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魔女と美男子と異世界(仮)  作者: 血飛沫とまと
第一章『屋敷編』
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第16話『武器庫と作戦』

 一行はまず、B館のオスカーの部屋まで行った。

 オスカーの部屋はメイたちのそれと同じ大きさだったが、あまりにも質素で、広く感じた。ベッド、机、椅子、クローゼット。それ以外のものが、ほとんど何もない。どの家具も灰色で、人が住む前のような状態だった。


 オスカーは黙ってクローゼットを開く。総勢21人に及ぶロッサとアランを除いた使用人群と、ガイル、ケニーは、オスカーの背中越しに、クローゼットの中を覗き込んだ。

 ロッサとエルは、その様子を部屋の扉の前に立って眺めている。


 クローゼットの奥に、なにやらパネルのようなものがあるようだった。オスカーがそのパネルになんらかの操作を加えると、クローゼットの奥がそのまま、扉のように開く。


「「おお!?」」


 電子で稼働するその隠し扉に、使用人はおろか、ガイルまでも驚嘆の声を上げる。

 オスカーはその隠し扉の向こうへと進んでいく。それに続いて、メイたちも頭をかがめてクローゼットをくぐった。


 クローゼットの向こうは横幅の狭い階段になっていて、頭の高さは充分、メイらが立って歩ける程度だったが、横に並んで歩いていくことはできなかった。そのため、オスカーと25人の部下たちは、長蛇の列を作ってそれを下っていった。下に、下に、いくつかの曲がり角を経て、長く続く階段を下りていく。それはおそらく、1階にある部屋を避け、その向こう――地下まで伸びている。


 地下に下っていくと、また一つ、扉があった。

 オスカーがそれを開けると、その奥は一転、何百人もの人を収められる、大きな空間が広がっていた。


「おおおおおお!?」


 また、ガイルが声を上げる。

 階段から地下室へと脱出した面々は、これでやっとまともに息ができる、と安堵していた。


 天井は一面白色の発光物で埋め尽くされ、部屋全体が照らされている。部屋の中央に一つ、小さな台があり、オスカーはそこまで歩いていくと、それに手を触れる。

 指紋認証だろうか、オスカーがそれに触れると、部屋全体が少しだけ振動し、メイたちの両側の壁面がゆっくりと開く。壁面は、これまた電気で稼働する扉のようになっていて、二段になった棚のような形をしていた。その棚の扉が上部に向けてずれていき、やがて壁の中へと収納される。


 壁の中から現れた棚のような、二段になった収納スペースには、武器がずらりと並んでいた。


 ボルトアクション式の小銃(ライフル)拳銃(ハンドガン)短機関銃(サブマシンガン)重機関銃(ヘビーマシンガン)……、爆発物に、投擲武器、ガスマスク、ナイフ、銃剣……、ありとあらゆる兵器が、部屋の両壁面にずらりと並んだ。


「すげえ……」


 庭師の男の一人が、今度は感動に近い声を漏らした。

 メイからすると、まるで博物館にでも来たような感覚だった。拳銃を除いて、どの武器も、骨董品のように感じてしまう。この世界には、まだ突撃銃や半自動小銃などは登場していないようだった。短機関銃があるということは、半自動小銃自体は開発済みかもしれない。


「好きなのを使ってくれ。遠慮や心配はいらない。どうせ俺の金で用意したものじゃない。本気でこの屋敷のみんなを護るために使ってくれ」


 オスカーが振り返り、使用人ズに向けて言った。


「俺たちも借りていいのか?」


 ガイルが問う。


「もちろんだ。今来た道を何度も通るわけにはいかない。持てる分の弾薬を運び出しておくべきだろ」


「メイちゃ、うちら、どういう状況なん?」


 メイのすぐ側にずっとついてきていたイザベルが、メイの肩に触れて、そう言った。

 使用人の中には戦闘要員も多いとの話だったが、彼女は違うのだろう。どういう状況なのかと問いつつ、ある程度は現状を理解し始めているようで、獣を前にした小動物のように小刻みに震えていた。


