#17 次の任務まで
「乾杯!!!!!」
「さあさ、今日は出血大サービスだよ! たんまり食いな!」
「いやーありがとうママ! でも、それ毎回言ってくれてる気がするけどね!」
いつも通りというべきかしら、上星学園街のママの店で。
私たちは、戦勝の祝杯を上げていたわ。
「だけど、あの火南って娘はどうしたんだい? いつも賑やかな分、いないとひときわ寂しいねえ!」
「あ、ああそうだねママ……」
「ん?」
と、ママさんがそんなことを言い出して。
私たちも思わず、酒(しつこいようだけど、ノンアルコールのね!)が止まるわ。
そう、実は。
この場に、火南香乃音はいないの。
◆◇
「今日はご苦労様。棚ぼただったとはいえ、あの森周辺の地帯が我が上星学園街のものになったのだから!」
「は、はい……」
話は、少し前。
私たちが、あの領土戦を終えた後――とは言っても、ついさっきのことだけど――に遡るわ。
街に戻る魔砲戦車搭載列車魔砲・上星号の中で。
風向監視官は利澤先輩や風間先輩に私、石見姉妹にそう告げた。
まあ、ご存じの通り。
ここに火南香乃音の姿は、既にないわ。
――クリティカルスキル:|業■電磁□《カタ#ロフ-レー◯ガン》
――……クリティカルスキル、竜豪炎電磁砲!
そう、領土戦のさなか。
そこへ雪辱とばかりに乱入してきた地下鉄道の奇襲に対し私たちは抵抗したけど。
その時何と私が見ている間に、火南香乃音のユーザーインターフェイスにはノイズが入り表示が揺らいで――
「……監視官! すみません、出しゃばり過ぎて申し訳ありませんが……火南香乃音が発動した、あのめちゃくちゃな技はどういうことなんですか?」
「! 向氷君か……」
「!? む、向氷ちゃん……」
私は気がつくと、思わずそう聞いていたわ。
「ああ、すまないな……君たちにも随分と心配をかけたが、あれは魔砲鉄道大戦と火南君自身のちょっとした不調だ! だから君たちは、心配しなくていい。」
「ちょっとした不調、ですか……」
嘘だ。
監視官からの言葉に、私はそう直感したわ。
――まだまだ、行、っく、よ……クリティカルスキル……
あの時の火南香乃音の様子は、とてもちょっとした不調なんてものには見えなかったんだから。
……でも。
「そうですか……教えていただき、ありがとうございました!」
私はそれ以上、聞けなかったわ。
◆◇
「……利澤先輩。あの火南香乃音の様子は」
「ああ、そのことについて向氷ちゃんや石見姉妹――あんたたち後輩には一つ伝えなきゃいけないことがある。」
そうして、現在の酒場の場面に戻るわ。
ママさんが他のお客さんの接待に入ったところで、私が利澤先輩にそう言うや先輩は。
そう、返してくれたわ。
「……何ですか?」
「あれを――こう表現していいか分からないが、暴走した魔砲少女を見たのは今日が初めてじゃない。今まで何度かあんな風に暴走した挙句、いなくなった魔砲少女たちをあたしらは何度か見てるんだ。」
「ああ、利澤。」
え!?
そ、そんな……
「じ、じゃあ……あれは一体どういう」
「すまない! 話せるのはこれまでさ。あたしらも最初のうちは、向氷ちゃんあんたみたく監視官に聞こうとしたよ。でも、やがてね……このことはどうも触れちゃならない禁忌らしいことが分かってね。」
「!? は、はい……すみません。」
……はい、そうですね先輩。
私も、何となく既に感じています。
とはいえ。
――クリティカルスキル:|業■電磁□《カタ#ロフ-レー◯ガン》……
火南香乃音……
あんた一体、どうしたって言うのよ?
◆◇
「よし……これより、街の建設が始まる! 第一戦車隊は心して護衛に当たれ!」
「はい!!!!!」
「はーい♪」
それから数日後。
日米領土戦で私たちが獲得した森のすぐ近くで。
新たな街の建設が始まったわ。
私たちは既に、列車魔砲・上星号から自車をそれぞれ分離していて。
それらが建設現場を周回し、警戒に当たっているわ。
あ、もちろん建設機械も列車で運ばれたものよ?
そしてそこには。
「まあ火南……あんたは病み上がりなんだから無理すんじゃないよ!」
「はーい♪」
元気そうな、火南香乃音の姿も。
はあ、まったく……心配して損したわ!
あ、べっ別に!
そ、そんなに心配していた訳じゃないんだからね!
◆◇
「今日は大丈夫そうだな……このままなら、これからある要人護衛任務もこなせるかもしれん……」
風向井監視官は、そんな私たちを見て独りごちているけれど。
要人護衛任務、ですか?
また、波乱の予感です……
◆◇
「切符を一つ、お願いします!」
「……合言葉は?」
「友達のいる友達!」
そんな中。
とある街で、一人の少女が同じく一人で佇む男に声を掛けていた。
「はい……片道切符? 往復切符?」
「……片道切符でお願いします。」
「! ほう?」
一人の少女が男――券売人なる人に語った、片道切符。
それは他ならぬ、あの地下鉄道の言葉。
ここにも、波乱の予感があったのでした――
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