそうだ。どれも黒色の野戦服に、ところどころ赤色が差し込まれている。赤の帽子、赤のヘルメット、赤のスカーフマスク……。

 覚えがあった。これは――、


「そうだ、こいつらはオペラハウスで戦闘した奴らと同じ組織だ」


 オスカーが言った。

 オペラハウス――メイがこの世界に来た初日、落下した場所のことである。そこには、武装集団がいて、メイは彼らの射撃の的となった。彼らもまた、黒い服に赤色のアクセントが入った装いをしていた。

 パテルの推測はいくつかあったが、多くはメイが命を狙われていたということを前提としていた。『転移者』という珍しい存在の体を手に入れ金にするため、だとか。

 オスカー曰く、屋敷を襲撃したのもあの集団と同じものだという。ということは、彼らはメイを狙ってこの屋敷を襲撃した、と考えるのが最も論理的な思考だと言える。


 ――ならば、屋敷を死守するため、自分のような弱者を守り抜くため、そのために命を散らした使用人たち。その命を奪う原因を作ったのは――、


「メイ、余計なことは考えるな。……お前のせいじゃない。この顛末に、お前の自由意志は介入していない」


 オスカーがメイの思考を遮るように言った。その言葉はメイを庇うものであったが、パニック状態に陥った精神を今なお引きずっているメイには、救いにはならなかった。こんな状況で、こんな場所で、心に平穏など訪れない。


「敵にも生存者がいないか探ろう。情報が欲しい」


 オスカーは空気を切り替えるようにそう言った。

 情報を得て、その先に、何があるというのか。それは結局、メイを追い詰めるものかもしれないのに。


「メイちゃん、なんかよう分からんけど、メイちゃんのせいじゃないよ」


 イザベルが、メイの腕に抱きついたまま言った。彼女の顔、目の前にある。彼女の胸は、メイに押し付けられている。平常時のメイであれば、興奮しているだろう。しかし、どうだ。目の前で震える、しかしながらメイを元気づけようとしている、この弱弱しく愛おしい女性が、メイのせいで死んでいたかもしれないのだ。これからも、メイの側にいる限り、死ぬ可能性があるのだ。

 メイのせいではない、そう言ってくれる人。メイのせいではないと強調してくれる人こそが、メイにとっては大切な人であるし、大切な人には、死んでほしくない。幸せに天寿を全うしてほしい。が、その大切な人を、今まさに危険にさらしているのは、他でもない、自分なのだ。


「わ、私……、死にます」


 メイは言う。


「私が死ねば、いいんです。私が死ねばよかったんだ。……どうして生きているんだろう。どうして、私は優しい言葉をかけられて、意味なんかない慈悲をかけられて、それで、のうのうと生きていけるんだろう――」