「さあ……もう何が何だか……。でもとにかく緊急事態みたいです。――私たちは戦えませんし、荷物を運ぶのくらいは手伝いましょう」


 それから、戦闘要員とされている使用人たちは皆、それぞれに適した武器を探し、弾薬とともに運び出した。メイとイザベル、ネアンはとにかく持てる分の弾薬を持って、地上へと運び出した。

 結局、一往復しかできなかった。


「すまない、俺の準備不足だ。どう考えても……クソ、本当に駄目だな、最近は」


 オスカーは地上に上がってから、武装した面々を見回し、準備の時間が不足していることを悔いた。


「ああ、以前のお前だったら、もっと早く行動できただろうな。完ッ全に腕が鈍ってるぜ」


 ガイルは、オスカーを責めるというよりは、オスカーの後悔にあえて便乗して、冗談っぽくそう言った。そして「がはは」と豪快に笑い飛ばす。


「まったくだ。最近、ろくな訓練もできてないんだ。急に不安になったきたよ」


 オスカーはガイルに縋りつくような視線を向けてそう言った。

 オペラハウスからメイを救出したときも、夜道で暴漢に絡まれたときも、オスカーは冷静な態度で、落ち着いて対処していた。メイにとっては、頼りになる存在だった。だからこそ、そのオスカーが弱っているようなしぐさを見せるのは意外だったし、とても不安な気持ちになった。同僚の前なので、リラックスした態度を取っているだけかもしれない。そう願いたかった。


「そう言っていても仕方ないだろ」


 ぴしゃり、とケニーが口を挟んだ。


「みんな現状も理解できていないんだ。オスカー、お前が正しく指揮をとらないと、『全員、死ぬぞ』」


 ケニーはまっすぐオスカーを見て、そう言い放つ。オスカーはそれに、力強く頷いて返答した。

 ガイルは重機関銃を背負い、ケニーは小銃を手に持っていた。そのほかも、小銃や短機関銃を選択している者が多いようだ。――意外だったのは、カーラというメイドだった。丸眼鏡をした、黒髪で、前髪がぱっつん、おさげのメイドだ。彼女は食事の際もパテルのすぐ隣に座っており、信頼を置かれているようだった。無口で、線の細い彼女だったが、手には重機関銃を装備していた。


「人数の差もある。我々は包囲されている。ここは要塞なんかではなく、ただの屋敷だ。形は中世の城のような形にはなっているが、今は時代も違う。ここは戦闘用に設計された城塞とはわけが違う。相手の人数から察するに、相当金をかけた集団だ。訓練もしっかりと受けているだろう。我々は圧倒的な不利に立っている。――要するに、現状は絶望的だ」


 オスカーは武装したみんなを順番に見つめながら、現状の整理をする。彼の言葉の通り、どうやら現状は絶体絶命。死の淵。絶望の丘のようだ。


「――が、我々には守らねばならぬものがある。今はとにかく、戦うことが必要だ」


 オスカーは言う。全員、腹を括って欲しいということだろう。ここで、全員死ぬかもしれない。相手の正体も、目的も不明なまま、我々は全員、哀れな死体になり、蛆に食われてしまうかもしれない。そうなりたくないのならば、そうさせたくないのならば、戦うしかないのだと。


「それじゃあ、今からそれぞれ何人かの仮分隊に分かれて、俺が配置を指示する。集まってくれ」


 オスカーはそう言うと、どこから出したのか、この屋敷の全体図を開く。

 正面にそびえるA館、そこから渡り廊下でつながったB、D館、そして今現在メイらが立つC館。その4つの棟が囲うのは、庭師たちによって綺麗に手入れされた中庭。


「A館正面がもっとも敵襲の規模が小さいだろう。屋敷の前の噴水とロータリーがあるから、一番見晴らしが良い。ほとんど唯一、俺たちが有利に撃ち合える場所だ」


 だから、正面はこちらも少数の兵士で守り切るしかない。有利に撃ち合えるとっても、敵が一個大隊規模となれば、人数差・物量差は歴然だ。こちらの戦闘要員は、総勢18人の戦闘可能な使用人と、それに加えてオスカー・ケニー・ガイルの、合計21人しかいない。

