#7 無言の少女
「さああんたたちい、もたもたすんじゃないよ! もうすぐアメリカの私鉄学園との戦いもあるんだからねえ!」
「は、はい!!!」
「はーい♪」
「へいへい。」
かつてフロンティアだった、西部の街に似た上星学園街を臨む荒野で。
演習に精を出す私たちの魔砲戦車群が、土煙を上げている。
「む! こちら魔砲牽引二輪車。敵魔砲戦車群、接近中!」
「オーライ! よし……魔砲陣形、攻撃型用意!」
言われて私たちの魔砲戦車は、矢印型の陣形を組むわ。
「さあー、仇役の魔砲戦車たちい! あたしの光線の錆と消えたかったら、いつでも襲って来なあね?」
「いやいや! あたしの魔砲牽引二輪車で狙い撃ちを!」
「よおっし! ここは私が行っくよー! クリティカルスキル、業火電磁砲!」
「ち、ちょっと火南香乃音!」
……だけど、また火南香乃音ったら!
先輩たちを差し置き、自分の砲火ぶっ放したわ!
「きゃあ!」
「いやあ!」
「く……また君か、火南君!」
監視官も、また呆れたことに。
火南香乃音のぶっ放した砲火は、敵役の魔砲戦車たちをひっくり返してしまった!
◆◇
「まったく……いい加減、加減しなさいよねえ火南香乃音!」
「ご、ごめーん……」
「まあでも……これであたしらが圧倒的に強いって分かったよね!」
「ああ、その通りかもな。」
その夜。
私たちは、かつて利澤先輩に連れて来られた酒場にまた来ていたわ。
「……そう言えば。ええと、あの対戦車誘導弾使い科と多連装火箭使い科の双子は……」
私はそこでふと思い立ち、先輩たちにそう聞いてみた。
……ん、双子? そんなのいたかって?
ええ、いたわよ。
まあ二人とも無口だけど、少なくとも妹の方は登場してるわ。
それは以前の、サンダーバード型を主力とした魔砲獣の群れとの戦いの時。
――さあ今よ多連装火箭使い! ミサイルを発射して! 目標、魔砲獣群直前!
――はい。クリティカルスキル、投石投射。
私をアシストしてくれた、あの多連装火箭使いよ。
「ああ、あの二人はダメだね! 誘っても来ないし。」
「ああ、まあそうですよね……そもそも碌に話しませんし。」
「いやまあ……妹の方は内気だから碌に話しないんだろうなってのは分かるんだけどさ。」
「ん?」
と、風間先輩がふと説明してくれたわ。
「……姉の方はなー。何か、いかにも私はあんたたちとは違うのよって感じしてて……感じ悪いっていうか。」
「あー、ほんそれ! まったく、何考えてんだかねえ。」
「は、はあ……」
風間先輩と利澤先輩が、更にそう話してくれた。
なるほど……
まあ、同意しすぎて草生えるとはまさにこのことね!
「そんなの、間違ってるよ♪ 皆、仲良くしなきゃ!」
「はあ……火南香乃音!」
だけど。
火南香乃音はいつも通り、空気の読めない言動をしてくるわ!
「いや、まああたしたちもチームなんだし仲良くしたいのは事実なんだけどさ!」
「あんたみたいに友達感覚じゃなく、先輩後輩感覚で仲良くしたいってのはあるし! そこへいくとあの双子、妹はともかく姉の方はねえ……」
……ええ、よくぞ言ってくれました先輩方!
「ええ? でも、私たちだって仲良くできたし。あの二人だけ除け者なんて、やっぱり間違ってるよ♪」
「ち、ちょっと……ちょっと黙りなさい火南香乃音!」
私は気がつけば、そう叫んでた。
いや、だって。
こんな場面、どこまでもヒヤヒヤするじゃないのよ!
「何が仲良く、だい! 馬鹿をおいでじゃないよ、あたしらはライバル同士でもあり同時に仲間! しかし、上下関係はしっかり守るべきさ!」
「まあ、そういうことだよ火南。」
「えー?」
「本っ……当に、申し訳ありません先輩方!」
あーあ、もう!
利澤先輩も風間先輩も、すごく不満げじゃないの!
まったく火南香乃音……いい加減、そのなってなさを自覚しなさいよねえ!
「いやいや向氷ちゃん、なんであんたが謝るんだい?」
「わ、私の教育がなってないせいで」
「えー、教育?」
「あーもう! だから……もういいわ。」
火南香乃音……もう!
本当に面倒くさいわね……
「うーん……じゃあ分かった。火南! お前があの石見姉妹と仲良くなって来い。」
「え? ……わーい! ありがとう楓華ちゃん!」
「え!? か、風間先輩ちょっと」
……ほえ!?
う、嘘でしょ!
「何だい向氷、先輩の言うことに不満ありかい?」
「い、いえそんなことは!」
「よし……向氷ちゃん! あんた、その娘の教育係なんだよねえ? なら、あんたも一緒に仲良くなって来な!」
「え? ……ええ!?」
い、いや更に嘘でしょ!?
あの石見姉妹どころかこの火南香乃音とも仲良くなれなさそうな私が、石見姉妹と仲良くなる!?
火南香乃音と?
いやいや……冗談キツすぎます先輩方!
私はそう、直接言ってはいないけど。
心では、そう泣き叫んでいるわ。
「わーい! 行こうよ比巫里ちゃん!」
はあ……もう!
火南香乃音、本当にあんたはお気楽なんだから!
◆◇
「ね、ねえ待ってよ鉱美!」
「何?」
……まあ、気を取り直してその頃。
その双子――石見姉妹は、夜の西部街を歩いていた。
「ほ、本当に……せ、先輩たちについて行かなくてよかったの!?」
「……美葉。あんな雑魚たちに、心開くんじゃないよ。」
「! こ、鉱美……」
……あちゃー。
こりゃ、利澤先輩の言う通りね。
妹はともかくも、姉の方はかなり拗らせてるみたい。
私、こんなのと仲良くならなきゃいけないの!?