 メイが続ける。

 その様子を、みんなが見ている。すでに屋敷周辺を囲う木々へと偵察に行った者を除く、大切な人たちが。


 常に自分を気遣い、慣れぬ土地で困惑するメイを優しく助け、街に連れ出してくれたエル。


 ここに来てからずっと、自分を気にかけ、体を張って身を守ってくれたオスカー。


 先輩として時に厳しく、時に優しく見守って、また先ほどまで自分を護衛してくれていた、エルナ。


 こんな自分を、それでも悪くない、と。メイは優しい子なのだと。そうやって、肯定し続けてくれたイザベル。


 自分の用意した、くだらないサプライズに感動し、笑い、そして涙まで流し、感謝して、心を開いてくれた、ネアン。


 そして、夜道に怯え、情けない姿で屋敷に戻った自分を、聖母のような優しさを以て抱擁してくれたロッサ。


 料理を任せられるようになってからは、厨房のシェフたちも良くしてくれた。彼らもメイを支えた、大事な存在だ。


「――私は、私は……、みんなに、生きてほしい。幸せにならなくちゃ、いけない人たちなんだ。……こんな人たちが、私の代わりに死んでいいはずがないんだ」


 この世界に来て1か月と少し。

 今や、この屋敷の人たちは、メイにとっては欠かせない、『大切なもの』だった。

 そして、その大切なものたちは、自分の身代わりになって、命を落としている。きっと、この先も何人も死ぬのだろう。


 自分が生きている限り、この人たちは、死ぬんだ。


「私が死ねば、すべて上手くいくんだ。私が、私こそが、死ぬべきだったんだ。もっと、もっと、早く、死んでおけば、よかったんだ……」


 こんな希死念慮の言葉たちも、メイに吐かれるのが可哀想だと、メイは思う。

 この言葉たちは、現在、メイ自身を慰めるためだけに口から出ている。


「メイ」


 次に口を開いたのは、ネアンだった。以前ならば、業務に関することでなければ、話しかけてくれなかった、消極的な少女であった。


「メイはパニック状態に陥っています。今のメイの精神は、通常時の安定したものではありません。今、頭には色々なことが浮かぶと思います。しかしながら、それは平常な思考ではありません。短絡的な思考で、物事を進めるべきではありません。落ち着くまで、あなたの周りには私が、みんながついています」


「そうね。ネアンの言う通りよ。今は余計なことをしないほうがいいわ。オスカー様がおっしゃった通り、貴女が望んでこんな惨状を作ったわけではないでしょう。貴女はそんな人じゃない、それくらいはみんな分かっているのよ。誰も貴女を憎んだりしないわ」


 ロッサもそう続く。


「みんな、メイのせいで死んだんじゃないからね。メイや僕らのために、死んだんだ。今メイが死んだら、それこそ彼らの命が無駄になる。彼らは僕らを守るために死んだんだから。……メイは責任を取って死ぬんじゃなくて、僕と一緒に、その命を背負って、生きていくんだよ。それを彼らも願っているんだと思う」


 エルも、自分を慰めてくれる。

 メイの周りには、メイのことを思ってくれる者ばかりだ。

 それは余計に、メイの心に負担をかけていた。しかし、


「とにかく、今死にたいだなんて思ってても、実行するべきじゃない。10年後にも同じことを思ってたら、好きにしろ」


 オスカーがそう言った。だから、メイは考えるのを辞めた。今、自分はパニック状態なのだから。考えても考えても、「死ぬ」という選択肢が主張してくる。そうだ、オスカーの言う通り、死ぬのは10年後にしよう。

 メイはこの罪を、背負っていくのだ。それが、彼らへの弔いであり、メイへの罰であるのだ。


 気づけば、先ほどまでメイの腕にしがみついていたはずのイザベラが、今度は逆に、メイにしがみつかれていた。

 メイは小刻みに震えて、まるで赤子のように泣きじゃくっていた。


「それにさっき集まらなかった奴らが、全員死んでるとも限らない。どちらにしろ、俺たちは屋敷内を周るべきだ。死んでるなら死んでるで、遺体だけでも持ち帰らなくちゃならない」





   *****





 結局、屋敷の中に倒れ込む味方の戦士たちの中には、生存者はいなかった。オスカーとエルが一人ひとり確認したが、確実に絶命させられていた。仮に瀕死の状態であれば、エルの魔法でどうにか延命できたかもしれないらしい。

 みんな、メイのために命を落としたのだ。なればこそ、メイは死ぬわけにはいかないのだ。――そう自分に言い聞かせた。今の自分は、死にたがっている。死ぬことで、楽になろうとしているのだ。この希死念慮は、いま窮地に立たされ、仲間の大勢失った……しかもそれが自分のせいかもしれない――そういう状況から逃げたい本能の現れなのだ。死ぬことは、彼らの尊厳を踏みにじり、冒涜するものである。そう、自分の言い聞かせ続けることで、メイは生きていた。


「おい」


 オスカーが声を出す。しかし、その声はメイらの中の誰かに話しかけるようなものではないようだった。


「起きろ。……エル、少しだけこいつを治療してくれるか?」


「いいよ」


 オスカーに要求されたエルは、腰から杖を取り出し、オスカーのほうへと寄った。

 メイたちもそれに続いて、オスカーのところへと向かう。見れば、オスカーはひとりの兵士の襟を掴み上げていた。……黒色の戦闘服に、赤色のスカーフ。オスカーは、敵兵を治療させようとしているのだ。


