#18 重要人物現る
「さあ……見えて来たぞ! ここが中国と日本の緩衝地帯だ!」
「あれが……」
アメリカとの領土戦の末、新たな街――戦いで降った雨を讃えて、ブレッシングレイン街と名付けられたわ――を建設して間もなく。
私たちはいつも通りというべきかしら、列車魔砲・上星号に乗りとある街を目指していたわ。
そこは今も言った通り、中国と日本の領土の緩衝地帯に当たる街で。
「はあ、だけど……何でブレッシングレインをぶん取ったあたしらが要人護衛で、第二戦車隊がそのブレッシングレイン護衛なんだろうな!」
風間先輩はそう、消え入るように呟いたわ。
そう、私たち上星学園第一戦車隊は第二戦車隊と入れ替わる形でこの街に回されて来たの。
「おやおや、風間。要人護衛はお好きじゃないかい? これだって、かなり出世しそうな案件なんだけどねえ。」
「まあそうだけどさ……なんか、取り替えられた気分でな!」
風間先輩は、口を尖らせながらそう言う。
まあでも、その気持ちは分からないでもないわ。
どちらかと言えば新しい街の開拓と防衛の方が、花形の仕事って感じですものね……
「まあまあ……今回の護衛対象は、そんなちゃちな人じゃないらしいよ?」
「え?」
だけどそんな風間先輩に、利澤先輩がそう言ったわ。
え?
ちゃちな人じゃない、ですか先輩?
じ、じゃあ護衛対象は誰なんです?
◆◇
「いやいや、どうもどうも! まさか、いつもあなたたちに武器売ってる側である私が護衛される側に回ることになろうとはね!」
「いえいえ、ここはご遠慮なく。今日はあなたの方がお客様なのですから!」
そのお客様を、風向井監視官が列車魔砲前でお迎えになるわ。
そう、お客様――各国に魔砲戦車を売る新大陸鉄道技研の最高技術責任者・カザン増山氏。
ハゲ……じゃなくて。
頭ツルツルの壮年男性って感じの人だわ。
なるほど、確かにちゃちな人物ではないですね先輩……
「しかし最高技術責任者が直々に、最前線の領土まで視察にいらっしゃりたいとは……お噂以上に肝の据わった方でいらっしゃる。」
「ははは! ええええ、そうでしょう? まあ、我々はこの新大陸を切り開く魔砲戦車を世界で初めて開発した会社! その重役が務まるのは、やはりそのぐらいの器がある者でなければねえ!」
「な、なるほど……」
場違いとも言えるほどにテンション高いカザンさんに、監視官はちょっと引いているご様子だわ。
そう、今回の任務は。
このカザンさんが赴かれる、新大陸の人類と魔砲獣の境界線となっている場所まで彼を無事に送り届けること!
◆◇
「……どうぞ、粗茶ですが。」
「ははは、いやあいやあありがとうありがとう!」
その後。
私たちはカザンさんを、自分たちの列車魔砲上星号に乗せ。
お茶やお菓子で、おもてなししていたわ。
……メイド服を着て。
「いやはや、殺風景な中でのお茶というのも乙なものですな!」
「ええ、お気に召していただけたら何より何より。」
カザンさんの言葉に、利澤先輩はにこやかに答えているわ。
と、そこへ。
「ねえ比巫里ちゃん! すごーい、私たちの列車魔砲に別の列車魔砲が並走してきてる!」
ちょ、火南香乃音!
あんた、お客様の前で恥ずかしくはしゃいで……え?
「り、利澤先輩! あれは」
「ああ、ありゃ中国の私鉄学園の奴らだよ! 万が一地下鉄道が襲って来た時のための予備として控えてんだけど……いざとなったら漁夫の利を得ようってのかねえ。」
あらら。
何か、やな感じです先輩……
そんな不穏な雰囲気と、護衛対象を乗せて。
私たちの上星号は、フロンティアを目指すわ――
◆◇
「……申し訳ございません、ワーム!」
その頃。
とある森――あの魔砲獣が築いたオアシスと、同じ植物で構成されているわ――に、あの地下鉄道のシャドウ・サンドの姿があったわ!
――……特急券の乗客が、聞いて呆れるな!
「はい……」
「で、でも! し、シャドウは」
「今は黙っていろ、サンド。」
「!? ええ……」
弁解しようとしたサンドを、シャドウが制したわ。
――自らの持つ、券に対する見合った働きが払えなければ……そんな乗客にはさっさと降車してもらう!
「はい……」
シャドウとサンドが見つめる、その先にいるのは。
何やら身体を横たえた、長大な容姿を持つ物体。
ワーム・ディガー――それは彼女たちがワームと呼ぶ存在。
地下鉄道の頂点に君臨する存在そのものだった――




