#23 霧晴れとワーム
「クリティカル、スキル……」
やめなさい火南香乃音!
このままじゃあんた、暴走しちゃうわ!
「……クリティカルスキル、竜豪炎電磁砲!」
もう、あいつったら!
私が言うのも聞かずに。
あの暴走した時の、スキルを発動した!
たちまち火南香乃音が自車からまた放った砲撃は。
まるで、生きているように唸りやがてそれは、シャドウの所まで到達すると――
「きゃあ!」
「ぐうあ! な、何だこれは!? またあいつか!」
これまた生きているように。
シャドウやサンドに向けて、そこから小さな火球の数々を吐き出して行くわ!
ええ、これだけならまだいいわ!
だけど。
――……クリティカルスキル……
――きゃあ!!
――く……火南! あんた何やってんだい!
ああ、火南香乃音……
また頭に浮かんで来たわ、あんたがあの時敵も味方もなく攻撃しまくった光景が……
「……クリティカルスキル、凍結砲華!」
「!? 向氷ちゃん!?」
「ひ、比巫里ちゃん?」
……なんて、ただただ嘆いているだけじゃダメだわ!
そうよ、よく考えたら火南香乃音が暴走するのは今に始まったことじゃないわ!
「いいからあんたは地下鉄道への攻撃に専念しなさい! 私がわざわざいざという時のストッパーになってやるって言ってるんだから、手ェ抜いたら承知しないから!」
「わ、分かった! ……ありがとう、比巫里ちゃん!」
私が言ってやったら火南香乃音の奴、お礼言ってくれたわ。
ふ、ふん!
いいから、あんたは集中しなさい!
「うん! ……さあ、まだまだ行っくよー! クリティカルスキル、竜豪炎電磁砲!」
「ぐっ!」
「くっ、くそ!」
火南香乃音はまあ当然と言うべきかしら、俄然活気付いて。
地下鉄道の面々や魔砲獣の群れに、その生きているかのような火炎弾ぶち込んで行くわ!
たちまちその熱により、黒い霧や砂嵐は晴れ。
さらに魔砲獣の群れもかなりやられていって、地下鉄道の奴らはジリジリと撤退していくわ!
まあそれも、私が火南香乃音の攻撃方向に氷結弾打ち込んで暴走を止めているおかげでもあるのよ?
「おお、やっぱりやってくれるじゃんあの二人! よし、あたしたちも負けてらんないな!」
「ああ、利澤!」
「美葉、私たちも!」
「うん、鉱美!」
そして第一戦車隊も、反撃の意思を見せるわ。
ええ、そうよ。
私たちの戦いは、これからよ!
――ああ、感じる……私と同じ匂いを! この力は同族か……!
!?
と、その時。
何か地の底から響くような声が聞こえ。
――同族だが、何故か連帯意識はない……これは敵意! 同族嫌悪だああ!
「ぐっ!」
「きゃあああ!!」
「これは!?」
たちまち地震が起こり、さらに地面を掘り飛び出して来る列車の姿が!
「な……あれは列車魔砲!? まさか、あれが地下鉄道の」
「わ、ワーム!」
え?
その地下鉄道保有と思われる列車魔砲を見たシャドウやサンドが、そう叫んだわ!
◆◇
「わ、ワームですって!?」
私たちは目の前に現れたそいつに、ただただ驚くばかり。
ワーム?
それって。
――これはもしや、ワームと同じ……? だとしたらヤバい!
あのブレッシングレイン街の戦いから地下鉄道が撤退する時、シャドウが言っていた単語だわ!
――ああ、初めましてだな地上の鉄道の皆さん……そして、さようならだ!
な、何ですって?
さ、さようなら?
地から響く声の主――曰く、ワームはそう言うと。
たちまち地下鉄道保有列車魔砲を加速させ、更に地震を強めて私たちを足止めし。
その隙にシャドウやサンドの魔砲戦車も収容し、魔砲獣群諸共撤退していくわ!
「く、ワーム……見せなさい、あんたの秘密を!」
私は例によってと言うべきかしら、魔砲鉄道大戦のステータスウィンドウを表示させるわ!
すると――
「く、すぐ消えたわ! だけど……忘れない!」
ええ、一瞬だけどこの目でちゃんと見た!
名前:????
年齢:??
グレード:?
ジョブ:??
スキル:地震弾発射
クリティカルスキル:掘削地龍
恐らくいいえ、確実にワームのものであるステータスがね!
◆◇
「ふう、戻ったか……ひとまず! 皆、ご苦労だった。フロンティアには辿り着けなかったが、護衛対象は守り通し誰一人欠けることなく帰還できたのだから!」
「はい!!」
そうして私たちは、上星学園街へと戻って来て風向井監視官から激励の言葉を受けたわ!
ええ、私たちは誰一人欠けなかった。
でも。
「……しかし! 中国の魔砲少女が行方不明になっているとは何とも残念なことである。我々もできる限りの協力はしたいとは言ってある、これからも中国とは仲良くしていこう!」
「はい!!」
「はーい♪」
そう、中国では行方不明者が出てしまったの!
◆◇
「これで正式に、彼女に片道切符を売ることとします……晴れて彼女、スモッグは地下鉄道の戦闘乗客です!」
――ふっ、まあよいだろう……
「ありがとうございます……ワーム。」
そうして。
どうやらあの戦いは、スモッグなる魔砲少女の地下鉄道への任命試験だったらしいわ。
結果は、晴れて合格みたい。
……だけど、このスモッグ。
「……是! これからは私がこの片道切符を買い続けられるよう頑張ります、シャドウにサンド。」
是――はいを意味する中国語。
そう、彼女は行方不明になった中国の魔砲少女その人!
まあそのことは後で知ったことなんだけどね。
「ああ、頑張れよ!」
「あなたは、いつ私たちと同じ特急券を手にするかしらね?」
シャドウとサンドも、スモッグに答えるわ。
「失礼、遅れてしまったかな? 新しい乗客を迎えるおめでたい宴に。」
――おや……よく来てくれた!
え、ええ!?
ま、まあこれも後で知ったことだけど……
この地下鉄道のアジトになっている魔砲獣の森に現れたのは、何と!
私たちが護衛していた、カザン増山氏!
ま、まさか彼まで地下鉄道と通じていたなんて……
「ああ、私も彼女のテストに一役買わせてもらったが……素晴らしかったよ、スモッグ!」
「謝謝、カザン氏!」
スモッグは増山に、そう答えたわ……
ああ、もうこれからどうなるのかしら!?
◆◇
「ああ、来る。魔砲獣たちが……私を迎えに。」
その頃、フロンティアに程近い街では。
私たちと同じくらいの女の子が、何やら空を眺めているけど。
……なんてことかしら。
その娘の見る先には、実際に魔砲獣たちの小さな群れが!
そう、次のキーパーソンはこの娘。
こんな女の子を巡る戦いが待っているなんて、この頃の私たちにはまだ知る由もなかったのでした――