 エルがその敵兵へと杖をかざし、優しく振ってみせる。すると、手を中心に、杖を媒介して、白色の粒子のようなものが発生する。こう見ると、エルは魔法使いなのだと実感させられる。魔法は杖から発動するのではないのだ。あくまで魔力を持つ魔法使い本人から発動しているのが、純粋な魔法だ。杖という道具は、魔法の発動を容易にするための、いわば初心者用の援助装置である。


 エルが発生させた白色の粒子は、やがて敵兵を覆う。その患部にしみこむように集まり、傷が癒えていく。


「……ぁ」


 目をつむっていた敵兵が、目を見開いた。


「よく眠れたか? よくも俺の家族を殺してくれたな。目的はなんだ?」


 オスカーが敵兵の襟を引き、詰めて問う。

 対して兵士は、苦痛の声を上げた後、


「へ、へへっ……殺せよ」


 と言って笑った。


「所属は?」


「所属? 知らんな。そんなものは、ない。……俺たちは金さえもらえればなんでもやる。誰でも、殺す」


 そこまで聞いて、オスカーは一発、その兵士の顔面を殴った。


「傭兵か。卑しい奴だ」


「お前も、変わらねえだろ。……こんな都市部を持つ領主の護衛が、こんな少ないなんて、ありえるかよ。なのに、仲間がみんなやられた。只者じゃねえ……お前だって、他人を殺して生きてきたんだろ?」


 兵士の言葉を聞いて、今度は2発殴った。


「俺の話はどうでもいい。誰に雇われた?」


「知らねえよ。言うわけ、ねえだろ、バァーカ」


 オスカーが腰のホルスターから拳銃を抜く。


「見るな」


 そう、メイたちに命じた。言われた通りに、エルも含めて、全員が後ろを向く。

 重たい発砲音が響き、兵士は絶命した。


「以前からパテルの命が狙われていた」


 半壊した屋敷の探索が終わり、中庭へと戻る中で、オスカーが言った。


「目的がメイとは限らない。メイが責任を感じる必要はない。……傭兵を雇ったやつが誰なのか……、それはまだ分からない。いや、目星はついてる。パテルは立場上、狙われやすいからな」


 闇に覆われていた空は、少しだけ明るくなっていた。紺色。朝が来る。


「以前、夜道でメイとエルを襲撃した輩も、ただのゴロツキだったが、金を渡されて命じられたらしい。こちらも金を渡して雇い主について聞いたが、『若い男』ということしか分からなかった。成人してるかもあいまいな、若い男だったらしい。風貌も分からない」


 A・C館は半壊。B・D館はオスカーの爆弾によって崩壊。屋敷は、ずいぶんと荒れてしまっていた。


「おそらく、やはり、目的はパテルだな。メイ、繰り返すが、お前は悪くない」


 オスカーは再び、メイを慰める。しかし、メイはパニック状態だ。周りのことを気にしてはいられなかった。


「パテルの命を狙う者……、毒殺、盗聴器はなかった……内部……? だが、屋敷の襲撃はパテルがいないときに行われた。……ああ、おそらく、あのゴロツキは威力偵察だ」


 オスカーはいくつか独り言をしてから、メイたち、否、メイは話を聞いていないので、その他の非戦闘員に向けてそう言った。


「ゴロツキを突き合わせたことで、相手は俺がいることを知った。パテルが指揮系統だと仮定すれば、パテルと俺が離れてるうちに、どちらかを殺しておきたかった。パテルが王都へ向かう道中、または王都の中では、彼を暗殺するのは難しいと判断した。だから、俺と少人数の使用人しかいないタイミングを狙って、屋敷を襲撃――俺を先に殺すことにしたんだろう。結果は、失敗だったようだが」


