#4 風の魔砲少女
「上星学園戦車隊、全速前進! 地下鉄道の奴らを一網打尽にするよ!」
「了解!!」
「ああ、あたしがあっという間に見つけてやるさ!」
そうして。
さながらアメリカ西部劇の街に似た夜の市街地を、私たちは魔砲戦車で駆け抜ける。
「おいおい風間、抜け駆けする気かい?」
「悪いかよ! あたしはこの通り魔砲牽引二輪車に乗ってんでね、あんたたちより身軽なんだよ!」
利澤先輩からの嫌味をそう言って躱すと。
風間先輩は魔砲牽引二輪車を加速して、行ってしまった。
「風間先輩……さあ、私たちも」
「ええ、楓華ちゃんだけズルい! ここは…… クリティカルスキル、業火電磁砲!」
は? 火南香乃音……
……って!
何と火南香乃音の奴、自車の砲塔を真後ろに向け。
そこから火線を放ち、その手元の爆発を利用して加速したわ!
そんな火南香乃音の魔砲戦車は、あっという間に風間先輩の魔砲牽引二輪車へ追いついた。
「な……こ、こら火南! まったくあいつ、私を差し置いて……」
「あ、あわわ……ご、ごめんなさい利澤先輩!」
そこで、私の魔砲戦車の傍らを走る光線砲戦車――利澤先輩搭乗の旗車から先輩の嫌味が聞こえて来た。
私は、ただただ縮み上がるわ……
◆◇
「何だ何だ、火南! あんたやっぱり、あたしと同じで戦闘狂だな!」
「ええっと、そのせんとーきょー?とかは知らないけど……うん、とにかく楓華ちゃんが心配だから!」
「楓華ちゃん? ……ったく、あたしは先輩で友達じゃねえんだけどな!」
「あ、ごめんなさい……」
そうして。
その(魔砲はあるけど)無鉄砲なやり方でどうにか風間先輩に追いついた火南香乃音は、先輩の魔砲牽引二輪車に自車を並走させながら先輩と話してる。
まあでも、ほらね!
あんた上下関係がなってないから、言われちゃったじゃないの!
「……ま、いいか! 今はひとまず地下鉄道の奴らを」
「ねえ、楓華ちゃん! 何でいつも、真っ先に飛び出すの?」
……あらら。
火南香乃音は懲りずに、先輩に呼びかける!
「はあ? そんなの決まってんじゃねえか……あたしらはどうせ死ぬ身なんだぜ! だったら華々しく散ってやろうじゃないかい!」
な、なるほど……。
割と投げやりな理由だったんですね、風間先輩!
「そんなの、間違ってるよ♪」
「……は?」
……ち、ちょっと火南香乃音!
あんた、本当に懲りない奴ね!
「私たち、この新大陸で死ぬために来たんじゃないよ! 生きるために来たんでしょ?」
「……まったく! あたしと近いかと思っていたらどうやら違ったみたいだな! 火南……お前そんなつもりでいるなんて、覚悟足りてねえぞ!」
ええ、まったく同感です風間先輩!
申し訳ございません、うちのルームメイトが!
「……クリティカルスキル、シャドウマギウス。」
「危ない、楓華ちゃん!」
「な! ぐっ!」
と、その時。
突如として姿を見せた敵魔砲戦車が、火南香乃音と風間先輩の専用車を襲撃したわ!
くっ、いつの間に?
まったく気づかなかったわ!
「り、利澤先輩!」
「あいつかい! このあたしの前に姿を現そうとはいい度胸だねえ……クリティカルスキル、豪雷撃投射砲!」
そんな状況を見て。
利澤先輩は自車から、援護射撃として光線の斬撃を放ってくれた!
「……クリティカルスキル、シャドウマギウス。」
「む!? く……あたしの斬撃を!」
むむ、だけど!
敵魔砲戦車は、またも暗闇エネルギーを発して。
利澤先輩の斬撃を避け、夜の闇に紛れてしまった!
「くっ……追わなくっちゃな!」
「あ、待って楓華ちゃん!」
風間先輩はそれを見て、自分の魔砲牽引二輪車を翻して。
高速で、見えない敵を追いかけ始める!
「待ってはあんたよ、火南香乃音!」
「! 比巫里ちゃん……」
そのまま後を追おうとする火南香乃音に、私は自車から呼びかけた。
「ああ……まったく、あたしを差し置くなんてな!」
「も、申し訳ありません利澤先輩!」
……そうよ、火南香乃音!
あんたの尻拭いは、いつだって私がしてんのよ!
……だけど。
「だけど……私は、楓華ちゃんを助けなきゃ! ……クリティカルスキル、業火電磁砲!」
「!? な、何だいこれは!」
「ひ、火南香乃音!?」
何と、火南香乃音は。
天高く自車から火球を打ち出し、高空で炸裂させた!
す、すごく眩しいわ!
「くっ、何だこりゃ……ん!?」
離れて魔砲牽引二輪車を駆ってた風間先輩も、これには目を眩ませるけど。
先輩はすぐ近くに、見たわ。
その光で炙り出された、暗闇エネルギーに包まれ黒くなった敵魔砲戦車を!
「今だよ、楓華ちゃん!」
「!? 火南か……ああ、食いなあ……クリティカルスキル、大嵐弾幕!」
「!? ぐっ……」
そのまま通信で、火南香乃音から合図を受けた先輩は。
同じく目が眩んでいたのか、身動きを取らない敵魔砲戦車に砲撃を打ち込んだ!
たちまち敵魔砲戦車は、少なからずダメージを負い。
一目散に、逃げて行くわ。
◆◇
「何だ、もう撤退? あんたにしちゃあ珍しいね。」
そのまま敵魔砲戦車は、自分の母艦とも呼べる列車魔砲へとたどり着き。
自車が少なからずダメージを負ったことに対し、嫌味を言われる。
「……ふっ。じきに復讐してやる。私のシャドウマギウスの名にかけて。」
さっきの魔砲戦車に乗っていた魔砲少女は、不敵にほくそ笑む。
◆◇
「まったく……柔軟な行動はいいが、独断行動ギリギリだぞ!」
「はい、申し訳ございません!!!!」
そうして、夜が明けて。
私たちは風向井監視官から、叱責を受けた。
まあ、当然といえば当然だけど……
「……しかし! それはさておき、よくやった風間君!」
「ありがとうございます。ただ……今回は、そこの火南の協力あってこそでもあります。」
「そうか……よくやった、火南君も!」
「やったー、褒められた!」
うん、まあでも。
今回は、ある程度は仕方ないかなあ……
「(まったく……待っていろよ! 二度も三度もそうあたしを差し置いて……今に見てろ!)」
……ひいい!
だけど、やっぱり。
また差し置かれてしまった利澤先輩は、内心そんな不満を募らせていたのでした……