 使用人の中でも、充分な戦闘訓練を受けている者となれば、さらに減る。厨房係、つまりシェフの6人なんかは、本来の仕事が料理なのだから戦闘訓練などそれほど充実したものは受けれていないだろう。


「オスカー様。こちらは人数が限られております――」


 口を開いたのは、おさげの眼鏡っ娘、カーラだ。重機関銃を背負っている。


「――私はパテル様のツテで、他の者よりも念入りに戦闘訓練を受けています。正面は、私が守ります」


 カーラはそう宣言する。見た目と反して、戦闘力には自信がある、と。

 その言葉に驚いていたのはメイだけでなく、オスカーもだった。


「…………」


 オスカーは不安そうにカーラの顔を見つめる。

 彼としても、カーラを無駄死にさせるわけにはいかない。実際の彼女の力量を測ることができていない以上、過剰な負担はかけられない。


「じゃあ、正面はその眼鏡の子と俺で守るよ」


 今度はシャープな輪郭、シャープな目つきの紫髪、ケニーが提案した。


「……そうか、わかった。……」


 オスカーはそれを受けて、もう一度屋敷の全体図を見下ろす。そして少し思案して、


「敵が攻めやすいのは、A館以外、すべて。――建物が多いな。……そうしたら、そうだな。……残念だが、すべての建物を護ることは不可能だ」


 オスカーは何やら思考しながら、ひとつの結論を出す。


「オスカー様。この際、屋敷を守ることまで考慮する必要はありません。屋敷の破損は、すべて私の使用人長としての監督不行き届きで責任を取ります。――それより今は、犠牲者が出ないように」


 部屋の扉の前でオスカーたちを眺めていたロッサが、口を開いた。自分の要望を口にした。


「……分かった。では、人員はAとC館に絞る。BとDは捨て、あえて侵攻を許す。相手の規模を確認次第、挟撃に移るか、片方だけでも退避するか、次の指示を出す。一番上手くいった場合は、敵襲を中庭におびき寄せることができる。そうすればこちらからは撃ち放題だ。……だが、それにはまず屋敷の正面と裏から侵攻する敵襲を殲滅する必要がある。それに、おそらく敵はこの屋敷の構造を把握している。だから……、」


 オスカーは早口でプランを口に出す。自分自身も、整理しながら話しているようだった。

 彼がこんなに動揺している姿は、初めて見た。


「オスカー、落ち着け」


「……あ、ああ。だから、中庭におびき寄せるってプランはうまくいかないだろう。……指示としては、とにかく防衛だ。徹底的に防衛戦に努めてくれ。この計画で行くならば、やはりA館の防衛を二人だけというのは不可能だ。が、人数を多くしすぎてもその次の行動が限定されてしまう。――そうだな、A館にはケニー、カーラ、それから厨房係の6人が向かってくれ。弾薬の不足を感じたら、無くなる前に逃げろ。俺たちのことはほっといていい。――C館はその他で防衛する。まずは屋敷の外から迫る敵を早期殲滅。そのあと――いや、これは運が良すぎる。最悪のパターンは……、B、D館は防衛なしだから、すぐに敵が侵入できるということになる。……そうだな、今から俺は地雷を取りに行く。それをB、Dの両館に設置する。それでどれだけ遅延ができるかは分からないが、とにかく正面と背後、二正面戦闘になることを覚悟してくれ」


 オスカーは早口でそう捲し立てる。メイには、ガイルの言葉によって彼が落ち着けたのかはわからない。しかし、似た内容を話しているようで、現状分析が少し変わったあたり、脳がいったんクールダウンしたのではないかと思う。


 とにかく、今から行う作戦はこうだ。

 ――東西に位置するB、Dの棟は捨てる。そこには地雷を設置するのみで、相手の侵攻を許す。防衛は屋敷正面のA、リーベルタース家の部屋があるC館に絞って、分散させる。

 敵の目的が何なのかは不明だが、AかC館のどちらかに標的を絞って侵攻してきた場合は、標的にならなかった棟の防衛を担当した戦闘員が背後をつき、挟撃作戦に移る。


 つまり、はじめは二正面戦闘を耐え抜かなければならない。

 上手く耐え抜くことができたら、今度はこちらが挟撃し、相手に二正面戦闘を強制できるだろう。――というのが、オスカーの考えだ。


「時間がない。厨房係と二人はすぐにA館に向かってくれ。ケニー、そっちの指揮は頼んだ。――エルナはロッサ、イザベル、メイ、エル、ネアンの護衛を頼む。この部屋でいい。戦闘ができないのはその5人だけだ。――全員、携帯端末を無線通信の周波数149・53に合わせろ。必要に応じてマイク入力は切っていいが、受信側は決して切るなよ」