「なるほどね」


 エルだけが、聞いていますというアピールをするように、反応を示した。


「嫌な推理だが、やっぱり内部に――」


 オスカーがそう言いかけたところで、中庭に爆発音が轟いた。地が揺れる。が、その揺れは爆発によるものではないと、すぐに分かった。


「う、うわああああぁ――!」


 林のほうから、絶叫しながら走ってくる者がいた。リーベルタース邸の執事である。

 林の中からは、もうひとつ、音が聞こえた。あれが地を揺らしている元凶だ。それは、足音だ。


『オスカー! 出たぜ……! あいつだ、ゴーレムだ……ッ!』


 オスカーの無線に、ガイルの報告が入った。オスカーはすぐにメイたちを庇う姿勢を取る。


 林の中からすがたを現す、黒い巨体。

 それは、オペラハウスからメイたちをしつこく追跡していた、あの怪物だった。

 ぶくぶくと太った漆黒の巨体を、無数の黒い人間の腕が支え、林の中から逃げ出した執事を追いかけている。歯並びの悪い大きな口に、8つの眼。


「ぁがッ!?」


 やがて巨体に追いつかれた執事は、声にならぬ音を鳴らして、無惨にも、その黒い腕で踏み潰されてしまった。あれでは、生き残ることはできないだろう。

 黒の巨体の腕の下で、執事は醜い肉塊と化してしまった。


「エル、エルナ。みんなを連れて逃げろ」


「逃げるって言っても、どこに!? 敷地の外だって安全じゃない、見られてるかもしれないんだ」


 エルが反論した。


「……分かった。エルナ、みんなを守れ。とにかくあの怪物から逃げなくちゃいけない。ひとまずは交戦する。逆側の林に隠れてくれ」


「分かったわ。みんな、行きましょう」


 オスカーの指示通り、エルナに続いて、ゴーレムが現れたほうとは逆の、北西のほうへと走った。

 木々の中に身を潜めて、メイ・エル・ネアン・イザベル・ロッサ・エルナの6人は中庭の様子を見張っていた。


 中庭には、遠回りをしてゴーレムから逃れた面々が集っていた。

 ガイルやケニー、カーラ、その他には執事が2人ほど。それ以外は、みんな死んでしまったのだろうか。


 相手あの巨体。銃や爆発物といった技術で戦うのではない。

 単純明快な、暴力の権化。


 それに向けて、みんなが発砲していた。攻撃にゴーレムがひるむ様子は、まったくなかった。


「俺が車を手配しよう。すでに連絡はしてある。表まで受け取りに行く。増援も頼んだが、期待はできねえ。――ここで耐えてくれ」


 ガイルがそう言って、半壊のA館のほうへと走っていく。

 ゴーレムを銃撃する面々を置いて、メイたちだけでも逃がすための、移動手段。それを確保するため、ロータリーを抜け、表の通りに出る必要があったのだ。


 しかし。


 のそのそと、我が物顔で、ゆっくりと動いていた黒い巨体が、ガイルに目をつける。

 それは、群れから外れたガゼルを目にした、ライオンのようなもの。


 それまで、執事を轢き潰して満足そうにしていたゴーレムが、駆ける。

 オスカーのスポーツカーにすら追いついた、その脚力。その巨体。


 あっという間に追いつかれるのは、火を見るよりも明らか。

 ガイルは、黒い腕の一本につままれる。あの巨体の前では、巨漢のガイルも、羽虫のようである。


「ご、あ……!? ぁ」


 ガイルの足が宙に浮く。彼の眼が一瞬、中庭の面々を見た。それは、助けを求める視線であった。

 そして、諦める。彼は自分の運命を、直面する絶望を、飲み干す。そして、次に目を向けたのは林のほう。生きろ、そう言っているように、見えた。


「ガイルさん……!」


 メイは咄嗟に立ち上がった。しかし、それに何の意味があるのだろう。ここで最も無力な、自分。


「メイ、伏せろ」


 エルナに腕を引かれ、尻もちをついた。それでもガイルの最期を見届けようとする、愚かな自分の顔を覆うように、エルナが自分をその胸に抱いた。

 エルナの腕越しに聞こえる、悲鳴。


 巨体が大きな口を開き、ガイルがその口の中へと放り込まれた。

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