   *****





 全員にとりあえずの指示を出したオスカーは、狭い階段を素早く下って、一度自分の武器庫へと戻った。

 地雷を収納したスペースまで辿り着いて、ふと、その横にあるものが目につく。そして、やはり自分は鈍っている――とつくづく痛感させられた。


 それはいわゆるダイナマイトと呼ばれるような兵器だった。

 ニトログリセリンを使用した、強烈な爆発物で、導火線を用いた古典的な方法で遠距離から任意のタイミングでの爆発が可能な代物だ。設置型爆弾、という字面にすると理解しやすいだろう。


「屋敷の防衛より、犠牲を最小限に……」


 オスカーはロッサの言葉を反芻するように、そうつぶやく。


 オスカーは当初の予定だった地雷に加えて、その設置型爆弾を鞄に詰め込んで地上へと戻った。

 自身の部屋へ出ると、すでにそこにはエルナと、彼女の護衛の対象であるロッサ・メイ・ネアン・エル・イザベルの5人しかいなかった。


「他の人たちはもう、他の階に移動したよ。ガイルさんの指揮下で行動してる」


 と、エルがオスカーに情報を提供する。

 リーベルタース邸はすべての棟が4階建て。的を絞られぬよう、戦闘員は4階それぞれにばらけるように指示していた。


「分かった。俺は少しここを離れる、エルナ、頼んだぞ」


 オスカーはそう言い残すと、一階に下り、電気を消した。

 C館だけでは意味がない。静かに、しかし素早くA-C間の渡り廊下に行くと、そこの電灯も落とし、設置型の爆薬をセットしていく。渡り廊下だけではなく、その向こう……A館一階にもセット。そしてそれを、C-D間の渡り廊下、D館でも繰り返し行った。これで、A・D両館の1階は、爆弾だらけになったわけである。


 電気を消し、ダイナマイトを設置し、念のため、C館側に入る廊下へ地雷を設置する。土など、地雷本体を隠すものがないので、大した戦力にはならないだろう。しかし、ないよりはマシ。いくらか遅延にはなるだろうと踏んでいた。

 もしかしたら、この作業もすでに敵から視認されているかもしれない。時間がない。もう、敵は目の前だ。襲撃の瞬間を、虎視眈々と狙っているのだ。


 C館に戻り、自室への階段を昇る途中で、携帯端末とつないだ特殊なイヤーカフ――これは、マイクとスピーカーを兼用した、オスカーが所属する組織の秘密兵器だ――に通信が入る。


『オスカー、こちらは配置についた』


 ケニーの声だ。


「了解、こちらも準備が終わった。念のため、マイクの入力はケニー、俺、ガイルの3人に絞る。それと、B、D館には決して近づくな」


 ケニーにそう伝えると、自室があるC館3階まで上がる。

 自室に入り、メイらの無事を目視で確認。それから、自分用に置いておいた小銃を手に取る。ボルトアクション式のライフルだ。オスカーの装備はこの小銃と、最新兵器である50口径の拳銃。それと手榴弾が一つ。それだけ。


 装備を確認後、自室を出ると、ガイルが立っていた。手には拳銃一つ。これは一般的な国軍のものと同じ形式の、9x19mmパラベラム弾を使用したものだ。


「準備できたか?」


 ガイルがオスカーの様子を心配するような声色で言う。


「ああ。敵はこれ以上待ってはくれないだろうな」


「俺の重機関銃は4階に設置しておいた。しばらくはそこから応戦する」


「分かった――」


 オスカーは念のため、小銃のボルトを半分だけ引き、チャンバーに初弾が入っていることを確認した。


「――それじゃあ、戦争だ」

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